迷子の僕の異世界生活

クローナ

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変わる環境とそれぞれの門出

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洗濯物に手が届かない代わりに俺が外したのを順番に受け取りかごに入れてくれる。

マリーの服はサーシャが、レインの服はディノが競うように受け取ってわいわいと賑やかにしているから俺もシーツをかごに収まるよう簡単にたたみながらこの内の二組はもう一度たたみ直さなくちゃなんて思う感傷に浸るのは後になるみたいだ。

お昼寝がなかったのやらクラウスが来てるのやら洗濯物を取り込むのに子供達がいることやら、マリーとレインが学校に行ってしまった事で時間とやる事べき事が噛み合わない。
のんびり取り込んだ洗濯物は取り敢えずリネン室に放っておいていつもならお昼寝から起きてくる前に終えている紅茶用のお湯を沸かしている所にノートンさんとクラウスが国王陛下から頂いたと言うお菓子と一緒にやってきた。

綺麗にラッピングされた大きな箱に期待を込めて蓋を開けるとの中に色んな種類の焼き菓子が盛り沢山に入っていた。

手洗いを終えて台所に入ってきた子供達も甘い香りに誘われる。

「うわぁおいしそう!」

「「これたべていいの?」」

「でぃのも、でぃのもみたいぃ。」

テーブルの上に頭の出る年中組の横でディノが一生懸命背伸びをしていた。

そっか、こういう時は当たり前みたいにマリーやレインが抱き上げてくれていたんだ。

「はい、これで見える?」

「うん!」

やっとマリーとレインの代わりになれる役割を見つけられた。抱き上げてお菓子の箱が見えてディノがニコニコ笑顔になる。

「これおにいちゃんのおみやげ?」

「これは国王陛下から頂いたんだよ。」

「こくおうへいか?」

ノートンさんから送り主を知らされ子供達がきょとんとした顔を見せる。

「うん、この前トウヤ君が治癒魔法を使える話をしただろう?その事で国王陛下がトウヤ君とお話を聞ししたいと言われてね。それでこのお菓子は明日、明後日とトウヤ君をキミ達から借りてしまうお詫びだそうだよ。」

「とおやをかしちゃうの?」

サーシャが不思議そうに俺を見た。

「うん、明日からちょっとお出掛けしてくるからごめんね。でもみんなが淋しくないようにジェシカさんとハンナさんが来てくれるよ。」

「ほんと!?」

「それについても国王陛下がご配慮下さったんだ。」

「「「わ~い。」」」

ジェシカさん達が来る事を喜ぶ声と一緒に「じゃあいいよ。」とか「かしたげる。」と言われると安心するけどちょっと淋しい。

心の中でこっそりイジけているとノートンさんが壁際に立っていたクラウスをお茶に誘った。

「クラウス君も一緒にどうだい?」

「お心遣いありがとうございます。ですが私はこれで失礼します。」

「そうか、じゃあトウヤ君、おやつの支度の続きは私がしておくからキミはクラウス君をお見送りしてくれるかい?」

「は、はい。」

ノートンさん、今日は振られっぱなしの俺に気を使ってくれたのかな。

見送ると言ってもその短い距離は何から話そうか考えているうちにあっという間に正門についてしまった。

せっかく逢えたのにあんまり話せなくて残念だけど俺もクラウスも仕事中なんだから仕方ない。

「じゃあ──」

「明日」と言おうとして顔を上げたらクラウスにじっと見つめられそれから片手で俺の目元を指の背で撫でられた。

「タオルはいらなかったか?」

優しい空の蒼色の瞳が俺の心を覗き込んできた。
俺が泣きそうな時、それから泣いた時いつもこうして俺の目元をそっと拭う。心配してくれて嬉しい。
今日の『お仕事』は俺の護衛じゃないから触ってもいいのかな。でも今日の俺はちょっと変だ。ほんの少し逢わなかっただけなのに、声なら毎日聞いているのにクラウスが近づくだけで心臓がトクトクトクトク音をたてる。

「うん、ちゃんと笑って見送ったよ。」

「そっか。頑張ったな。」

子供達が立派すぎて泣いてられなかったのが本当の所なんだけど慰めるように頭を撫でるクラウスの手が心地よい。2、3度往復した手が後頭部を撫でて髪の結びで止まった。

「髪、結ってる所初めて見たな。」

「そうだっけ。」

言われてみれば夜に逢う時はシャワーの後だったし流石にラッピングのリボンで外出は出来ないからこの前の買い物の時も外してたっけ。

「これも冬夜の作った飾り紐なのか?」

「この飾り紐は違うよ。適当なので結わえてたのを見かねてマリーとレインが作ってくれたんだ。俺の宝物。」

「そうか、よく似合ってる。」

「あ、ありがとう。」

宝物を褒められて嬉しい。もしかしたらこの前みたいに治癒魔法が付いてないか心配してくれたのかな。
だけどきちんと髪を整えているクラウスと違って邪魔にならないよう結んでいるだけだからなんだか照れくさい。
その上話しながら長い指がうなじを撫でるからくすぐったいのだけどクラウスの手はそこに留まったまま。

もう少し話していてもいいのかな。

「あの……さっきの、嬉しかった。子供達の前で言ってくれたこと。」

誰よりも愛してる。必ず幸せにする。

こんな素敵な人に想ってもらえて本当に幸せだ。

「子供達から求婚されてあまりにも嬉しそうで冬夜が頷いてしまいそうだったから。───少し大人気なかった。」

「俺の事『皇子』って言ったこと?ふふっ大丈夫みんな気付いてないよ。だって『桜の庭』の子供はみんな王妃様の愛し子で皇子様で皇女様なんだよ。」

「──そうだな。」

俺は嬉しいばっかりだったけれどクラウスにとってはそうではなかったみたいでバツの悪そうな顔で笑うと「じゃあまた夜に」と名残惜しそうに俺の髪にキスをして行ってしまった。

そのキスを唇に欲しかったなんてうっかり思ってしまった俺は顔を洗って熱が収まるまで美味しいおやつにありつけなかったのは誰にも内緒だ。


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