迷子の僕の異世界生活

クローナ

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皇子様のお披露目式

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「ではまずこちらをお召し替えになってください。」

侍従さんに渡されたのは新しいシルクのキャミソールとトランクスパンツ。今着ているものと同じ様だけどサイズは俺にぴったりで肌触りが良すぎて少しくすぐったい。

用意されていた衝立に隠れて自分ひとりで着替えられたのはそこまでで衝立から出ると俺は着せ替え人形みたいになった。

侍従さんの持つ白の長袖ブラウスに袖を通しいつも足首で遊んでる靴下はちゃんと伸ばしてふくらはぎに付けたベルトで留められた。
ピタリとした黒のパンツを履かせてもらいその上に鮮やかな青色のベスト。首元には白色のタイをベストと同じ青色の大きな宝石のついたブローチで留めた。

黒のロングブーツも履かせて貰ってわずかに伸びた身長を楽しんでいると装飾を取りに行ってくれた侍従さんが戻ってきた。

髪のセットも無事完了し金糸の刺繍で飾られた白のロングジャケットを羽織らせて貰って鏡の前に立つ。

「いかがですか?」

「なんだか自分じゃないみたいです。」

アルフ様みたいな皇子様っぽい格好もクラウスを真似て前髪を上げおでこを出した自分の顔も見慣れなくてなんだか変な感じ。

「とても良くお似合いです。」

「ご立派ですわトウヤ様。」

「本当にお可愛らしいです。」

「あ、ありがとうございます。」

侍従さんの褒める言葉がこそばゆい。こう言うのなんて言ったっけ。確か『馬子にも衣装』?

「愛らしいお姿に誰もが心を奪われてしまうことでしょう。トウヤ様のお披露目のお支度が出来てこの上ない幸せでございました。」

侍従さんに褒められてすっかりその気になった俺は寝室を追い出されたクラウスに遅すぎる朝の挨拶と一緒に感想を強要してみた。

「おはようクラウス。どう…かな。」

「……うん、よく似合ってる。」

クラウスはほんのちょっと困った様な顔でそれだけ言うとフイッと横を向いて廊下に続く扉へ足を向けた。

なんだ、侍従さんのはやっぱりお世辞だ。まぁお城で毎日アルフ様やユリウス様みたいな本物のキラキラした人を見てたら付け焼き刃の俺なんてそんなもんだよね。
磨いて貰ったところでしょせん元は『田舎の小娘』侍従さんにのせられてクラウスからの称賛を期待した自分が恥ずかしい。

クラウスが廊下に続く扉を開けて外にいる誰かに声を掛けると数人の男性の侍従さんが入って来て持ち込んだハンガーラックや箱を運び出し一緒に王妃様の侍従さん達も戻っていき、入れ替わりにテーブルの上に食事が用意された。

小さなサンドイッチにカットされたフルーツに温かいスープ。形良く盛られた朝食に食欲がそそられお腹が鳴った。

「クラウスは?」

もう着替えも済んだし食べちゃったのかな。

「ご心配なさらず。騎士様の朝食もこちらにご用意する様仰せつかっておりますよ。」

昨日もお茶を運んでくれた女性の侍従さんがワゴンを入れ替えてクラウスの分もテーブルの向かい側に並べてくれた。

「良かった、一緒に食べられるね。」

「そうだな。ああ、給仕は引き受ける。」

ソファーに座った俺の後ろにいたクラウスに話しかけるとさっきと同じ素っ気なさに苦笑いを加えると紅茶を入れてくれようとした侍従さんの所に声を掛けに行った。

「では騎士様にお願いして下がらせていただきます。」

クラウスの態度にこれでもまだ香りがきつかったのかと自分で手首の匂いを確かめるうちに部屋にはクラウスと俺だけになった。

「あ、紅茶なら俺が淹れるよクラウスは座って?」

せっかくふたりなんだからゆっくりして欲しい。

「ん?大丈夫だよいつもやってるんだから…って、え?なに?なになに!?」

立ち上がってティーポットに伸ばしかけた手をクラウスの手に握られた俺はそのまま腕を引っ張られて寝室に連れ込まれてしまった。

外向きに俺の両腕を掴んで立たされた場所は大きな姿見の前でクラウスと俺が重なる様に立つ姿が映っていた。

「可愛い、綺麗だ、よく似合ってる。」

さっきは随分と素っ気なかったクラウスが俺の好きな優しい笑顔を惜しげもなく晒して褒めちぎってきた。鏡越しに真っ直ぐ俺を見つめるイケメンの不意打ちに心臓がぎゅうっと鷲掴みにされ一瞬で耳が熱くなる。そんな態度欠片も見せなかった癖にこんなのズルい。

「あ…ありがとう。でも褒め過ぎだよ。」

「足りないさ。さっきは悪かった。冬夜に相応しくない未熟な護衛騎士だと思われたくなかった。でもあまり上手い褒め言葉が浮かばなくてダメだな。」

「そんな事ないよ。」

申し訳無さそうな顔を見せるクラウスにわかってなかったのは俺の方だと気がついた。クラウスが騎士であろうとするのは俺の為なんだから。

素っ気なくされて自分でもなかなか良い出来だと思ってたから薄い反応に本当はがっかりしてた。むくれて膨らむほっぺたを押さ込んで誤魔化したのは気づかれていないといいな。

「髪留めはこの前の飾り紐にしたのか?」

「うん。やっぱり緊張するからマリーとレインに勇気を分けてもらおうかなって。変かな?」

「いや、すごく良いよ。」

侍従さんが後から持ってきたものは細いリボンだったからダメ元でふたりに貰った飾り紐を使えないか聞いてみた。無理なら服のポケットにでも入れて置くつもりだったんだけど理由を話したら飾り紐を花の形にして青いリボンの結び目にピンで止めてくれた。

「可愛すぎて人前に出したくないな。」

クラウスは満足そうに鏡に映る俺を見ていたけれど俺はそれではなんだか物足りなさを感じてしまった。

「あの…クラウス、できれば鏡じゃなくて俺を見て欲しいんだけど……。」

鏡越しに浴びる褒め言葉も嬉しいのだけれどそろそろ直接見て欲しい。だけどクラウスは最初からずっと両腕を掴んだままで俺は『気をつけ』の姿勢で立たされていた。

「そういう事を言われるとキスしたくなるから止めてくれ。」

長い溜息の後少し睨む様に鏡の中俺を見た。そんな事言われたら俺の方こそして欲しくなるんだけど。

「本当に困ったよめさんだな、支度終わってるのにできるわけ無いだろ。」

思わず結んだ口の横を今度は苦笑いをしたクラウスが指先でちょん、とつついた。だからそんなの逆効果だ。寝起きがあんなだったからおはようのキスも出来なかったし。

「取れたら直すように貰ったからその……ちょっとなら平気だよ?」

諦めきれずポケットから侍従さんが持たせてくれたグロスを出して見せると余程呆れたのか顔を手で覆ってしばらく天を仰いでしまった。

立派な『騎士様』は全然誘惑されてくれない。昨日は『キスくらいいいよな』って言ったのに。

「──ったく。これだけ煽りまくって後で後悔しても知らないからな。」

眉間にシワを寄せたクラウスは吐き捨てるようにそう言うとむくれてうっかり突き出した色気のない俺の唇にグロスを直す必要もない程の口付けをした。





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