迷子の僕の異世界生活

クローナ

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第2部 『華胥の国の願い姫』

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「は~落ち着く。」

洗濯問題があっさり片付いたあと始めた部屋の掃除もふたりがかりだと広すぎるお風呂でさえあっという間に終わってしまい時間を持て余した俺は『始まりの桜』の下に広げたピクニックシートに大の字で寝転がっていた。

両脇にロイとライ、お腹の上にディノ。サーシャはマリーにべったりだけどそのマリーもライの隣に寝転がっていてレインは端に座っている。俺の宝物を大集合させた完璧な布陣だ。
できればここにノートンさんとクラウス。セオにアンジェラもいたらもっと賑やかだろうけど流石にそれは欲張りだよね。

みんなで見上げた青空と満開の桜の淡いピンク色のコントラストは芸術的で昨日の夜のお花見とはまた違った美しさがある。

「今日はいいのか?騎士様の抱っこじゃなくてさ。」

少し離れた場所に立つクラウスをチラリと見た後ニヤニヤした顔でレインが俺に言った。

「もう平気だってば。」

昨日から俺のからかい方が生意気だ。
靴を履かせて貰えなかったお陰で昨日の移動は子供達の前でも常にクラウスに抱っこされてしまったから仕方ないのかも知れないけれど庭に姿を見せた俺は遅いおはようのハグちゅうの後はこうして一緒に寝転んで過ごすという過保護な扱いを受けていた。

時間を持て余した俺に子供達の所へ行こうと言い出したのはクラウスだった。でもそれはきっとソファーでのお喋りの話題がどうしても子供達の事になってしまう俺のせい。

『いいの?』

マリーとレインのお休みは明日までで、次はいつ会えるのかわからないと思っていた俺はクラウスの提案にうっかり喜んでしまった。

『……ううん、やっぱりいい。』

だってこんな風にゆっくりとクラウスと過ごせる事も久しぶりで、またいつこうして恋人らしく過ごせる日が来るのかわからない。それに俺はお休みでもクラウスはそうではないからほんの少しタライを借りに行った時でさえお互いの立場上騎士服に着替えなくてはならなかった。
ノートンさんの魔法に守られて普段護衛なんて必要のない『桜の庭』で俺だけが子供達と遊んでクラウスにしなくて良いことをさせるのはきがひけた。

『俺の事は気にするな。自分で望んだ立場だと言っただろう?』

『──でもいい。俺はクラウスとも一緒にいたい。』

どうしてもう少し考えてモノを言わなかったのかとクッションに八つ当たりする俺をクラウスが膝の上にひょいと引き上げた。

『じゃあこうしよう、昼間の冬夜を子供達に譲る褒美に子供達が眠ってから明日の朝までの冬夜は俺にくれるか?』

キザったらしく髪に口づけたイケメンを思い出して思わず両手で顔を覆ったつもりが勢いが良すぎてバチンと音がするほど顔面を叩いてしまった。

「……なにしてんのよ。」

「……ちょっと花びらがくすぐったくて。」

呆れた声だけでマリーが俺に冷ややかな視線を送っているのがありありとわかってしまう。
でもこうしておかないと手が冷たく感じるほどに顔が火照っているのが見られてしまう。こんなふうに何度もドキドキさせられてしまうから俺の心臓は休まる暇がなくあのままふたりでいる事は安静と言うには程遠かったかも知れない。

クラウスの望む時間の半分は眠ってしまうと言うのにずるい俺は結局その提案に乗ってしまった。子供達とクラウスの両方を手に入れてしまおうなんて自分の欲深さに呆れるのはもう何度目だろう。

「花びらなんてつくわけないでしょ。もう少しマシな言い訳しなさいよ。」

「なんで嘘って決めつけるんだよ。」

確かに嘘だけどせっかくのごまかしを指摘しないで欲しかった。

「なんでって……やだ自分でやったのに知らないなんてないでしょ?」

マリーがくっついてたサーシャを物ともせずガバリと起き上がって俺を見た。

「マリー、トウヤだぞ?十分有り得る。」

「なんの事?」

指の隙間から垣間見たマリーからは驚いた顔を、レインからは残念なモノを見るような眼差しを向けられても二人の言わんとしている事はわからなかった。

「ううん、なんでもないわ。ただトウヤの魔法は凄いってこと。」

「だな。」

「「「だな~。」」」

膝に乗せたサーシャと一緒に仰向けに倒れたマリーとロイの隣にごろんと寝転がったレインにその意味を追求しようかと思ったけれど俺を褒めてくれたマリーに同意したレインと口調を合わせた子供達が可愛いくてどうでも良くなってしまった。

しばらくはそうして桜を眺めていたけれど花見に飽きたレインがディノを連れ出すと次々と子供達が靴をはいて鬼ごっこに混ざり出して俺はピクニックシートにひとり取り残されてしまった。
マリーに混ざることを禁止されふくれっ面でその様子を眺めていたらクラウスが脇の下をひょいと掬っていつの間にか来ていたノートンさんが座っていたベンチに移動させてくれたんだけどその運び方にマリーが指さして笑っていたのは言うまでもない。

子供達が走り回る賑やかな庭を眺めた後、渋るクラウスもジェシカさんに座らされ全員で一緒に昼食を食べプレイルームで過ごし出した頃にテレシアさんがやってきた。




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