迷子の僕の異世界生活

クローナ

文字の大きさ
上 下
237 / 333
変わる環境とそれぞれの門出

237

しおりを挟む



楽しい魔法も知りたいけれど今俺が1番使えるようになりたいのは風魔法だ。

ルシウスさんは壊れずに残った魚達を空高く飛ばして霧雨に変え本物の虹を作ってくれて、疲れ果て芝生に寝転がって見てた子供達はすでにびしょ濡れだった。
マリーとレインもいつもなら自分で乾かせるのに魔法の魚相手に遠慮なしの全力鬼ごっこに疲れ切ってしまい魔法が使えなくなっていた。

「疲れちゃうと魔法も使えなくなっちゃんですね。」

元から使えない俺ならこのまま子供達をシャワーに連行するところだけどルシウスさんが全員まとめて一瞬で乾かしてしまった。
その便利さにいいなぁと羨ましくなってしまう。

「そうだよ、魔力がなくなっても動けなくなる。だから小鳥ちゃんも魔力の使いすぎに気を付けてね。」

「僕は魔力なんて使ってないから大丈夫ですよ?」

もちろん水を出したり洗濯機を使ったり魔力がないと使えないから全く使っていないわけじゃないけれど触れれば中の魔法石によって小さなディノでも使えてしまうほど小さな魔力で発動する。
通信石には多くの魔力が必要らしいけれどそれ以外今は使う事がない、というか使えないもんね。

「ふふっそう言えば小鳥ちゃんは自覚なしだったね。昨日は会議中クラウスのピアスが随分長い間光ってアルフレッド様にからかわれてたよ。前から気になってたけどあんな事して小鳥ちゃんは疲れないの?」

「……ね、寝る時だったので平気です。」

「ならいいけど。」

ルシウスさんはニヤニヤしながらからかいも含めて多分注意してくれたんだと思うけれどまさか昨日『お守り』を抱きしめて眠った所為でそんな風にクラウスのピアスを光らせてしまっていたとは思わなかった。

魔力がなくなると動けなくなるなんて本当に電気みたいだ。だけど昨夜も別に疲れて眠ったわけじゃないと思う。ルシウスさんの言うように魔力が自覚できないからノートンさんに教えてもらっても風魔法が使えないのかな。

それにしても俺がベットに入ったのはクラウスに「おやすみ」を言ってから随分後だった。なのにまだ会議をしていたなんてやっぱり通信だけにして正解だ。

でも今夜はどうやって眠ろうかな。


******


小さい子組がお昼寝に入った所でノートンさんはルシウスさんと執務室へ向かい、俺に紅茶を入れて欲しいと言ってプレイルームから同時に連れ出した。

「ところで本当は何をしに来たんだい?」

廊下に出て少し歩けばノートンさんが不意にそう言った。

「やっぱりバレていましたか。」

「そうじゃなきゃ『桜の庭ここ』に来たりしないだろう?別館の改装の事かい?」

「それは美味しい紅茶をいただきながらお話しますよ。ね。」

ルシウスさんはそう答えると言葉通りに『遊びに来た』と思ってふたりの会話にぽかんとしてた俺をちらりと見てウインクした。

そしてノートンさんの執務室に紅茶を準備して向かえばルシウスさんは俺を手招きして隣に座らせた。

「僕にご用事だったんですか?」

「まあね、だけど可愛い弟に会いに来るのに用事がないと許されないんだからヒドいもんだよね。」

「そうなんですか?」

俺が思い描く『魔法使い』の様なステキな魔法を操る人に可愛い弟だなんて言われて嬉しくなってしまう。

「そうだよ今日だって『抜け駆けだ』ってアルフレッド様に言われたんだから。でもクラウスが見てこいって言うんだからしかたないよねぇ。」

「クラウスが?」

子供達と同じ様によしよしと撫でられながら今日来たのがクラウスから言われたからだなんて聞いたらその理由が気になって仕方ない。だけどノートンさんがメガネのレンズを光らせてルシウスさんの返事を遮った。

