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第2部 『華胥の国の願い姫』
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しおりを挟む結論から言えばキッチンは階段の左側、子供達の寝室の場所にあった。望み通りコンロに流し台、オーブンに高そうなカップの入った食器棚に食卓テーブルもあった。明日使えそうな食材もあったけどもう少し使い勝手の良さそうな食器やら調味料やらを仕入れなくちゃ。もちろん洗濯用のタライもね。
「ふふっクラウスと買い物行きたいなぁ。」
花びらの浮かぶお風呂に浸かりながらやりたいものリストをひとつ増やす。
なんだかんだあったせいでクラウスが提案してくれたこの湯舟に浸かるのは今夜が初めて。
深い所と浅い所の二段構造になっていて深い方で湯船の端に掴まって肩まで浸かりお風呂の良さを堪能した後は座ると腰ぐらいしかない浅い方に寝転んで浸かっている。それはもう最高だ。
まさか俺が風呂で眠る前提で作ってくれたのかな?そしてもちろんクラウスと一緒に入ってもぜんぜん大丈夫な広さがある。でもさすがにもう『一緒に』は恥ずかしい。
「………………する?………わけないか。」
印の消えてしまった肌に優しいお花の香りのするお湯を馴染ませながら一番近い今夜の予定を考察してみたけど『安静に』と言われた俺にクラウスが手を出すなんて絶対にあり得ない。王妃様の命令を忠実に守って唇へのキスもためらったぐらいだ。
そんな立派な近衛騎士様と違ってこの所俺はクラウスとキスがしたくて仕方がない。こう思うのって当たり前で合ってるよね?
抱き締められることもそうだけどキスをするとお互いの思いが伝わると言うかクラウスに求められていると実感できて安心すると言うかとにかく離れていた淋しさが満たされる気がするんだ。
昨日は何度もタイミングを逃しちゃんとしたのは寝る前の一度だけ。今日はもちろん朝からいろいろあったし、そもそもほとんどふたりきりじゃなかったから出来なかった。さっきの桜の下でのキスは裏庭でした唇をついばむような甘いキス。もちろんそれも好きだけどもっと甘くてもっと深いキスがしたい。
「………うん、いい加減にしとこ。」
明らかにお湯のせいじゃない熱で頬が火照る。俺は自分の脳みそにまで花畑にしたのか。
お湯から上がって体を拭いていたら化粧台の上に今朝侍従さんにつけて貰った香り控えめの小瓶と同じものがいくつか並んでた。きっとこれを俺の好みだと思って置いてくれたのかな。
お風呂のお湯も紅い花びらの見た目と違って優しい香りだった。
「……せっかくだし顔にくらいつけてみよっかな。」
最近俺の周りがキラキラと眩しかったせいか王妃様から言われた『田舎娘』が案外頭の隅から離れない。
さっきまでの俺は侍従さんの手腕によりそれなりになれていたけれど髪を解いて服を脱ぐたびに皇子様の魔法が解けていくみたいだった。『桜の庭』の冬夜に戻った俺は身につけていた物の洗濯をどうしたら良いのか気になっている。明日ジェシカさんかハンナさんに聞いてみよう。
クラウスにお風呂から上がった事を伝えると「早かったな」って笑いながら俺の髪を乾かしてシャワーに向かった。
お城の部屋と違うのはそのお風呂場の先にクラウスの部屋がある事。俺が使ってる間気にして出入り出来ないかと思いきやクラウスの部屋には廊下に出る扉があることをさっき知った。
お風呂に入るために髪をほどき始めた辺りからクラウスは『騎士隊に連絡してくる』と自室へ行ったきりで俺の風呂上がりにもそっちの部屋にいた。声をかけに行った時のクラウスは髪をほどいていて前髪をかきあげる仕草が格好良くてちょっとドキドキしてしまった。
「でもそれって必要?」
たまらず不満を口にした。
ベッドが1つなら一緒に寝るしか選択肢はないのだから別室なんてなくてもいいのにって思うんだよ。これなら宿屋のほうがマシだ、少なくとも同じ部屋にベッドがあるんだから。
俺としてはこの話しを聞いてからずっとここをふたりの部屋のつもりでいたんだよね。でもこうまでお城と同じだとクラウスはやっぱり落ち着かないかなぁ。
「まぁ俺も落ち着かないけどさぁ。」
八つ当たり対象のふかふか枕を抱きしめベッドに横たわった俺はさっきから独り言多め。
シャワーの終わったクラウスはこっちの部屋で一緒に眠ってくれるかな。あれだけ俺をおよめさん扱いで抱っこしてるんだから寝る時だけ別々なんて言わないよね?
「はっ!もしかしてこの匂いとか逆効果!?」
昨日クラウスが顔をしかめたのを思い出したけど同じお湯に浸かったらクラウスだって一緒だと気付いてホッとした。この香り、俺は結構好きだけどクラウスはどうかな。今日の俺を褒めてくれたから少しでもよく見られたくてつけた化粧水は俺のほっぺをもちもちにしてくれたけどよく考えたらクラウスは王妃様のところでお手入れしてもらった昨日の俺でもあんまり興味なさそうだった。
離れていることが多いから一緒にいられる時はできるだけくっついていたいからクラウスの好きな俺でいたい。だってこの『新婚生活』は俺の休日限定だ。普段は何時もの部屋で眠らなければたまに夜中に起きてくる子供達が不安になるだろう。クラウスだって護衛の必要のない『桜の庭』でボンヤリさせては申し訳ない。俺達の生活は俺が望む限り今まで通りだから甘え過ぎだとわかってるけど時間がないからこそそのぬくもりを沢山味わって次会う時まで覚えていたくてどうしても欲張ってしまう。
だから本当はキスだけじゃ足りない。
教会に行ってからはしばらくの間クラウスに愛された印が残ってて目にする度に嬉しくなった。それは俺がこれまで暮らした場所が異世界であって今いる世界こそが俺の居場所だということが夢ではないのだと教えてくれている証でもあった。
人を好きになることがなかったから知識がなくて男同士でも躰ごと繋がることができると知ってからはクラウスとそういう関係になれるのをずっと望んでいたけどウォールの時もプロポーズの時も俺が慣れなていないせいでキス止まりだった。でもそれもクラウスの優しさだと知っている。
あの時も決死の誘惑に見向きもされず泣き落としでやっと抱いてもらった。
でもクラウスは俺を大事にし過ぎだと思うんだよね。なんやかんややっぱり子供扱いっていうの?遠慮しないって言っておきながらキスだって絶対俺が物欲しそうな顔を晒してるような気がするんだよな。
要するに何が言いたいかというと俺は消えてしまった印をもう一度つけて欲しい、できたら俺からではなくクラウスから求められる形でもう一度。
「えっちしたい。」
「何がしたいって?」
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