迷子の僕の異世界生活

クローナ

文字の大きさ
上 下
301 / 333
第2部 『華胥の国の願い姫』

301

しおりを挟む



昨日に続きお昼ごはんは始まりの桜の下にピクニックシートを広げて『お花見ランチ』スタイル。

マリーとレインに代わりお手本であろうとするのか口には出さないけれど教会の広場に行きたいのはディノだけじゃない。だからせめて気分を味わって貰おうとやってみたら結構楽しかったみたい。

今日もそうしたいと子供達は俺に話すより先にアンジェラを味方につけていた。

『お花見ランチ』の良い所はお昼ごはんのメニューを選ばない所かも知れない。人数分のトレイを出して沢山食べて元気に大きくなあれと心を込めて盛り付けをしているうちにアンジェラが子供達と一緒に庭の準備を整えてくれた。

そして残さずきれいに食べ終わった後はプレイルームには行かないでそのまま桜の下で過ごしていた。

アンジェラに本を絵本を読んでとお願いしたのは誰だったろうか、桜の大木の作る木陰の中でお腹いっぱいの子供達は春のポカポカ陽気に包まれて午前中久しぶりに大はしゃぎできたのと普段の刷り込みよろしく絵本の読み聞かせであくびをはじめている。ディノも胡座をかいた俺の膝に体半分預けるようにあごを乗せて眠そうにするから髪を撫でてみるんだけど眠りたくはないみたいで撫でた頭を掻きむしる。

「ふふ、ディノったら眠りたくないならトウヤから離れればいいのに。」

アンジェラに笑われたディノは頬を膨らませたけれど動く気はないみたい。

俺は俺でこの所ずっとそばにいたサーシャが今日はアンジェラにべったりでちょっぴり淋しかったから丁度いい。

「はぁそれにしてもさすが名所ね本当に素敵、どこを見ても桜があってなんだか王都じゃない所にいるみたい。しかも普段は外からしか見えない所で見せてもらえるなんて本当に贅沢だわ。来た時も見物してる人達を前にちょっとした優越感味わっちゃった。」

「おねえちゃん、こうするともっとすてきなのよ。」

「どれどれ~?」

アンジェラが舌をぺろりと出し令嬢らしからぬいたずらな顔で笑い、サーシャが仰向けに寝転がってみせるとアンジェラも習うようにそのとなりで寝転がった。

今の『桜の庭』は名所と呼ぶにふさわしく塀に沿ってぐるりと植えられた桜がどこにいても目に入る。その縦格子の向こう側を注意深く見ているといつもに比べ随分と人通りがある事に気がつく。それらは皆桜を見に来た人達だ。そんな中で変わらず過ごしていられるのは塀に張り巡らされたノートンさんの魔法のお陰だ。本当は桜まつりの時にだけ発動される魔法で互いに目を凝らさないと認識できない。それに加え王都の騎士の巡回も同様に増やされているそうで新年を祝う3日間が過ぎても忙しいままのセオを含む騎士隊の方々にはなんだか申し訳ない。

「本当、こうすると一面桜だらけでもっと素敵ね。ガーデニア国もこんな感じだったのかしら。こんな素敵な奇跡を起こしてくださった皇子様に感謝しなくちゃ。」

アンジェラは何気なく言ったのかもしれないけれど初めて直接外の人から聞く称賛が嬉しくてこそばゆくなる。

「へへ。」

迷惑かけてばかりじゃない。アンジェラみたいにこの桜を見て笑ってくれる人がいるよねって思ったらまた嬉しくなった。

「あ、皇子様といえばちょっと聞いてよ。確かにこんな風に桜を咲かせたのは凄い事だけどさ一切顔見せないってどうかと思うのよね。」

何かを思い出したようにアンジェラが起き上がった。

「そ、そうかな。」

「そうよ写真もこ~んな小さくてあれじゃ全然わかんないじゃない。」

マリーも同じ事言ってたけどそれは俺がこのまま『桜の庭』で働けるようにって配慮して貰ったからなんだよね。

「あんなに窮屈な思いしてドレスアップしてパーティに参加したのに一度も顔を見せないのよ?お父様もどれだけおねだりしても会わせてくれないって言うの。でも自分は御用始めの時にお会いしてるの酷くない?だからまた喧嘩になっちゃった。実を言えばここにはその憂さ晴らしに来たのよね。」

