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変わる環境とそれぞれの門出
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しおりを挟むどうしてクラウスが心配するのかよくわからないまま昨日の夜に飾りボタンを付けたマリーのリボンとレインのタイを持って執務室に戻った。
飾りボタンをただ縫い付けるだけ。
ミサンガの様に刺繍糸を編み上げて作るのではないのだからと何も気にしてなかった。
だけど部屋に戻った時俺の手元を見て驚いたノートンさんの顔でそうじゃないってわかった。
「どうして……。」
本当はマリーとレインに俺の願いをたっぷり込めてミサンガを送りたかった。セオを守れたように離れたふたりに何か起きた時同じ様に守れたらって。
だけどそのせいでふたりが別の危険なことに巻き込まれるのが怖くて諦めたのにこれじゃあ意味がない。
「ふふっクラウスの心配した通りだ。」
頬をルシウスさんの大きな手が撫でるまで傍に来るのも気づかないほど俺は扉の前でショックで立ち尽くしていた。
「小鳥ちゃん大丈夫だよ、ほらこっちで座ろう?」
ルシウスさんは下を向いたままの俺の手からリボンとタイを取ると空になった手を優しく引いてまた隣に座らせた。
「誤解のないように言っておくけど誰も駄目だなんて思ってないよ。」
そんな筈ない。だってノートンさんは今も困った顔をしているから。
「駄目ですよ。だって僕の魔法は知られてしまえば悪い人に狙われてしまうかも知れないんですよね。だからルシウスさんに子供達を護る『鈴』を作ってもらったのにこんな物を渡そうとしてただなんてこれじゃあ自分でマリーとレインを危険に晒すようなものじゃないですか。」
クラウスは気が付いていたのに俺自身は考えもし無かったなんて自分の迂闊さが嫌になる。
「トウヤ、クラウスが心配したのはトウヤが魔道具を作ることじゃなくて意図せず作ったことを後で知ってこうして自分を責めてしまう事だよ。それを聞いたから私もここへ来たんだ。」
ルシウスさんに名前を呼ばれ、クラウスの言葉を伝えられ顔を上げれば俺を見下ろす優しい笑顔はやっぱりどこかクラウスに似ていて泣きそうになる。
「やっと顔を見てくれたね。先生が驚くのは当たり前だよ、私もクラウスの心配は杞憂だと思ってたんだ本来あんな小さなクズ石に魔法なんて付与できないんだから。あ~ごめん、贈り物に使っていい表現ではないね、でもほらそれをできちゃう小鳥ちゃんは本当に凄いんだよ。」
本当にそうなのだろうかとノートンさんを見れば苦笑いで頷いてくれた。
「昨日見せてもらった時まさかこのボタンに魔法が付与できるなんて想像もしなかったからね……いやはや、驚きすぎてどういう顔をしたらいいのかわからないよ。トウヤ君には私の知ってる魔法士の常識が追いつかないな。」
「ね、先生も駄目だと言わないだろう。自分でも見てご覧ここからは小鳥ちゃんの優しい魔力を感じるよ。」
ルシウスさんはそう言うと手をかざして俺がふたりの飾りボタンに付与してしまった魔法を浮かび上がらせた。
そこには前のミサンガと同様に日本語の七夕の願い事みたいな昨日縫いつけながらたくさん願った言葉が溢れていた。
「ああでも結局何が付与されてるかわからないんだっけ。」
「……いえ、本当はわかります。これは僕の育った所の文字なんです。前の時は言えなくてごめんなさい。」
「え!じゃあ何が付与されてるのか判るのかい?」
ルシウスさんが期待を込めた瞳で俺を見るけれどまともそうなのは以前と同じ『病気や怪我をしませんように』『そうなっても早く治りますように』と浮かぶ文字。
他にも『勉強頑張って』『身体に気をつけてね』『いつでも帰ってきてね』『無理しないで』
それから『ありがとう』と『大好き』
ボタンを縫い付けながらふたりを想った言葉がそのままだ。なんかちょっと小さなふたりに甘えすぎて恥ずかしい。
これで本当に魔法だと言えるのだろうか。
「───飾り紐と同じ治癒魔法が付いてるみたいです。でも……やっぱり外します。」
ミサンガと同じならやっぱり渡せない。
そう言ってリボンとタイに伸ばした俺の手にノートンさんの手が上から覆うように重なった。
「そのままじゃ駄目かい?」
「ノートンさん。」
「いいじゃないか、そもそも子供の健やかな成長を願うものなんだ。その飾りボタンには紛れもなくマリーとレインへのトウヤ君の愛情が沢山こもってるんだろう?」
「でも……。」
「先生の言う通りだ、それに学校は危険な事が起きる場所じゃない。大怪我なんてそれこそ滅多にないから人が驚くような高位の治癒力を披露することはないよ。せいぜい周りからちょっと丈夫な子だと思われるくらいじゃないかな。」
「でも万が一でもふたりを巻き込んだりしたくありません。」
どう言われてもそれが何よりも怖い。
「トウヤ、間違えちゃ駄目だ自分の力を怖がらないで。トウヤがお父様の偉大な刻の魔法士の力で今ここにいるようにその力もトウヤのお母様から受け継いだに違いないんだ。だから大丈夫だよ、悪いことは起きない絶対に。兄さんを信じなさい。」
ルシウスさんの言い方はズルい。お母さんから受け継いだものだなんてそんな風に言われてしまったら何も言えなくなってしまう。
「……でも……小さな怪我でも急に治ったらふたりとも驚くかも知れないし……。」
「なら小鳥ちゃんの治癒魔法が掛けてあるって話したらいいじゃないか。」
それが最後の抵抗だったのにあっさりと覆したルシウスさんの提案にノートンさんも頷いてしまう。
「いい機会じゃないかトウヤ君そうしよう。知っていれば驚く事もないし安心して学校生活を送れると思うよ。治癒魔法は今や使い手自体が希少だ。だから初級魔法の使えないトウヤ君が使えると聞いたらきっと驚くよ。」
「え……?小鳥ちゃんは初級魔法が使えないんですか?」
「ああ、何度か教えてみたんだけどね。」
「いやいやまさか、こんな事が出来るのに?」
「いやそれがそのまさかなんだよ。」
「もうわかりましたからからかうのは止めて下さい。」
2人のやり取りが俺を和まそうとしてるのだと判るけどそのネタが俺だなんてあんまりだ。
「ふふっ小鳥ちゃんが小リスになってる。さてと、新しい『飾り紐』が見たかったけど催促がうるさいから戻るね。小鳥ちゃんはもう大丈夫だね?」
「……はい。」
「あれ?大丈夫じゃないならこのまま王城へ連れて行ってしまうけどいいのかい?」
「だ、大丈夫です!」
「そんなに嫌がらなくたっていいのに。」
ローブの中からチカチカと瞬く通信石を出し立ち上がったルシウスさんに自信のない返事をするとそんな風に言うから慌てて「大丈夫」と言い直すとルシウスさんは俺を真似して頬を膨らませた。
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