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変わる環境とそれぞれの門出
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しおりを挟む楽しい魔法も知りたいけれど今俺が1番使えるようになりたいのは風魔法だ。
ルシウスさんは壊れずに残った魚達を空高く飛ばして霧雨に変え本物の虹を作ってくれて、疲れ果て芝生に寝転がって見てた子供達はすでにびしょ濡れだった。
マリーとレインもいつもなら自分で乾かせるのに魔法の魚相手に遠慮なしの全力鬼ごっこに疲れ切ってしまい魔法が使えなくなっていた。
「疲れちゃうと魔法も使えなくなっちゃんですね。」
元から使えない俺ならこのまま子供達をシャワーに連行するところだけどルシウスさんが全員まとめて一瞬で乾かしてしまった。
その便利さにいいなぁと羨ましくなってしまう。
「そうだよ、魔力がなくなっても動けなくなる。だから小鳥ちゃんも魔力の使いすぎに気を付けてね。」
「僕は魔力なんて使ってないから大丈夫ですよ?」
もちろん水を出したり洗濯機を使ったり魔力がないと使えないから全く使っていないわけじゃないけれど触れれば中の魔法石によって小さなディノでも使えてしまうほど小さな魔力で発動する。
通信石には多くの魔力が必要らしいけれどそれ以外今は使う事がない、というか使えないもんね。
「ふふっそう言えば小鳥ちゃんは自覚なしだったね。昨日は会議中クラウスのピアスが随分長い間光ってアルフレッド様にからかわれてたよ。前から気になってたけどあんな事して小鳥ちゃんは疲れないの?」
「……ね、寝る時だったので平気です。」
「ならいいけど。」
ルシウスさんはニヤニヤしながらからかいも含めて多分注意してくれたんだと思うけれどまさか昨日『お守り』を抱きしめて眠った所為でそんな風にクラウスのピアスを光らせてしまっていたとは思わなかった。
魔力がなくなると動けなくなるなんて本当に電気みたいだ。だけど昨夜も別に疲れて眠ったわけじゃないと思う。ルシウスさんの言うように魔力が自覚できないからノートンさんに教えてもらっても風魔法が使えないのかな。
それにしても俺がベットに入ったのはクラウスに「おやすみ」を言ってから随分後だった。なのにまだ会議をしていたなんてやっぱり通信だけにして正解だ。
でも今夜はどうやって眠ろうかな。
******
小さい子組がお昼寝に入った所でノートンさんはルシウスさんと執務室へ向かい、俺に紅茶を入れて欲しいと言ってプレイルームから同時に連れ出した。
「ところで本当は何をしに来たんだい?」
廊下に出て少し歩けばノートンさんが不意にそう言った。
「やっぱりバレていましたか。」
「そうじゃなきゃ『桜の庭』に来たりしないだろう?別館の改装の事かい?」
「それは美味しい紅茶をいただきながらお話しますよ。ね。」
ルシウスさんはそう答えると言葉通りに『遊びに来た』と思ってふたりの会話にぽかんとしてた俺をちらりと見てウインクした。
そしてノートンさんの執務室に紅茶を準備して向かえばルシウスさんは俺を手招きして隣に座らせた。
「僕にご用事だったんですか?」
「まあね、だけど可愛い弟に会いに来るのに用事がないと許されないんだからヒドいもんだよね。」
「そうなんですか?」
俺が思い描く『魔法使い』の様なステキな魔法を操る人に可愛い弟だなんて言われて嬉しくなってしまう。
「そうだよ今日だって『抜け駆けだ』ってアルフレッド様に言われたんだから。でもクラウスが見てこいって言うんだからしかたないよねぇ。」
「クラウスが?」
子供達と同じ様によしよしと撫でられながら今日来たのがクラウスから言われたからだなんて聞いたらその理由が気になって仕方ない。だけどノートンさんがメガネのレンズを光らせてルシウスさんの返事を遮った。
「『義弟』だなんて少し気が早くないのかい?」
「先生、小鳥ちゃんはクラウスの伴侶だから『義弟』なのではありませんよ。小鳥ちゃんは私達の『大叔父』ですが年寄扱いは嫌だと言うのでそれならばと末っ子扱いになったんです。だからもしもクラウスと結婚しなくても私が小鳥ちゃんの『兄さん』なのは変わらないんですよ、ね。」
「僕はクラウスと結婚します。」
ルシウスさんのその言葉に俺は安心より不安を覚えそんな事にはならないと強く主張した。
「ふふっごめんねただの例え話だよ。ふらふらしてたクラウスが今や兄と同じ近衛騎士だなんて全部小鳥ちゃんのお陰なんだ。私達こそクラウスと結婚してくれなくちゃ困るよ。」
ただでさえ結婚を先延ばしにされているのにトマスさんといいルシウスさんといい勘違いや例え話でそんな事言わないで欲しい。
「そうかルシウス君達の『大叔父』になるのか。改めてそう聞くとなんとも不思議な事だ。ガーデニア王が時間を操れると知っていても実際の魔法を見たことは無いからトウヤ君が『失われた皇子様本人』だという事実はその偉大さを実感するね。生きておられたらどれ程素晴らしい教えを請う事が出来ただろう。」
「そうですね。ですが小鳥ちゃんには申し訳ないけれどそうでなければ今こうして可愛い弟と出会うことが出来なかったので欲張ることは出来ませんよ。」
「もちろんそれは私だって同じだよ。」
ふたりともなんとも言えない顔で俺を見るけれど俺を選んでくれる人がいる今この時代のこの場所にいられる事を誰よりも嬉しいと思っているのは俺だからお父さんとお母さんに申し訳なく思うのはやっぱり俺だ。
「僕もです。」
俺がだらしなく笑う顔を見てまたルシウスさんが頭をなでなでしてくれた。
「小鳥ちゃんはいい子だね。今日はそのいい子の小鳥ちゃんが大きいチビちゃん達に用意した贈り物と新たに作る『飾り紐』を見せてもらいに来たんだ。」
「え……どうしてそれを?」
「そうなのかい?まさかマリーとレインに?」
「いえ違います。」
慌てて否定すればノートンさんは「ほっ」と短く息を吐く。やっぱり持たせないことのほうが正解みたいだ。
「実は今日ノートンさんに相談しようと思ってたんです。マリーとレインに持たせるのは心配で出来ませんけどセオさんならどうかなって。でも黙って作ろうと思った訳ではありません、相談した後でちゃんとお話するつもりでいました。」
その答えを聞いてからアルフ様に話すつもりでいたけれど許可を戴いてからもう1度クラウスを呼び出すのは申し訳ないから材料だけは昨日手に入れた。無駄になっても刺繍糸の使い道はいくらでもある。
でもクラウスは前に一緒に糸を選んだから俺がミサンカを作るつもりだと気が付いたんだ。
「そんな顔はしなくていいよ『飾り紐』は小鳥ちゃんの好きにしていいんだから。アルフレッド様もそう言ったんだろう?私はただ見たかっただけだよ、だって自分に治癒魔法が使えるってわかっててちゃんと作るの初めてなんじゃない?」
「……はい、言われてみればそうかも知れません。」
勝手に作るのはやっぱり駄目だと言われてしまうかと不安になったけれどニコニコと笑うルシウスさんは前に来てくれた時の様に普通の魔道具とは違う作りのミサンガを見たいだけの様だとホッとしたのも束の間のことだった。
「クラウスが気にしていたのは大きいチビちゃん達への贈り物の方だ。」
「……え?」
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