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第2部 『華胥の国の願い姫』
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しおりを挟む「手伝います。」
夕食の洗い物を始めたら腕まくりを始めたセオが隣に並んだ。
「手伝うほどの量じゃないですよ。」
「でも今日の俺の分は余計ですよね。自分の休みの為にトウヤさんの仕事を増やすつもりはありません。」
俺が負担にならないノートンさん譲りの物言いは相変わらずだ。増やすどころか俺のほうが半日お休みをもらったと思うんだけどこれをもう一度断るのは失礼だよね。
「じゃあお願いします。」
差し出された手にたわしを譲るとセオは慣れた手付きでお皿を洗い、俺はすすぎ係になった。
「……変…でしたか?」
「え?……と…すいませんよく聞こえなくて。もう一度お願いします。」
セオのつぶやくような声が水音で聞き取れなくて顔を上げたら少しかがんでいたセオもこっちを向いてて思いのほか顔が近くてびっくりした。
「あ、いえその…見てた割には何も言ってくれなかったのでやっぱり似合ってないのかなと…。」
感想の催促をもう一度させてしまったせいで視線を手元に戻したセオの耳がほんのりと赤くなった。
「ふふっよく似合ってて格好良かったですよ。」
「雑な感想ですね。まぁこんな風に聞かれたら『似合わない』なんて言えないか。」
笑った俺もいけなかったけど請求しておいてため息交じりでケチを付けられるなんて思ってもみなかった。そりゃぁ子供達とノートンさんから既に受けた称賛に比べたら二番煎じだし感動も薄まるかもしれないけれどそれを『雑』だなんて照れ隠しにしてもあんまりだ。
「似合ってたものを似合ってる以外なんて言うんですか?それに言えなかったのはセオさんが人気者で近づけなかったからですよ。」
「あ~……そうでした。」
昼過ぎに来て以来ずっと引っ張りだこで夕飯だって誰がセオの隣に座るかもめにもめた。確かにそれをいいことに俺も掃除に励んでしまったけれどずっとそんな状態だったから会話らしい会話は今が初めてと言っても良かった。
「そう言えばトウヤさんも祭りに行くんですか?」
「はい。今の所その予定です。俺のせいで出かけられなかったので子供達もすごく楽しみにしてるんです。」
「あの、脅かすつもりじゃないんでなるべく軽く聞き流して欲しいんですけどここ最近冒険者が子供に声を掛ける姿が何度か報告されてるので気をつけて下さい。」
「え!あ、わっ!」
驚いたせいで受け取るべきお皿が手を滑って流しの中に落ち、音を立てる直前でセオがキャッチしてまた俺の手にそっと乗せてきた。
「そんな事を聞き流せって言うんですか?」
「大したことじゃないんであんまり怖がらないで下さい。実際何も起きてませんし騎士隊でもさほど問題視されてません。」
「全然大したことないと思います。というかなんで騎士隊で問題にならないんですか?それとも何か起きてからじゃないと問題にしないんですか?そこで注視していたら防げる犯罪もあるんじゃ……それに相手が小さな子供だからわかってないだけで本当は───んっ。」
まくし立てた俺の口を塞いだのは泡のついてないセオの二の腕だった。
確かに声掛け=犯罪ではないけれど過去に見聞きしてきた知識で判断するならば軽く聞き流す話には思えない。実際にその時点で何らかの行動が取れたなら大きな被害となる前に防げた事件もあったに違いないと思う。しかもうちの子達がその被害合うかもしれないというのにどうしてセオが『大したことない』と言うのかと思ったら話すうちに気持ちが高ぶってしまい止まらなくなった。
「すいません、でも落ち着いてください。トウヤさんが思ってるのと違います。」
「すいません俺もついムキになってしまって……でもなにが違うんですか。」
セオが悪いわけでもないのに責めるような事を言った自分を戒めつつ声のトーンを落とせばセオもほっとした顔を見せまたお皿を洗い出した。
「その…子供と言うのはチビ達位の子供じゃなくて14,5才の子供なんです。話しかけられたとか後ろから肩を掴まれたとか話しながら少しの間つきまとわれたとか、でもそれほど迷惑行為ではないというか屋台の物を買ってもらったとか無視するとすぐ諦めるとかで遭遇した子供はどの子も怖がってなかったそうですけど親が気にかけて顔なじみの騎士に話したみたいでここ何日かそれと同じ様な話を何度か耳にしてそれで…。」
お皿を洗い終わったセオはしどろもどろと話しながら俺の反対側に回って今度は俺のすすいだお皿を布巾で拭き始めた。手際の良さも相変わらずだ。
セオの話を要約すればもしかしてナンパみたいなものだろうか。でも相手が14,5才なら親としたら不審者には違いない。まぁでも当事者が怖がってない上うちの子供達がターゲットじゃないのなら気にすることもないか。
最初からそう言ってくれれば良かったのに誤解してムキになった自分が恥ずかしい。
「だからその……トウヤさんも人から見たらそのくらいに見えるので少し気になって。」
「あ……。」
そう言う事か。
俺はもう19才だしこの国の成人である16才をとうに越えていると自覚している。
子供の中に身を置いているから忘れがちだけどこの世界での俺の見た目は子供のそれで改めて指摘されるとちょっと傷つく。
目をそらし言い辛そうなセオの態度はそれを知っている気不味さからくるのだろう。それでもこの話をした事の意味がわからない程俺もバカじゃない。
「俺を心配してくれたんですね。」
「──そういうのトウヤさんは苦手かと思って。でも外出の時はクラウスさんもいるから俺の心配なんて必要なかったですよね。」
「そんな事ないです、そういう事があるって知らないより知っている方がちゃんと気をつけられるので。」
事実、何度か失敗してるし。
「相手は冒険者なんですか?」
「俺が聞いたのはそうですがそれだけとは限らないと思います。王都を拠点にしてる商人や冒険者は騎士隊で把握してますが地方を拠点にしている者はどんな人間かわかりません。もちろん騎士隊も目を光らせてはいますが例年より冒険者が多く流入しているのは確かですから一応気をつけて下さい。」
「はい、ありがとうございます。」
「───じゃあ、俺帰りますね。」
「え!?もう帰るんですか?」
「言いませんでしたっけ?日付が変わる時間には警備に入るんで夕飯までって……あれ?」
聞いてませんけど。
少しも悪びれずそう言って拭き終わった食器も全て棚に片付けてしまった。
「俺なんか手伝ってないで休んで下さい。」
「そう言うと思った、大丈夫ですよ俺にはこれがあるんで。日頃助けてもらってるお礼です、なんて皿洗いぐらいじゃ足りないか。」
お日様みたいに笑うセオがズボンの裾を引っ張ると俺が渡したミサンガが足首に結んであった。
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