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皇子様のお披露目式
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しおりを挟む冷めない熱気の中、人前に立ったり大きな拍手を向けられたりというのは今までにない経験で俺自身もなんだかふわふわしてしまってアルフ様にエスコートしてもらったものの謁見室から廊下に出た所で戻ってきたクラウスに気付いたら途端に足に力が入らなくなって床に座り込みそうになった。
でも既のところでクラウスが腕を掴んでそのまま抱き上げてくれてた。
こみ上げる気持ちを上手く表現できない代わりにぎゅうっと首元に抱きついたら「やっぱり冬夜は格好良いな」とクラウスが言ってくれた。
「こんなに素晴らしい御用始めは久方ぶりだ。トウヤのお陰だ、立派であったぞ。もちろんエリオットも。」
「ありがとうございます。父上。」
「私はその……アルフ様に支えて頂いてやっと立っていたので。」
「何を言う、皆が初めにトウヤを見てため息をこぼしていたのを見ていなかったのか?その上あの様な愛らしい笑顔を振りまきおって。」
事実を言ったのに俺の隣に座った王妃様にニヤニヤしながらホッペをつつかれた。あんな場所で他の人がどうかなんて観察出来るわけがない。と言うか俺座るのここで合ってる?
今この部屋には宰相様も来ていて王様はたったままお話しながら男性の侍従さんが衣服を整えていた。
王妃様も王妃様の侍従さんからお化粧のチェックを受けたけど簡単に直されただけで俺のほうが髪やらグロスやら入念に直されてしまった。対するアルフ様は優雅に座って長い脚を組みエリオット様は姿勢正しく紅茶を飲んでいてキラキラしたまま髪の毛一本乱れてない。これはもう育ちの差だから仕方ないよね。
「確かに御老輩の方々も随分盛り上がっておりましたね。今なら新しい事業を起こしてくれそうな勢いでしたな。時折トウヤ様に顔を出して頂くのも良いかも知れません。」
「ははっそれは良い、だがトウヤのあまりの可愛さにやはり我ら全員誑かされたとまことしやかな噂も飛び交うやもしれぬ。」
「ゴホンッ。」
王様も宰相様もにこにこして会話には冗談まで織り交ぜて宰相様が噎せていた。みんながこうして褒めてくれると言うことは無事に務めが果たせたと言う事だよね。でもこれで終わったわけではなく『バルコニーでのご挨拶』がまだ残っている。
「ではトウヤ、私達はこの後まだ数回の御用始めをこなさねばならない、その間アルフレッドに王城の案内をさせよう。また後で───。」
「ゥオッホン!……国王陛下?」
今度は咳払いだけじゃなく咎めるような宰相様の声に国王陛下が眉間にこれでもかとシワを寄せしばらく目を瞑り何かを決心すると小さくため息をついた。
「そうだな、やはり黙っているわけには行かぬな。」
そう言うとゆっくり屈んで座ってる俺の手を取り視線を合わせた。
「トウヤ、私達はあの報せの鐘の後から昨日まで国民に知らせる前に先程の者たちを初め指導者となるべき立場の者達や国を護る者、そして王城で働く者達にトウヤの帰還を伝えてきた。だが残念なことに全ての者に理解させるまでには至らなかったのだ。不甲斐なくて申し訳ない。」
王様の言葉にいち早く意見したのはエリオット様だった。
「なぜその様な馬鹿げた意見が出てくるのですか?きちんと説明を受けたなら正しく理解が出来るはずです。」
「これは仕方のないことなのだエリオット。たが受け入れないのは悪心からばかりではない。100年の刻が過ぎたのをただ漠然と信じられない者、または知識があるが故に複雑に考えてしまう者、中にはガーデニア王の魔法が偉大すぎた故に信じられない者もいる。人の心と言うものはそういうものなのだ。だからといってトウヤが異世界で育った事やその他の詳細まで情報を開示したり力を疑う相手の為に希少な治癒魔法を使って見せる事は出来ぬ。」
それを聞いたエリオット様は複雑な顔をしていた。魔法のあるこの世界では理解されやすい事かも知れないけれど俺には理解できない方が当たり前に思える。何しろ俺自身が信じられなかったんだから。異世界だとか時間を越えた転移だとか魔法みたい、いや魔法なのか。
それに俺の治癒の力を示すという事はそこに怪我をした人がいると言うこと。そのために誰かが傷ついたり、治癒をされずにいる事は俺が一番嫌な事だからそう判断してくれた王様には感謝しかない。
「この後バルコニーでの一般参賀において同時に全王国民にトウヤの存在を明らかにする事になるが手元の者でもこの始末。故に今後トウヤの前に間違った事を言う者が出てくることは避けられない事を理解してくれぬか。だが私達を初め殆どの者が先程の披露目式の様にトウヤを心から待ち望み喜んでいる事を忘れないで欲しい。本当に申し訳ない。」
そう言うと俺の手を握ったまま頭を下げてしまった。当の本人が信じられなくて認めたくなくて泣いてグズったのを目の前で見ているんだからそんなに謝らないで欲しい。
「平気です。私はこんなに沢山の方にお祝いして頂いた事は生まれて初めてで本当に凄く嬉しく思ってます。だから今日のことは絶対に忘れたりしません。それに私は私を大切に思ってくれる家族が沢山いてくれると知っているので不安も心配も少しもありません。」
突然現れた俺を家族だと言ってくれる事にどれだけ俺が心強く感じているか伝えたくて慰めるように握ってくれた誰よりも大きな王様の手をぎゅうっと握り返したのになんでもないように抜け出した片手で俺の頭を胸に抱き寄せてくれた。
「強いな。ガーデニア両陛下は本当に素晴らしい宝を私達のもとに預けて下さった。」
王様のその言葉はお父さんとお母さんを褒めて貰った様にも、王様を通してずっと憧れたお父さんに褒めてもらった様にも思えてとても胸が温かくなった。
そして同じ温かさをくれたノートンさんに凄く会いたくなってしまった。
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