迷子の僕の異世界生活

クローナ

文字の大きさ
上 下
274 / 333
皇子様のお披露目式

274

しおりを挟む



皇子であって皇子でない。その俺にはどれ程の責任が伴うのだろう。

ついこの間まで学生だったのにちゃんと自分の立場を理解しているエリオット様の背中を目で追いながら部屋に戻る直前でクラウスが不意に足を止めた。
そうなるとクラウスの右腕に掴まっている俺の足も当然止まるわけでなにかあるのかと見上げたら少し心配そうな顔で俺の目のすぐ下を指の背で確かめるようにそっと撫でた。

「大丈夫か?」

本当にクラウスには誤魔化しが効かない。

「うん、平気だよ。クラウスこそその…もう痛くない?」

「ああ、あのくらい平気だ。それに俺にはいつだって冬夜がついていてくれるからな。」

左手の袖口を引いてミサンガを見せてくれた。俺がびっくりしてるうちにちゃんとおシゴトしていたらしい。

「……今度新しいの作るね。」

「なんでだ?」

なんでって普段は余り見えないから気にならなかったけれど改めて見ると少し野暮ったい。新年の儀式のためか今日のクラウスは普段の騎士服に加え金糸と銀糸を織り交ぜた帯を右肩から斜めにたすき掛け腰にくるりと回してさっき王様から貰った剣を差している。今日の近衛騎士は全員その格好をしていた。
作り直したところで釣り合わないのは変わらないけれどせめて今日つけている帯の様な感じにしたら少しはマシな気がした。

「色味が騎士服に合ってないかなって。」

「冬夜の色だ、俺はこれが良い。」

愛おしそうにミサンガに触れる優しい指先に自分が撫でられているかの様な錯覚をしてしまう。
あの時の事は全部俺の誤解でもうなんとも思っていないのにクラウスの言葉でウォールでの記憶が不意に思い出されて失くしたものを再び手に入れたような感覚を覚えた。
クラウスはどうしてこんなに欲しい言葉ばかりくれるんだろう、俺には勿体ない。でももう手放せやしない。

「さっきは上手く言えなくてごめん、俺もクラウスがいい。ううん、俺の護衛騎士はクラウスじゃなきゃ嫌だ。」

「さっき自重しろって言ったはずだけど?」

「わっ!」

いつの間にかアルフ様がなかなか入って来ない俺達を戸口から呆れきった顔で見ていた。べ、別にそんなにいちゃいちゃしてなかったよね?

慌てて中に入ると王様と宰相さんもいて更にびっくりしてしまった。どうやら通路は他にもあるらしい。

王様は王妃様とお揃いの金色の衣装で仲睦まじく一緒にソファーで寛いでいたけれど俺を見つけるとおはようのハグとちゅうの後可愛い可愛いと何度もハグをして王妃様の侍従さんに叱られた。

御用始めの儀はもう間もなく始まるらしく宰相様が俺のために式の流れを簡潔に説明した。
でもエリオット様とクラウスだって初めてのはず。

「いえ、私はさっきのように毎年袖で見て来ましたから。」

「警備の為流れは一通り。」

なんかちょっとだけ裏切られた気分だ。

「トウヤでも緊張するのか?私と初めて対峙した時は随分堂々としていたではないか。」

俺だって緊張くらいする。堂々としていたなんて言われてもあの時は子供達を守りたい一心で気を張っていた。それでも扉の前で怖気づいた俺をクラウスが支えてくれたんだ。

「本日のお披露目式ではトウヤ様のお顔を見せていただければ十分です。後のことはお任せください。それとトウヤ様が彼を最も信頼してるのはわかっておりますが第一皇子様にエスコートしていただくことにも少なからず意味を含んでおりますので申し訳ありません。」

視線の先を知れてちょっと恥ずかしいけど宰相様相手には今更か。

「トウヤは取り敢えずいい顔で笑っていろ。」

「『いい顔』…ですか?」

アルフ様は長い脚を組んだ上に頬杖を付きながらニヤッと笑った。

「ほら、あれだ。学校で私にやったヤツ。」

「ああ。」

首を傾げると「あれですね」とポンと手を叩いて返事をしたのはエリオット様で俺にはさっぱり思い出せない。どれだ。

「多分あれかな『とまりぎ』で客相手にやってたやつ。」

クラウスの助言は的確だった。

「はい。」

それくらいなら得意だし大丈夫だ。

俺が頷いたのを確かめると宰相様は慌ただしく部屋を去り、ユリウス様を初めクラウス以外の護衛騎士は会場の警備に向かった。

もちろん俺達にもゆっくりする時間はなく間もなくやってきた紺色の騎士の声かけにそれぞれが立ち上がった。

うん、大丈夫。

今まではなんだってひとりでこなしてきた。怖がったところで手を差し伸べてくれる人はいなくて辛い時も不安な時も全部ひとりで受け止めてきた。そしてどんな事も過ぎてしまえば悩んだ程大した事ではなかったと知っている。

そんなふうにやり過ごしてきた中で一番効果があったのは知らないモノは知っているモノに置き換えること。

だから今から行われる御用始めの儀とお披露目式は俺にとっての『始業式』それとこの世界への『入学式』

違う場所で同じ様に入学式を迎えているマリーとレインから貰ったミサンガが俺の髪にあって足を踏み出す勇気をくれる。
それにクラウスはそばにいてくれるし指輪とお護りもある。

今の俺は案外無敵かも知れない。




しおりを挟む
感想 228

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

異世界に召喚され生活してるのだが、仕事のたびに元カレと会うのツラい

だいず
BL
平凡な生活を送っていた主人公、宇久田冬晴は、ある日異世界に召喚される。「転移者」となった冬晴の仕事は、魔女の予言を授かることだった。慣れない生活に戸惑う冬晴だったが、そんな冬晴を支える人物が現れる。グレンノルト・シルヴェスター、国の騎士団で団長を務める彼は、何も知らない冬晴に、世界のこと、国のこと、様々なことを教えてくれた。そんなグレンノルトに冬晴は次第に惹かれていき___ 1度は愛し合った2人が過去のしがらみを断ち切り、再び結ばれるまでの話。 ※設定上2人が仲良くなるまで時間がかかります…でもちゃんとハッピーエンドです!

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった

藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。 毎週水曜に更新予定です。 宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。

処理中です...