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Take the devil 11
しおりを挟む空間が歪み終わると見るからに凶悪そうな禍々しいフルフェイスの黒い鎧に身を包んだ男が立っていた。
「何時から気が付いていたのですか?」
鎧の男の声は冷たかった。
「最初からだよ。クソ野郎の臭いがプンプンしていたからな。臭くて敵わなかったぜ!」
「酷い言われ方ですね」
「そりゃ、そうだろう。お前は主君であるヘルザイムを裏切ったんだからな。
そんなヤツに好意的になる必要ないだろう!」
「あなたは以前、ヘルザイムと戦っていたのではないのですか?」
「以前はな! が、今回はヘルザイムが雇い主だ。
俺にとっては契約がすべてだ! 人間とか魔族とか・・・・・そんなことはどうでもいい!!」
「そうですか。私としてはヘルザイムの娘をこちらに渡してくれさえすれば良いのですがね」
「それは出来ない! さっきも言っただろ契約がすべてだ! ライザを魔属領へ届けるのが今回の仕事だ!」
「あなたは契約がすべてだと言った。なら、あなたを雇うのはどうすれば良いのですか?」
「俺の欲しているモノが契約料だ」
「それはコレですか?」
とデュランダルは言うと空中から拳より小さめでいびつな形をした透き通ったオレンジ色の石を取り出した。
男は一瞬、怯んだ。まさかデュランダルが『欠片』を持っているとは思っていなかった。
男はそれを悟られぬように大袈裟な身振りを交え答えた。
「おおお!それそれ!!」
「コレですか。ならばコレをあなたに差し上げましょう!!」
「おおお、さすがデュランダル様!! 話がお分かりで!!」
と男はさっきまでの威勢はどこへやら、揉み手をしながら媚びへつらった。
「では早速、ヘルザイムの娘をこちらに渡してください」
「いやーーー流石にそれは出来ませんよ~ 先約がありましてね~
極悪商人なあっしですが、先に契約したことが優先なんですよ~
それはどこの世界へ行っても同じでっせ~~旦那!」
「もう一度、言います。ヘルザイムの娘をこちらへ渡してください」
「いや~~それが出来ないんですよ~~
もし宜しければ私がライザの姿をしたドロ人形をお作りしますが、それでご勘弁していただけませんかね~」
と男は揉み手をしながらデュランダルと交渉した。
「ハハハハ! あなたは面白い男だ。
私がそれで納得すると思っているのですか?」
「そこを何とか妥協していただけませんか」
「そうか。では、交渉決裂だな」
と言うとデュランダルは『欠片』を握りつぶした。
欠片は砂状になり風に飛ばされ、その砂も静かに消えていった。
「あ~~あ! おい! どうするんだよ!! その『欠片』が復活するのにどれくらい時間が掛かると思っているんだよ!!
それに、必ずこの世界で再生するとは限らないんだぞ!!」
とさっきまでの下手に出ていた態度とは異なり横柄な態度で頭を掻きながら答えた。
「こんな石ころにどれほどの価値があるというんですか? 人間の考えることは分かりませんね」
とデュランダルは首を振った。
「さっきから気になっているんだが、お前らはいつから手を組んだんだ?
デュランダル! お前は一応、四天王の一人だろ?」
「なぜ私が勇者たちと手を組んでいると分かったのですか?」
「ヘルザイムに裏切り者がいると聞いていた。
俺が前に来たときにはこの世界に転移系の魔法は聞いたことは無かった。
勇者達が先回りした時点で、転移魔法を使える者が裏切り者だ。
そして中にいる者に考慮して装甲車にとどめの魔法を当てなかった。
なぜ撃たなかったか?それはライザがいるからだろ。
なぜライザが必要なのか? ライザがヘルザイムの娘だからだ。
ヘルザイム一族の姫をモノにすれば魔王への玉座は一気に近づくだろ?
なかなかの名推理だろ?」
「ハハハハハ、ガバガバな迷推理ですね。
勇者たちが転移魔法を使える可能性は考えなかったのですか?
裏切り者が四天王とは限らないでしょ」
男は頭をポリポリ掻きながら
「転移魔法なんて、そうそう使えるモノじゃないだろ!
