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第2部 『華胥の国の願い姫』
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しおりを挟むそしてお祭りに行ける事に浮かれた俺はすっかり忘れていた。
「出掛ける前に確認したい事がいろいろあるんだが。」
今俺は部屋に入った途端クラウスに壁ドンされている。こう言うとまるでロマンティックなシチュエーションの様だけど実際は逃げられないように両手で行く手を阻まれていたりする。
「俺はまた何か間違えたか?だったらそれが何か教えて欲しい。」
ですよね、今日1日あんな態度取ってたらそんなふうに誤解しても仕方ないかも。
悪いのは俺なのに誤解させてしまったことが申し訳なくて真剣な顔で俺を見つめるクラウスを直視できなかった。
「クラウスは……何も……その…悪く…ない、よ。」
「ホントに?」
こくんと頷けばクラウスはホッと安堵のため息をついたけれどそれだけでは今日の態度の説明にはならないのはわかってる。
「その……クラウスには今日の俺どう見える?」
やっぱりみんなが言うみたいに子供っぽいよね。それに見た目だけじゃなく態度そのものが子供だ。
「……どう言ったらいいかな。」
勇気を出して聞いてみたら今度はクラウスが目を逸した。
「しょ、正直に言っていいよ。」
誤魔化される方が嫌だ。
「じゃあまずは……似合ってる。後は可愛い。」
「それだけ?」
覚悟を決めたのに当たり障りのない褒め言葉で物足りない。
不服を口にすればいつの間にかほどかれた髪をクラウスがゆるゆると手櫛で梳かしてその一房に口づけた。
「それだけと言われても実際似合ってて可愛いいんだから仕方ないだろう?それに髪の色が変わろうが瞳の色が変わろうが冬夜は俺の可愛い嫁さんだ。」
「そ、そっか…。」
耳が一瞬で熱を帯びたのが自分でもわかった。変化した俺に興味がない素振りをしたくせにそんな言い方、なんかズルい。
「そうだな違いを敢えて言葉にするなら今日の冬夜は普段隠してる内側の柔らかい部分を全部さらけ出してるみたいで触れると壊れてしまいそうだ。それがすごく儚げで見失ったら消えてしまうんじゃないかって思ったらずっと追わずにいられなかった。」
昼間の視線がそんな思いを含んでいたなんて考えもつかなかった。
空の蒼色の瞳が愛おしそうに見つめるから今度は照れくさくてクラウスの顔が見えない俺の背中にそっと回された両手はまるで壊れ物を触るみたいにゆるく俺を抱きしめる。
「色が違っても中身は変わらないよ?」
ほらねってクラウスの背中に手を回し力任せに抱きしめてみた。今日は騎士服じゃないから顔をうずめたクラウスの胸の薄いシャツの下から肌の熱さが伝わってきてドキドキする。
「他には?何でも話すって約束したろう?」
みっともない心の内を知られたくなくて目を逸らし続けた俺に髪を撫で小さい子供を諭すように優しく抱きしめながらそれを言うなんてやっぱりズルい。
「……今日はごめんなさい。みんなに『幼い』って言われてクラウスにも子供みたいに見えてたら嫌だなって思ってた。」
出自を知り、ようやくクラウスの隣に胸を張って並び立てたと思ったのにこんな俺じゃ恥ずかしいって思われたらどうしようって勝手に怖がってクラウスの視線から逃げた。
「それと昨日の夜もごめんなさい。本当は起きてたけどクラウスは何でも気付いちゃうから話したくなかったんだ。」
「それはやっぱり俺が何か間違ったんだよな。」
「違うよそんなんじゃない、ただ俺が勝手に拗ねてただけ。……嫌だったんだ。」
「何が?」
「クラウスがリシュリューさんと馬に乗るの。なんで嫌かってのは自分でもよくわからないけどとにかく二人で同じ馬に乗って帰っちゃうのが嫌でそれにリシュリューさんは大人っぽくなったのに俺は子供っぽいって言われてそれに昨日はキ……。」
「……き?」
「……キスも出来なかったから…。」
素直になるって恥ずかしい。子供に見られるのが嫌だと言いながらあまりにも子供過ぎる考えに呆れたクラウスのため息が聞こえて反省してるのをアピールしてみた。
「こんなの呆れるよね、クラウスはまだ仕事中だったんだしリシュリューさんだって俺の為にあれこれ手配してくれたってわかってる、今夜お祭りに行けるのだって全部リシュリューさんのお陰なのに……う、羨ましいがったりなんかして。」
そう、俺は羨ましかったんだ。
昨日の胸をザワザワとした正体がなんだったのか言葉にしてやっとわかった。
俺はクラウスとの時間をリシュリューさんに取られたみたいで嫌だったんだ。それにあのきれいな手をクラウスが引くのも嫌だったし一緒に馬に乗るのも嫌だった。だってクラウスは俺のなんだから。
こんなの駄目だってわかってるけど相変わらず俺は欲張りで今じゃ我慢することも出来なくなったみたい。
「……恥ずかしいからなんか言ってよ。」
未だ壁際で抱きしめ合ったまま俺は照れくさくてクラウスの顔が見れない。
心の内をちゃんと全部話したのに一際大きなため息を返すだけでなんにも言ってくれないなんてひどい、呆れてるなら呆れてると言えばいいのに。
「冬夜は相変わらず俺を煽る天才だな。」
「何それ今のどこが!?」
思わぬ濡れ衣に顔を上げると両手で顔を掴まれて押し付けるようなキスをされた。
「悪いがこれ以上はお預けだ、せっかく祭りに行く様お膳立てしてもらったのに向こうの部屋に連れ込まれたくはないだろう?ほら準備してさっさと出よう。」
そう言ってクラウスが俺の大好きな優しい顔で笑うから「そうして欲しい」と言いそうになった悪い口を両手で抑え込んだのは絶対内緒にしようと思った。
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