「『義弟おとうと』だなんて少し気が早くないのかい?」

「先生、小鳥ちゃんはクラウスの伴侶だから『義弟』なのではありませんよ。小鳥ちゃんは私達の『大叔父』ですが年寄扱いは嫌だと言うのでそれならばと末っ子扱いになったんです。だからもしもクラウスと結婚しなくても私が小鳥ちゃんの『兄さん』なのは変わらないんですよ、ね。」

「僕はクラウスと結婚します。」

ルシウスさんのその言葉に俺は安心より不安を覚えそんな事にはならないと強く主張した。

「ふふっごめんねただの例え話だよ。ふらふらしてたクラウスが今や兄と同じ近衛騎士だなんて全部小鳥ちゃんのお陰なんだ。私達こそクラウスと結婚してくれなくちゃ困るよ。」

ただでさえ結婚を先延ばしにされているのにトマスさんといいルシウスさんといい勘違いや例え話でそんな事言わないで欲しい。

「そうかルシウス君達の『大叔父』になるのか。改めてそう聞くとなんとも不思議な事だ。ガーデニア王が時間を操れると知っていても実際の魔法を見たことは無いからトウヤ君が『失われた皇子様本人』だという事実はその偉大さを実感するね。生きておられたらどれ程素晴らしい教えを請う事が出来ただろう。」

「そうですね。ですが小鳥ちゃんには申し訳ないけれどそうでなければ今こうして可愛い弟と出会うことが出来なかったので欲張ることは出来ませんよ。」

「もちろんそれは私だって同じだよ。」

ふたりともなんとも言えない顔で俺を見るけれど俺を選んでくれる人がいる今この時代のこの場所にいられる事を誰よりも嬉しいと思っているのは俺だからお父さんとお母さんに申し訳なく思うのはやっぱり俺だ。

「僕もです。」

俺がだらしなく笑う顔を見てまたルシウスさんが頭をなでなでしてくれた。

「小鳥ちゃんはいい子だね。今日はそのいい子の小鳥ちゃんが大きいチビちゃん達に用意した贈り物と新たに作る『飾り紐』を見せてもらいに来たんだ。」

「え……どうしてそれを?」

「そうなのかい?まさかマリーとレインに?」

「いえ違います。」

慌てて否定すればノートンさんは「ほっ」と短く息を吐く。やっぱり持たせないことのほうが正解みたいだ。

「実は今日ノートンさんに相談しようと思ってたんです。マリーとレインに持たせるのは心配で出来ませんけどセオさんならどうかなって。でも黙って作ろうと思った訳ではありません、相談した後でちゃんとお話するつもりでいました。」

その答えを聞いてからアルフ様に話すつもりでいたけれど許可を戴いてからもう1度クラウスを呼び出すのは申し訳ないから材料だけは昨日手に入れた。無駄になっても刺繍糸の使い道はいくらでもある。
でもクラウスは前に一緒に糸を選んだから俺がミサンカを作るつもりだと気が付いたんだ。

「そんな顔はしなくていいよ『飾り紐』は小鳥ちゃんの好きにしていいんだから。アルフレッド様もそう言ったんだろう?私はただ見たかっただけだよ、だって自分に治癒魔法が使えるってわかっててちゃんと作るの初めてなんじゃない?」

「……はい、言われてみればそうかも知れません。」

勝手に作るのはやっぱり駄目だと言われてしまうかと不安になったけれどニコニコと笑うルシウスさんは前に来てくれた時の様に普通の魔道具とは違う作りのミサンガを見たいだけの様だとホッとしたのも束の間のことだった。

「クラウスが気にしていたのは大きいチビちゃん達への贈り物の方だ。」

「……え?」



しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった

藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。 毎週水曜に更新予定です。 宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

物語なんかじゃない

mahiro
BL
あの日、俺は知った。 俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。 それから数百年後。 俺は転生し、ひとり旅に出ていた。 あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?

処理中です...