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第2部 『華胥の国の願い姫』
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しおりを挟む「うわっ!」
突然クラウスの声と金髪が顔にかかって驚いた。
「悪い、驚かすつもりはなかった。寝てるのかと思って。」
「ごめん、か…考え事してたんだ。」
びっくりして口から心臓が出ると思った。
いくらなんでも煩悩が過ぎる、俺本気で脳みそに花咲いてるかもです。
「ふうん、で?今夜はそれを抱いて寝るつもりなのか?」
口走った言葉が聞こえてなくて良かったとホッとしていたらクラウスがつまらなそうな顔で力任せに抱きしめた腕の中の枕を指差した。
「ううん!ふふ、良かったクラウスの部屋があるから一緒に寝てくれないかと思ってた。」
「まさか。」
急いで枕を放おり投げて両手を広げたら俺を一度抱き上げて枕を丁寧にベッドに寝かせて掛布をかけてくれた。
「灯り、小さくするぞ。」
「うん。」
隣に滑り込んだクラウスがサイドテーブルに手を伸ばすと部屋の灯りが落ちて代わりにナイトランプに明かりが灯った。眠ってしまうのはちょっぴり残念だけど『2,3日安静に』なんだから仕方ないよね。
それにもう夜も遅い。俺はたっぷり昼寝をしたみたいだけどクラウスはきっと疲れてるよね。できればその疲れを取ってあげたいけれどきっと気づかれてしまう。叱られた挙げ句別々に眠ることになるのは嫌だ。
今夜の俺の望みは可能な範囲で最大限『だんなさん』といちゃいちゃする事。それは昨日の夜のような甘いキスをしてクラウスの鼓動を聞きながら眠って明日の朝その腕の中で目覚める事。もちろんさっきの言葉も本心だけどそれを望むにはやっぱり経験値が足りない。あの時の様な譲れない事情もなければ今夜は安静にしないといけないのだからこうして初めから腕に抱き入れて貰えるだけで満足だ。
「明日はクラウスも休み…‥というか一緒にいられるんだよね。」
「ああ。」
「じゃあさ、俺が起きるまでそばにいて欲しいな。俺ねクラウスの腕の中で目が醒めた時が一番幸せなんだ。だからもし起きなきゃいけないなら一緒に起こしてくれる?」
「ああ、わかった。」
俺のおねだりに嬉しそうに笑ったクラウスにおやすみのキスをおでこに落とされ俺はなんだかカチンときた。
「───そこじゃ嫌だ。」
何度も言うけどそれがクラウスの優しさだってわかってるし俺の躰を心配してくれてるのもわかってる。だけどさすがにでこちゅうなんてあり得ない。こんなのどう考えたってよめさん扱いじゃなくて『子供扱い』だ。
「俺の躰を気づかってくれるのはわかるけどキスくらいしても良いでしょ?」
俺だって男だ多少なりとも欲はある。してくれないなら自分がすればいい。
まるで寝かしつけの様に肘を枕にして俺の方に体を向け半身で横たわっていたクラウスの肩をベッドに押さえつけてその唇を奪った。
まずはちゅっと口づけてそれからその唇をついばむ。されるがままの唇が誘うように僅かに開いた隙間に自分から侵入し委ねるように優しく触れた舌先をゆっくり絡めとりその甘さを味わう。
「……っは…。ふふ、奪っちゃった。」
練習が足りなくても自分のペースでなら息が上がることもなく案外上手く出来たでしょ
念願だったキスが出来て満足した俺は唖然としたまま俺を見上げるクラウスの真似をして薄明かりに煌めく金髪をかき分け形の良いおでこにキスを落とした。
「おやすみクラウス。」
俺の下でキスで濡れた唇をクラウスが舐めた。その仕草がやけに色っぽくて見惚れていたらその口元がニヤリと半月を描いた途端に俺の視界がくるりと反転した。
「今朝も忠告した筈だがまさか忘れたなんて言わないよな?」
うん?
ベッドと俺の背中に挟まった腕を抜いてその手を俺の顔の両側に付き覆いかぶさるように覗き込んだクラウスの蒼色の瞳が鈍く光った。
「えっと…今日はその、あ、安静にするんだよね?」
ほら、ちゃんとわかってるよ?
「『安静』ね、だからこんな大胆ないたずらを仕掛けたのか?こんな日に俺が手を出す筈がないだろうって?」
あれ?もしかして怒ってる?
「はっ、笑わせる。安静にする気がないのは冬夜だろう?俺を煽った責任今夜こそとってもらおうか。」
そんなはずないだってクラウスはこのくらいじゃ少しも誘惑なんてされないはずだ。
「まってくらぅ……っんん。」
クラウスが片手で俺の顎を掴んだせいで勝手に開いてしまった口にクラウスの舌が侵入して俺の舌を強引に絡め取った。
「…っは、はぁ。まって、だってきの、ぅんんっ!」
さっきのキスと全然違う蜜の様に濃厚な甘さが俺の脳を痺れさせあっという間に躰が熱くなる。
吐息ごと飲み込まれるよな口付けで息が上がった俺を嬉しそうな顔でクラウスが見下ろした。
「昨日だってなんだ?ああ、昨日も散々煽り倒してくれたよな、他人に触らせたり他の男の服を着て胸元をちらつかせたり。」
「あっ、や、いつ俺が…っあ!」
お手入れは不可抗力出し他にも身に覚えのないいいがかりをつけられ反論しようとしたら耳元で喋るクラウスに耳の入り口を舐められ背中がゾクリと疼く。首筋に指を滑らせそのまま襟ぐりに引っ掛けると大きく開いた襟元に口付けて鎖骨をべろりと舐められた。
「何度も誘って散々煽って俺がその度にどれ程理性と戦ってたと思う?」
「うそ、まって、クラウス、あ、あ、や……。」
ボタンを外されるのを防ごうとした手はなんの抑止にもならず薄明かりの中に晒された肌の上を首すじから脇腹までクラウスの大きな手がゆっくりと滑り今度は腰骨に親指を引っ掛けるようにして止まった。
「もう待たない。昨日から何度訓練の方が楽だと思ったことか。触って見ろと言われた俺がどうやってその劣情を抑え込んだか知っているか?」
抱え込むようにして腰を押し付けられたせいで自分のモノが芯を持ち始めている事に気づいてしまったけれどそれはクラウスも同じだった。昨日は欠片もそんな素振りを見せなかったクラウスが射すくめるような熱い視線を向ける。
「今更後悔しても遅いぞ。それとも俺になら『何をされても嫌じゃない』?」
クラウスが俺を欲しがってる。
クラウスの告白で俺の自惚れが増し、嬉しさと期待で自分の心臓の音が耳に届きそうなほど早鐘で鳴っていた。
どうして忘れていたんだろう、この男が本当は強引だと言うことを、そしてそんな強引さに俺は心を奪われたんだ。
「だったら俺がなんて答えるか知ってるでしょう?『イヤって言ってもやめないで。』」
そうして俺は願いどおり『護衛騎士』ではなく『だんなさん』のクラウスと安静とは言えない新婚の夜を過ごしてしまった。
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