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第2部 『華胥の国の願い姫』
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しおりを挟むそれってテレシアさんには俺が昨日クラウスとえっちしたことがわかっちゃったって事?その上ノートンさんにも知られちゃったって事!?
───いや、もしかしたらノートンさんの事は俺の思い過ごしかも知れない。
「あ、あの……今の話をノートンさんにも話したんですか?」
「まさか、診断結果を第三者にお話しすることはございません。」
きっぱりと答えたテレシアさんにホッとしたのはほんの一瞬。
「私が院長に訪ねたのは昨日トウヤ様がお眠りになってる間に何者かによる間違いが起こり得たかどうかだけですわ。ですが昨日のトウヤ様は常に子供達か婚約者である護衛騎士様とご一緒だったと教えていただいた事で全て納得ができました。」
いやいやだからなんでそんなドヤ顔なの!?
確かに結果じゃないけどそこを話してしまったらノートンさんなら察しがつく。だからクラウスの事わざわざ『婚約者の』ってテレシアさんに言ったんだよね?もう話したと同じじゃん!?目も合わせず出ていったのはやっぱり勘違いじゃなかった。クラウスは『問題ない』って言ったけどこんなの問題ありありだ!
俺が脳内で声なき叫び声をあげながら床を転げ回ってることなど知る由もないテレシアさんは『お医者さん』だからか少しも悪びれる事なくニコニコしていた。
まあ……当たり前か。俺の事を心配してくれての事だから悪意なんて微塵もないに違いない。そもそも別室で診察するという配慮に構わないと言ったのは俺だ。そうしていたら直接俺かもしくはクラウスに訪ねてくれたに違いなく、やはりノートンさんだったとしても同席していなかったらこんなに恥ずかしい思いをしないで済んだかも知れない。この結果を生んだのは俺の選択ミスだ。
────よし、落ち着け俺。
テレシアさんは自分のお仕事をしているだけであり俺は患者、子供じゃないんだからクラウスとそういう事をしたって問題ない。お医者さん相手にいつまでも恥ずかしがってる方がおかしいよね。
「それでは魔力が回復しているならもう走ったりしても平気ですか?」
「う~ん、本来であれば『休眠症』とは何の心配も必要ないものなのですが実はこの症状は5,6歳の比較的魔力量の少ない子供が魔法を使い始める頃にみられるもので治癒士として長く勤めておりますが成人の症例は聞いたことはなく調べても見つかりませんでした。とても珍しいものですからやはり明日いっぱいは安静になさって下さい。」
「……わかりました。」
平静を装う事でごく普通の医師と患者らしい会話に引き戻すことに成功したが俺の名誉の回復はできない事もよく理解できてしまった。
「何もご質問がなければ診察はこれで終了致します。」
「ありがとうございました、じゃあ……。」
結果的に追い出してしまったノートンさんや治癒士さんを呼ばなくてはと思い立ち上がろうとした俺の肩にクラウスが触れ、その役割りを引き受けてくれた。
「フフ、それにしても本当に驚くほどお二人は相性がよろしくて私実はうっとりしてしまいましたわ。」
せっかく顔の赤みが治まったのにテレシアさんは今のうちとばかりにさっきの続きを話し出した。わざとなの?わざと俺が恥ずかしがるように仕向けているの?