勘だよ勘!! 長年生きていた勘だ!」
雑な推理を看破され男はキレ気味に言い返した。
「で、お前たちはいつから繋がっていたんだよ!!」
「そんなこと、最初からに決まっているじゃありませんか!
勇者が召喚されるのを待っていたんですよ」
「デュランダル! お前は最初から『魔王の座』を狙っていたということか?」
「一応、そういうことになりますか」
「一応? 何だそれ! 狙っているんじゃないのかよ!」
「一応、狙ってはいますけどね。まぁ~それ以外も色々と」
「いい性格してるな! あまり欲をかくと足元救われるぞ! 主に俺にな!
で、魔王になってどうする気だ? 人間界に攻め入るのか?」
「少なくとも私が魔族界を完璧に掌握するまでは、相互不可侵条約を結びますよ」
「平定し終わったら人間界に侵攻するのか?」
「まぁ~そうなるでしょうね」
「おいおい、美人な女勇者さんよ~あんなこと言っているぞ! いいのか?
あいつ裏切る気満々だぜ! 俺と一緒になってプスッとやっちゃった方がいいんじゃないの?」
と女勇者をはじめ召喚された他の二人の表情をうかがった。
「ハハハハハ、勇者たちを篭絡しようとしても無駄ですよ。
彼女たちはこの戦いが終わったら元の世界に私が送り返してあげる事になっているのですから」
「お前! ゲートキーパーの力を持っているのか!!」
男が驚くのも無理は無い。
同一の世界を行き来する者は時々いるが、異世界を行き来する能力を持っている者は神以外ほとんどいない。
多くの異世界を行き来してきた男でも神以外で出会ったのはデュランダルで3人目だった。
男も転移出来るがスキルや魔法ではなく男の持つ『転移のペンダント』の力であった。
ゲートを使って同一の世界を行き来するのを『ゲート使い』と言いう。
他には召喚紋などを使って移動する者いる。
広い意味で召喚紋も『ゲート』に含まれ一緒に語られることが多い。
召喚紋は術者がいなければ転移できない。が、『ゲート』の場合は一定の条件さえクリアすれば術者がいなくても転移が出来る。
条件は術者が決めることが出来る。例えば、魔石だったり一定の魔力を注いだりと。
が、『ゲート』も移動できる地点に同じ『ゲート』や召喚紋がなければ移動できない。
術者の力により人数や量など制限があるが、それでも『ゲート使い』の価値は無限なのだ。
異世界から召喚、帰還は大型の召喚紋を描き、ほぼ儀式のような大掛かりになってしまう。
その儀式を簡略させることが出来る者を『ゲートキーパー』と言われている。
異なる世界を自由に行き来できる・・・・・・それは普通の人間、大量の魔力を有する魔族などにしても簡単には出来い業。
神かほぼ神に近い力を持った者しかいなかった。
(チッ! こいつ神かもしれねーな! 面倒だ!)
男は心の中で舌打ちした。
男は厳しい顔から一転して柔和な顔をしながら
「なるほどね~だからお姉ちゃんたちは協力するしかなかったってことか。
この世界の奴ら酷いもんな~ 帰還方法などお構い無しで召喚するからな~
そのおかげで200年前、この国のお姫様と結婚させられそうになったからな~」
男は200年前に召喚されたときの依頼主であった姫様を思い出した。
ゼンセン城をほぼ無力化し人類への脅威をほぼ解消したある日にお姫様は言った。
「シロ!
私たちの力ではお前を元の世界に送り帰すことは出来ないんだ。すまない。
本当に心から申し訳ないと思っている」
金髪の美しい姫は深く頭を下げた。そして意を決し!
「だから私がお前の妻になる。 コレでも家事炊事は得意なんだぞ!
