迷子の僕の異世界生活

クローナ

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第2部 『華胥の国の願い姫』

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朝ごはんが終わって一度目の洗濯を干してるとディノが誘いに来てくれた。

「ね~ぇ、まだぁ?」

「まだだよ、もうちょっと後でね。」

「ちぇ~。」

毎日断ってごめんね、と思うより膨らましたほっぺをはみ出しながら残念そうに去っていく背中がたまらなく可愛いくてついニヤニヤしてしまう。

「よし、頑張るぞ!」

ここから二度目の洗濯物を干す俺を子供達が揃って呼びに来てくれるまでの間に子供達の寝室、プレイルームの掃除を済ます。毎日の掃除は毎日使う場所を優先にしてはかどれば他の場所を日替わりで。

昼寝をしなくなった分子供達の相手をする時間が増えたから掃除の手抜きが気になるところだけどそこは遊びながら一緒に片付けたりノートンさんに助けてもらいながらなんとかやりくりできていた。

そろそろ連日のお花見ランチも飽きてしまった子供達が食堂でお昼ご飯を食べ終わると残った体力を消費すべく再び庭ではしゃぎ始めたそんな中、来客を知らせる鈴の音を鳴らしたのは思いがけない人だった。

「せお~。」

「セオだぁ。」

「わ、ちょっと危ないだろいっぺんに来るな。」

門をくぐるやいなや歓喜して一斉に飛びかかった子供達を掴まえては怪我をしない絶妙な力加減でほおり投げる。
大声ではしゃぎながら何度も投げてもらって気が済んだ頃、ようやくいつもと違うセオの姿にロイとライが興味を示した。

「くろじゃないねセオ」

「あかいのもにあうよセオ。」

鮮やかな赤を身にまとったセオに向けるキラキラとした眼差しは憧れに違いない。

「そうか?」

「うん、セオかっこいい。」

「いい!」

「ははっありがとな。」

脇腹に抱きついたサーシャや肩の上を陣取ったディノにも惜しみなく褒めそやされて照れくさそうに笑うその顔は少しも変わっていないいつものセオだ。
嬉しそうな子供達を眺めていたらはたと目が合った。

「こんにちはトウヤさん。あの…昼寝の邪魔してすいません。」

「最近はお昼寝しないので大丈夫ですよ。セオさんは今日はお仕事ですか?」

俺もなにか言わねばと思っていたのに謝られてその機会を逃してしまった。それにいつもここへ来る時は普段着なのに騎士服を着ているということはクラウスみたいに仕事中なのかも知れない。だったら子供達はがっかりしてしまうよね。

「いえ、これは───。」

「庭がやけに賑やかだと思ったら……。」

セオの返事を遮ったのはノートンさんだった。

「……しばらく来てはいけないと言っただろう。」

子供達がぶら下がるセオに険しい顔で敢えてキツイことを言うノートンさんだけど視界にセオを認めた瞬間の嬉しそうな笑顔を俺はしっかり見たし玄関からここまで小走りだったのを指摘してはいけないだろうか。もちろんセオは俺以上にノートンさんを知っている。

「でもノートンさんだって本当は俺の新しい騎士服姿を見たかったでしょう?」

新しい騎士服を「ほら、見て見て」と自慢する心の声が聞こえる子供みたいな笑顔を向けられたらノートンさんも素直に金色の瞳を細めた。

「うん、良く似合ってるよ。近くで見せてくれるかい?」

ふたりの温かな親子の様なその雰囲気は子供達みたいに横から混ざる事が出来ない。十分大事にされているとちゃんとわかっているからこれは決して疎外感ではなく例えて言うなら今の気持ちは『遠慮』に近い。

なんて、随分図々しくなったな。

その輪の外側から見るセオの姿は当たり前だけどクラウスとはまた印象が違う。黒の騎士服は赤や青に比べたら落ち着いた感じがして俺の目に優しかった。紺色の髪を持つセオにも良く似合っているように思っていたけれど赤い騎士服の方が似合うのだと認識を新たにした。

色のせいかもしれないけれどなんというかすごく頼もしい感じがする。

「ところでどうしたんだい?忙しいと聞いてるよ、まさか仕事中なのかい?」

「ええまぁ忙しかったことは忙しかったです、いつも以上に。でも『桜まつり』が開催される事になったら街の様子も随分落ち着いたのでまた忙しくなる前に半日ずつですがなんとか休みが貰えたんです。」

ノートンさんの言葉に相槌を打つセオの視線がちらりと向けられて思わずぎくりと身をこわばらせた。だってこんなふうに忙しさの原因は俺なのだと本人に肯定されてしまったら潔く認めるしかない。

ここにマリーとレインがいたらきっと得意満面で『ほらね』と言われただろう。

「そんな貴重な休みなら宿舎でゆっくりしたほうがいいんじゃないか?」

「下手に残ってると溜まった雑用を押し付けられるんです。たった半日のこの休みだってようやく順番が回ってきたんですよ。まあ赤騎士の中じゃ下っ端だから仕方ないんですけど貴重な休みを余分な仕事で潰すくらいならここで子供達と遊んでた方がよっぽど休めるんです。」

彼方を向いて短く吐いたため息だけどかえってそれがすでに多くの雑用をこなしてきただろう面倒見の良いセオの姿を安易に想像できた。

「というわけでこれ預かって貰えますか?」

セオが騎士服の上着をノートンさんに押し付けシャツ一枚になるとその両腕に子供達が飛びついた。
現れた瞬間からセオに心を奪われ子供達は俺を見ない、その人気に嫉妬してしまうけれどこれはチャンスだ。

「ノートンさん、僕掃除してきます!」

どうせセオが帰るまでは用無しだ。

腕の中の赤い騎士服をそっと撫でるノートンさんを残し俺は久しぶりの窓拭きに勤しんだ。




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