「……その、クラウス……いえ婚約者との魔力の相性が良いってのは……。」
もう恥かきついでに聞いてやる。だって良いなんて言われたら嬉しいに決まってる。話し始めたせいでクラウスが騎士然とした表情のまま扉の前でこちらに向き直る。涼しい顔をしてるけどきっとクラウスも知りたいよね。
「実は体内の魔力を視る事が出来るのが私の自慢すべき能力ではありますがそれを視えない方に説明するのは非常に難しいです。曖昧な表現になるかもしれませんがお二人の魔力は神によりに祝福を受けたかの様にトウヤ様の中で互いを慈しむように馴染み合い魔力を高め合っているのです。同じ現象が騎士様のお体にも起こっていると思いますわ。これは互いを愛する気持ちにも影響を受けているのですが……う~ん、もっとわかりやすく言えばこれ程相性が良いならばすぐにでもご懐妊になられるかと。」
「ちょっと待った!俺男ですけど!?」
びっくりしすぎて言葉遣いを正せなかった。驚いたのは俺だけじゃなくもちろんクラウスも咳込んだ。
「ええもちろん例え話ですわ。そのくらい相性が良いと言う事です。」
何食わぬ顔をしているけれどもうこの人絶対わざとだ。でもやっぱり神様に祝福されてるみたいとまで言われたら結婚を足踏みさせられてる俺にとってこの上なく嬉しいことで相変わらず魔力なんてわからないけれどお腹の辺りに両手をこっそりあててみた。
ちなみにいくら魔法のある世界でも流石に男が妊娠したりはしないらしい。
「そうか元気になって何よりだ。じゃあトウヤ君もう一日ゆっくりしたら改めてまたよろしくね。」
「はい。」
テレシアさんから俺の魔力の回復と明後日からの仕事復帰の説明を聞いたノートンさんの笑顔はいつもと少しも変わらないけど俺はやっぱり照れくさくて隣で小さくなっていた。
「お揃いになったところでひとつよろしいでしょうか、本日私が参りましたのはトウヤ様の診察だけではなくお二人にご相談もありまして他でもなく春月の愛し子様の検診をどのように行うか確認に参りました。」
テレシアさんの言葉に「そう言えば春月になったんだ」とノートンさんと互いに顔を見合わせた。
この世界は育った世界によく似ていて1年が12ヶ月で成り立っている。それを3ヶ月ずつ春夏秋冬の4つの季節に区切り今は1年の始まりである春の1月の今日は2日だ。
『桜の庭』では季節ごとに教会で健康診断をしてもらうそうで前は冬月に入ってすぐみんなでお出かけした。
子供達のついでに俺も健康診断を受けさせて貰ってレインより体重が軽いことが発覚したり初めて踏み入れた教会で生まれたばかりの赤ちゃんの洗礼式を見学したりそこでお昼ごはんを食べたり帰り道に広場でも遊んで楽しかったな。
そう言えばあの時はまだ自分がこの世界の異物だと思って魔力測定はしなかったんだっけ。ほんの少し前の事なのにいろんな事がありすぎてもう随分前の事みたいだ。
「私はいつでも構わないけれどどうかな。」
「僕もいつでも大丈夫ですよ。時間も冬月の時と同じでいいんですよね?今度は僕も魔力測定してもらってもいいですか?」
ノートンさんは子供達に関わることは世話をする俺に一番負担が掛かるからと言って何でも相談してくれる。今回も相変わらずお伺いをたててくれるけれど日にちを選ぶ予定など俺にはないからいつでもオッケーだ。
「……そうだねトウヤ君が良いなら後は教会の都合の良い日にしてもらおう。でも子供達の魔力測定は冬月でいいからクラウス君に付き合ってもらうと良い。」
楽しかったのを思い出しついはしゃいでしまったけどそうなんだ。ノートンさんも苦笑いしてるし『ついで』じゃないならまた今度でいいかな。ていうかすぐそこなのにクラウスも一緒に行くの?
「そうですか、もしもお嫌でしたらこちらに治癒士と測定具を運び込もうと考えておりましたがそれこそ杞憂でした、各所に連絡後日付は追って知らせますがしばらく騒がしそうですから10日前後を予定して置いてくださいませ。それからご紹介が遅れましたがこちらの二人、本日条件もクリア出来ましたので今後の『愛し子様』の検診に加わる事になります。」
そこで俺はようやく気がついた。テレシアさんが誤解した理由もさっきのノートンさんの苦笑いの真実も。長い間『桜の庭』の主治医として勤めていた人物がいなくなった原因は自分だと言うのにそんな事はすっかり忘れていた。
俺はもう平気なのにふたりともずっと気にかけてくれてたのかな。
ノートンさんの魔法で守られた『桜の庭』の中には悪意ある者は入ることが出来ないから今目の前で挨拶をする二人は治癒士としての能力だけでなく人柄も信頼できるという事だ。
「トウヤ様がこちらでお仕事を続けられると聞いた時は少し驚きましたがそれで良かったかも知れませんね、王城ではとてもゆっくり出来なかったでしょう。」
「はは……。」
流石にお城じゃしないだろうって?お部屋はお城とかわりませんけどね、なんてテレシアさんに散々弄ばれたお陰で今度は俺が勘違いしたみたいだった。
「そんなにかい?」
「ええ、昼食会の時もそうでしたけど晩餐会の時は謁見を求め騒ぎ立てる方もおられたとか。私も披露目式にトウヤ様の治癒魔法の証人として参加させて頂いたので随分といろんな方に声を掛けられましたわ。」
「どうやら考えていた事と違う心配が必要になりそうだね。」
「ええ本当に。でも国王陛下も王妃様も終始楽しそうにしておられましたわ。」
「ふふ、まるで身に覚えがないみたいだけど原因はキミだよ。慣れていると言っていたセオも今年は音を上げるかもしれないね。」
今度こそ意味がわからずキョトンとする俺にノートンさんは新聞の束を持たせてくれた。
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