自分で言うのもなんだが、いい嫁になると思うぞ!」
とモジモジと赤い顔をしながら言ってきたのを思い出した。
「あっ! 大丈夫! 俺、自力で帰れるから心配するなよ!」
と右手を挙げあっさり答えた後に目が点になっていたことを。
そのあと「バカバカバカ!」と言って涙目になりながら殴られた。
あ~~なんて酷いヤツなんだろう!と思わないでもないが、異世界から来たどこの馬の骨とも分からないようなヤツが一国のお姫様を嫁に貰うわけにはいかないだろう。
王女には兄が二人いて王位を継ぐことは無かったが・・・・・結婚なんかすれば子供を欲しがることだろう。
いずれは王家の争いに巻き込まれるだろう。
何より俺は子供、それどころか孫、僧孫・・・・・それ以上の代まで生き続ける。
目の前で自分の子孫達が死んで行く様を見続けなくてはいけない。
これ以上の地獄、苦しみは無いだろう。
別に幸せが欲しいわけでもない。
俺が欲しい物は『欠片』それ以外何も無い。
男は昔のことを思い出し終わると異世界から来た召喚者たちを見た。
「まぁ~俺には関係無いことだな」
と頭を掻きながら面倒臭そうに言った。
「が、お前たちは許さないけどな!!」
「何を許さないのですか? 4対1で異世界から来た召喚者と四天王の一人である私に勝てるとでも?」
「3? 2?・・・・・・いや、1回かな?」
と自分の死ぬ回数を算段した瞬間、右足に力を込め地面を蹴った。
左手首の内側にセットしてあるマジックバッグから黒い靄が纏わり付いてる刀を取り出しデユランダルへ向け左から右へ水平に薙ぎ払った。
ボトッ!
という音とともにデュランダルの首が地面に落ち、直立のまま体が後ろに倒れた。
異世界から来た召喚者たちは一瞬何が分からず直立のまま唖然としていた。
スパイクを持った大男が我に返り「デュランダル!」と叫んだ。
男は上から下へと刀を振り払い血を掃った。
異世界から来た3人は慌てて男との距離を取った。
「お前! スゲーな! デュランダルを瞬殺かよ! 奴は相当の手練れだぞ。
竜騎士とドラゴンを葬った腕は伊達じゃないというわけか!」
大男はそう言うとスパイクを構えた。
「止めなさい!」
女勇者が大男を止めた。
「はぁ~」
と女勇者は肩で一度溜息をついた。
「あなたのせいで私たちは元の世界に帰れなくなってしまいました。
どうしてくれるんですか?」
「どうしたもこうしたもお前たちがデュランダルと手を組んでヘルザイムを討ったのが悪いんじゃないの?」
「もう私たちはあなたと戦う理由はありません!」
「ライザはもういいのか?」
「ええ。ヘルザイムの娘を必要としていたのはデュランダルですから。
私たちには必要ありません」
「そうか、なら良かった」
「ものは相談なのですが、あなたはどうやってこの世界に来たのですか? ヘルザイムに召喚されたのですか?」
「ヘルザイムに依頼は受けたが、自力でこの世界へやって来た」
「自力と言うとあなたもデュランダルのように異世界を自由に行き来するスキルを持っているのですか?」
女勇者の言葉に男は黙って頷くと女勇者の美しい顔は明るい笑みを発した。
「でしたら私たちが元の世界に戻るのに力を貸していただけませんか?」
「断る!」
男は冷たく一言言った。
「なぜです? あなたは200年前にこの地を救った英雄じゃないですか?」
「そんなモノ決まっているだろう! 俺がお前たちを殺さないと気がすまないからだよ!!」
「え?」
女勇者は驚いた顔をした。
「分からないのか?」
「もう私たちに戦う理由は無いはず!」
「お姉ちゃん! お前に無くても俺にはあるんだよ!
お前がヘルザイムを殺したんだろ!」
「魔王ですよ! 人類に仇なす魔王を討伐するのは勇者の役目!」
「人類も魔族も、勇者も魔王も俺には関係ねーから!!
俺にあるのは好きなヤツと嫌いなヤツとどうでもいいヤツの3種類しかねーーんだよ!