「……ア、アンジェラ?」

「大丈夫ちゃんと帰るってば。それでね、私思ったんだけど新聞にはさも絶世の美形みたいに書かれていたけど実際は違うんじゃないかと思うのよね。だって100年も前の人なのよ?本当はすっごい変な顔とかもしかしたらしわくちゃのおじいちゃんだったりして!」

そう言ってアンジェラはまた仰向けになってケラケラと笑いだした。

これ、もしかしなくとも俺がそうだって気づいてない?

「おねえちゃん、トウヤはおじいちゃんじゃないわよ。」

「やあねぇわかってるわよそんな事、私が言ってるのはガーデニア国のトウヤ様の事でトウヤの事じゃないわ。」

隣で寝転がっていたサーシャが不意に起き上がってアンジェラの顔を覗き込んだけど反論を気にもかけない上にそうじゃないと諭した。これはきちんと告白するべきだろうか、それとも放って置いたらいいのかな。相談したいけどノートンさんはプレイルームで書類仕事をしていてちょっと遠い。

「トウヤはしわくちゃじゃないよぜんぶすべすべだよ。」

「そうだよトウヤはおうじさまだけどおひめさまみたいにかわいいんだ。」

今度は俺の両脇に座る双子の反論に呆れ顔で起き上がった。

「もう、あなた達本当にトウヤが大好きよね。わかったわかった同じ名前だから勘違いしてるのね、はいはいトウヤは可愛いわよでも私が言ってるのは───」

「とおやだもん。とおやがおはなさかせたんだもん、ね~。」

サーシャだけじゃなくロイとライまでそんな事を言われその上ディノにこんなに誇らしそうな笑顔を見せられたら誤魔化すなんて出来ないや。

「───うん、アンジェラ違わないよ。桜を咲かせたのは俺なんだ。俺がトウヤ=サクラギ=ガーデニアなんだよ。」

アンジェラは信頼できる話していい大事な友達だ。でもクラウスもノートンさんもそばにいなくて少し心細い。だから今日はディノを抱きしめて勇気を貰った。

「────え?」

俺の告白にアンジェラが固まってしまった。そして俺ではなくサーシャに確認を取る。

「……ト、トウヤが……皇子…様?」

サーシャがきっぱり頷いて笑うと俺の背中に回っておぶさるように抱きついた。

「そうよトウヤはおひめさまみたいなおうじさまなの。」

俺は「ね~っ」と声を合わせる子供達に囲まれてすっかり心強いけどアンジェラは鳩が豆鉄砲くらうってこんなだろうかって顔をして口をパクパクさせていた。

「……あの、『漆黒の夜空を紡いだ美しい黒髪に深海の真珠の如く艶めく肌で吸い込まれそうな大粒の黒曜石を瞳に湛えたさくらんぼ色の唇が愛らしい天使の様な笑顔の失われた国ガーデニアの愛し子トウヤ様』?」

ほら、ありえないって思うよね。そんなの少しも俺じゃないんだもん。知ってるからこそアンジェラは別人だって考えたのかも。だから素直にうなずくのを躊躇ってしまう。

「あ~お披露目式の時はキレイにしてもらったから。でもいくらなんでもちょっと脚色しすぎだよね。」

へへっと笑った俺はその直後『桜の庭』にアンジェラの叫び声が響き渡る事も、何事かと驚いたノートンさんが慌ててプレイルームから飛び出して来るのも予想できなかった。




しおりを挟む
感想 228

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

処理中です...