迷子の僕の異世界生活

クローナ

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第2部 『華胥の国の願い姫』

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ほんの少し予定を過ぎ沢山のキスで起こされた俺は心地よさの誘惑を振り切るために気合を入れてベッドから出たのにいつもの時間に台所へ向かうとジェシカさんとハンナさんがすでに仕事を始めてくれていて、お出かけの日はどうしたって慌ただしい朝に子供達を起こす時間までゆっくりするようにとクラウスとふたりで目覚めの紅茶をいただいてしまった。

そんなのんびりとした始まりの桜まつりの最終日、ふたりに手伝ってもらいエレノア様から頂いた新しい春の外出着に着替えた子供達は門扉の前で可愛らしく一列に並んでいた。白の長袖シャツに濃い青色のクロスタイ、若草色のベストにハーフパンツ、サーシャはキュロットスカートで茶色のショートブーツがキマってる。

「忘れ物はないかい?」

「「「な~い!」」」

「ディノ、約束は覚えてるかい。」

「えっと、はしらない!はなさない!」

「うん、お利口さんだ。絶対一人になったら駄目だよ?」

「はーい!」

「では出発しよう。」

子供達の元気な返事にノートンさんが満足気に頷くのを合図にハンナさんが門扉を開けた。

「行ってらっしゃいませ。」

「よろしくお願いします。」

『桜の庭』の仕事はハンナさんに任せてジェシカさんが同行してくれることになった。マリーとレインなしの外出は初めてだから凄く助かる。

サーシャはそのジェシカさんと、ロイとライはふたりで手を繋ぎその後ろをノートンさんが続いて歩く。
俺はさらにその後ろを走らない代わりにぴょんぴょん飛んで歩くディノと手を繋ぎクラウスは最後尾だ。

花見の人出は相変わらずだったけどノートンさんに言わせればこれでも少ない方らしい。ずっと咲いてるからみんな見飽きちゃったのかな?

「それもないとは言えませんが今日は新年から続くお祭りの最終日ですから売り尽くしで商人も客もどちらが得をするかでお花見どころじゃないのかも知れませんよ。」

ジェシカさんの発言にノートンさんも興味深げだ。

「ディノ、じっとしなさい。トウヤのてがちぎれちゃうわよ。」

「おててはちぎれたりしないもんねーだ。」

マリーさながら1番前から後ろを振り返りサーシャが注意するけれどディノはどこ吹く風で今日の外出の喜びを全身で表している。確かに千切れやしないけど跳んた拍子に小さな手が離れないようにするのが大変で本当は普通に歩いてくれた方がありがたい。
いつもディノを連れてくれたレインはどうしたっけ。

「ディノ、こっちおいで。」

「ぼくたちとつなごうディノ。」

「うん!」

ロイとライのお誘いに躊躇いなく俺の手を振りほどくとふたりの間におさまって再び跳ねて歩く。
だけどタイミングを合わせたロイとライによってより高く跳ね上がりディノは大喜びだ。

「ろいとらい、れいんみた~い!」

声を上げて笑う姿に受け身じゃ足りなかったと気付いても遅い、いつものお守りがなくて淋しい左手を埋めるものを失った手のひらを握ったりひらいたりしたのをノートンさんに見つかった。

「淋しいならトウヤ君は彼と手を繋いだらどうだい?」

「……大丈夫です。」

こういう時のノートンさんは笑顔だけどなんだかイジワルだ。

本心とは裏腹な返事に差し出してくれた手をクラウスが引っ込めてしまった、たとえ騎士服でなくとも『仕事中の騎士様』は俺が望まなければ触れることはしない。

望まないわけではないけれど子供達の前で手を繋ぐのは少し恥ずかしいし、お守りがなくても魔道具の鈴を身に着けて安全は確保されているから都合のいい理由がない。
なにより今朝ディノとサーシャがクラウスと歩きたがったのを『仕事中』と諦めて貰ったのだから左手が淋しいからと俺だけ許されてしまうのは駄目だよね。

だから今は後ろではなく手を伸ばせば触れる距離で隣を歩いてくれる事で淋しい左手に折り合いをつけた。

桜の道を抜けて教会の広場に近づくに連れ更に人出が増えてきたけど、お揃いの服で歩く子供達の効果か周りに声を掛け道を開けてくれる人がいるのに気がついた。
眩しい春の若草の緑は人混みでもよく目立ち俺もしっかりお揃いだったりする。これまでに試したことすらなかった明るい色はいつもの俺なら絶対に似合わないけど髪と瞳を茶色に変えた鏡の中の俺には不思議とよく似合って見えた。

「変じゃない?」

自惚れてはいけないとクラウスに尋ねれば「よく似合う」と頰にキスをしてそう言ってくれた。でも膝頭の見えるパンツの丈はさすがに気になるみたいだ。

そう今回は丈も子供達と一緒なんだよね。冬用の外出着は普通のスラックスでちゃんとしてたのになんでだろう、春だから?

いくら似合っていても自分の年齢を考えたら痛々しい、いっそ下だけ違うのにしちゃおうかと思ったけど合うのがないしせっかくお揃いで頂いたのだからそんなのダメだよね。一応白のハイソックスが剥き出しの足の大部分を隠してくれるけどベルトを使って留めるから少し面倒だ。でもそうしないとズリ落ちてしまうからこれもガマン、結果俺の見た目の子供みが増してるのは間違いない。

「……ん?」

ふと感じた違和感に視線を向ければクラウスが歩きながら俺の首と髪の間に手を差し込んでいた。

「なんか付いてる?」

「……いや、なんとなく。」
    
視線は首筋に向けたままで一体何をしてるんだろう。
ちなみに髪はいつものようにマリーとレインがくれたミサンガを使って首の後ろで結んでたんだけど玄関ホールでハンナさんに捕まってポニーテールにされてしまったら歩くと毛先がうなじに当たるのが時折こそばゆかったりするけどまさかそれを防いでくれてるの?

「クラウス?」

「なぁやっぱり抱き上げては駄目か?」

「……大丈夫だってば。」

ふたりきりならともかく子供達がいる前でそんなのはよりハードルが高い。残念そうな顔に負けちゃいそうになるからやめてよね。

しばらく歩いて教会の広場の様子が見えてくると子供達は普段はないステージに駆け寄った。

舞台の上ではなんにもないところから花束がでてきたりぬいぐるみが歩いたり不思議なこと次々とが起こる。それは俺や子供達から見たら驚くようなマジックショーなんだけど「あれは風魔法の応用だね」とか「あれは箱の口に認識阻害の魔法が施してあるね」とか「今のはルシウス君の見せてくれた水魔法の劣化版だね」などと元王国魔法士の冷静な解説が横から聴こえてきてしまう。加えて子供ばかりの観客に魔法を使えば当たり前に出来る事なのだと気づいてしまった。

それでも炎の魚や水の花に箱の中から突然現れる綺麗なお姉さんや宙を歩くお兄さん、魅せる事に特化した種も仕掛けもない本物の魔法は華やかで不思議で面白くて子供達と一緒に夢中になって拍手を送った。




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