迷子の僕の異世界生活

クローナ

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第2部 『華胥の国の願い姫』

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ひととおり広場の出し物を観てしまうと次はやっぱり屋台の方が気になってそわそわとしだした子供達をみたノートンさんの合図で来た時と同じように手を繋いで並ぶとお昼を兼ねて屋台散策が始まった。もちろんディノはロイとライの間で俺はノートンさんと並んでクラウスはその後ろを歩く事になった。

おもちゃは1つ、ゲームは3回までの制限があるけれど何を食べるかは決まってなくて気になるものを好きなようにお腹いっぱいになるまで食べていい。
それを聞いた子供達は大喜びだったけど案外難しいのだとノートンさんは意味ありげに笑っていたのをみんな気付いてただろうか。

「あ~!あったぁ!じいじのおひげ!」

「あ、でぃのもいくの!さーしゃまってぇ!」

声を上げたのは一番前を歩くサーシャだった。グイグイとジェシカさんを引っ張って行くのに続こうとするディノをロイとライがバッチリ抑え込んでいる。

「「ノートンさん、いい?」」

「もちろんだとも、トウヤくん頼めるかい?」

「はい!」

今日使うお財布は俺が預かっている。ノートンさんに許可をもらって走り出したロイたちに続いてたどり着いたのはふわふわの雲みたいな綿菓子の屋台だった。

「ほい、白いおひげおまちどうさん。」

「おじさんありがとう。」

「すいません、お手数掛けて。」

銅貨を手にした子供達一人ひとりの会計に屋台のお兄さんは嫌な顔ひとつせず対応してくれた。

「いいっていいって、愛し子が来たとありゃ今年の商売繁盛に期待できるってもんさ。」

確かに揃いの服の可愛い子供達が綿菓子を嬉しそうに手にする姿は絶好の客寄せになっていて俺の後ろに列ができ始めている。

「ほいお嬢ちゃんにもお似合いのさくらいろのおひげだ。」

「あ、じゃあ……。」

「これは小さい子の面倒見る偉い子におまけだよ。」

「……ありがとうございます。」

お金を出しかけて昨夜のリリーさんの言葉を思い出しお礼を言ってお兄さんが差し出してくれた淡いピンクの『じいじのおひげ』に手を伸ばした。
名前こそ違うものの綿菓子なんて凄く小さい時に食べて以来だから結構嬉しいかも。

少しひらけた場所で待っていた子供達と輪になって、小さくちぎった綿菓子を口に入れたら懐かしい甘さについつい頬が緩む。淡いピンクの綿菓子はお砂糖の甘さの中にほんのりと桜餅みたいな味がして面白い。

「ね~ね~サーシャのもあげるからトウヤのもちょうだい。」

「うん、どうぞ。」

ちぎってあげると大きな雲を押し込むように頬張って難しそうな顔をした。

「う~ん、おいしいけどなんのあじ?」

「桜だと思うよ。」

「さくらってたべれるの?」

「う~ん、食べれるけど塩漬けとかにするのかな?多分そのままでは駄目じゃないかなぁ。」

「なぁんだ。」

キラキラと目を輝かせたサーシャに曖昧な返事しか出来なかったけどとりあえずそのまま食べる事は回避できたっぽい。

「でぃののもあげるからとおやのちょうだい!」

「はいどうぞ。」

同じ様に頬張ったディノもまた眉をひそめた。サーシャのはピンクで桃の味。ディノは黄色でレモン味、ロイとライはおひげらしく白い綿菓子で記憶と同じ素朴な味がした。
ジェシカさんとノートンさんにもおすそ分けした子供達はクラウスにも狙いをつけた。

「おにいちゃんもあげる!」

「いや、俺はいい。」

「おいしいからたべて!」

クラウスに慣れた子供達の少し強引なおもてなしに膝を折り口を開けると次々と放り込まれる甘い綿菓子を仕方なく飲み込む姿が面白くて苦手だと知りつつも子供達の真似をしてニヤニヤしながら俺も綿菓子をちぎって差し出してみた。

「へへっ。」

「それを俺に?」

「俺のは桜の味なんだよ。」

甘いものを前に苦虫を噛み潰した様なその顔をひと目見たら引っ込めるつもりだったのにクラウスは俺の手首を掴むと綿菓子に大きな口で食らいつきそのまま指までがぶりと食べた。

「もぉ~なにするんだよ。」

「いたずらするからだ。」

確かに悪いのは俺なんだけど触れてこないものだと思って油断してた指は綿菓子が溶けてなくなるまで一緒に食べられすっかりネチョネチョだ。クラウスはフフンと笑いながら汚れてもいない口端を親指で拭い「ざまあみろ」とでも言いたげだけれどこんなの濡れタオル持参だから平気だもんね。
でも全身で綿菓子を食べた様なディノには流石に手こずって、俺がたったひとりをきれいにするうちに残り3人をまとめてジェシカさんがキレイにしてくれていた。

「ありがとうございます。」

「いえいえ、こちらこそ一番の難敵をやっつけていただきました。」

「とおやわるいのやっつけたの?」

「まあそんなとこかな?」

「すごぉい。」

そんな風に尊敬されちゃうとなんだか心苦しい。

「さ、キレイになったよ。みんな次はどうする?」

「「「う~ん、あれ食べたい!」」」

綿菓子じゃさすがにお腹は膨れないけど指を指したのはそれぞれ違うものだった。

「でぃのやっぱりさーしゃとおなじのにする。」

サーシャは昨日俺も食べたお肉の串焼き、ロイはソーセージ、ライはミートパイ、二人が違うものを選ぶなんて珍しい。

「だめよ。」

「なんで?でぃのもおにくがいい!」

「ばかね、おなじのにしたらいろんなのたべれないのよ。」

「マリーからきいたろ。」

「レインもいってたよ。」

「あっ!」

小さな頭をくっつけての話し合いは声が大きくて筒抜けでその様子にノートンさんは目を細めていた。

「どうやらすでに知恵を授けられていたみたいだね。」

『桜の庭』で暮らす子供達にとって今日のようにお祭りでお金を使ったり欲しい物を選んで手にするために知恵を絞るのは貴重な体験学習になるんだろうな。

そうして屋台をめぐり子供達が選びに選んで買い込んだ料理に加えあちこちからおまけがもらえた事もあり、そこに大人の分も加えてピクニックシートに広げたら結構な種類と量になった。




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