ヘルザイムは敵ながら気持ちのいいヤツでな。
早い話、俺がヘルザイムを好きだったということさ!」
「男同士で好きとかキモ! 人間と魔族を超えた愛! しかも男同士の恋! BL!! フッ!」
と赤い修道服を着ているシスターの口が馬鹿にしたように笑った瞬間、男が消えたと思ったら一筋の閃光が走った。
シスターの体は血を吹き上げ右脇腹から心臓を通って左肩へ線が入ったかと思うと上半身は地面に滑り落ちた。
「シスター!」
「シスター!!」
女勇者と大男が叫ぶ。
男はまた刀を上から下へ一振りし血を払った。
「クソアマが! BL呼ばわりなんぞするな!!」
刀を右肩に載せ左手を前に突き出し指先を曲げながら言った。
「さっさと終わらせるぞ! 掛かって来いよ!」
大男は顔を真っ赤にさせスパイクを振りかぶり襲い掛かってきた。
右左右左と振り下ろすが男は左右左右と軽々かわす。
「おいおい、木偶の坊! そんな腕でヘルザイムの城によく入れたな~
生きて出て来られたのが不思議だ!」
その言葉に大男は足元を狙い横に薙ぎ払うが男はジャンプしかわす。
「おいおい、そんな雑な戦い方があるかよ! 城にでっかいペンギンがいたろ!
あいつよりも明らかに弱いぞ!」
「うるせーーー!」
話しながらも大男の攻撃を軽々とかわす。
「ペンザはどうした? 倒したのか?」
「あいつは捕虜だ!」
「あ~~捕まったのか! あいつ親父に似て体力だけはありそうだからな」
「今日にも処刑されるはずさ!」
「あぁ~そう。可哀想に。親父より先におっちぬなんて親不孝なヤツだな~」
「貴様! 他人事みたいに!」
「何言ってるんだよ! 他人事だよ! あいつがどうなろうと俺の知った事じゃない。
弱い自分を呪えよ!」
「いやーーーー!!」
後から聞こえてくる声で振り向くとライザが装甲車の上に立っていた。
「ペンザを助けてあげて!!」
「ライザ! お前は装甲車の中に入ってろ!」
大男は隙を見つけたとばかりにスパイクを男目掛け叩きつけた。
スパイクが振り下ろされ瞬間、刀で受けた。
バシュ!
ドダン!
刀が当たったところからスパイクが切断された。
男は止めを刺そうと踏み込んだ瞬間
「危ない!!」
女勇者が男目掛け雷撃の魔法を撃つ。
男は左腕を前に出すと雷撃の魔法は男の袖の下に仕込んであるマジックバッグに吸い込まれていった。
「私の魔法が!」
女勇者からは魔法が霧散していくように見えた。
「お姉ちゃん! ナイスタイミングだな!」
と女勇者の方を見ながらナイフを召喚し大男の胸に目掛け投げつける
グサッ!
という音が聞こえたかと思うと大男は膝から崩れ前のめりに倒れた。
「戦士!!」
「残るはお姉ちゃんだけだ。最後に聞きたいのだがヘルザイムの最後はどうだった?」
女勇者は金髪を靡かせ大剣を構え男と向き合った。
「立派だったぞ! 最後まで死力を尽くし正々堂々とした戦いだった!
魔王にしておくのがもったいない男だった!」
「あいつはバカだな~ 俺のようにセコイ手を使えばいいものを!
魔王のクセにバカ正直なやつだったからな・・・・・」
『ふうー』
と男は一度域を掃くと
「残念だな~パツキンでこんな美人なのに、お友達になりたかったな~~・・・・・運命って残酷だよな~
お姉ちゃん! 行くぜ!!」
二人は一瞬で距離を詰める。
女勇者が水平に大剣を薙ぎ払った瞬間、男は身をかがめ刀を下から上へと振り上げ女勇者の両腕を切断した。
両腕は宙に舞い大剣を握ったままドスンという音とともに地上に落ちた。
「ウギャーーーー!!」
女勇者は両腕を天に挙げながら両膝を地面に着いた。
「ウウウウ! 腕がーーーー!!」
女勇者は呻きながら痛みを堪えていた。
「お姉ちゃん! あなたはヘルザイムの名誉を汚さなかった。 ちゃんと葬ってやるよ!」
というと刀を後ろに引くと跪いている女勇者の左胸を鎧の上から突き刺した。
女勇者の鎧も相当な業物のはずだが男は豆腐でも刺すかのように力を入れること無く難なく突き刺した。
女勇者は静かに前のめりに倒れた。
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