迷子の僕の異世界生活

クローナ

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変わる環境とそれぞれの門出

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「まったくこっそり侵入するだなんていくらルシウス君といえどやっていいことじゃないだろう!王国魔法士と言う立場を少しは考えなさい。だいたい突然訪ねてくる事も非常識だ。」

ノートンさんが怒ったところなんて見た事がないけれど扉を開けた時の慌てた顔といいきっとものすごく俺たちの事を心配てくれたんだろうな。ルシウスさんは長身を折りたたんで小さくなって叱られていた。

訪問の理由を「みんなと遊びに来た」と言う叱られてへこんでしまったルシウスさんを子供達に任せ、俺はやりかけの洗濯物を干して再びみんなの所に戻るとレインがルシウスさんにおねだりをしていた。

「ルシウスさん、なにか魔法見せてください。」

「いいよ、じゃあここに息を吹きかけてご覧。」

『なにか』なんてぼんやりとしたレインのお願いに俺はまた『桜の庭』の上空の虹を見たいと思ったのだけど今は昼間だからせっかくなら夜がいいな、なんて思ったのにルシウスさんは親指と人差し指で輪っかを作りレインの横にくっついていたディノの前に差し出した。
指が長いからディノがあ~んと開けた口より大きい輪っかだ。

子供達と一緒になってなにが起きるのかドキドキしながら見ているとディノが尖らせた小さな唇からめいっぱい膨らませたほっぺの中の息をふう~っと吹きかけた途端、そこから水でできた一匹の魚が飛び出した。

「「うわぁ!」」

「「おさかな~」」

陽の光を反射しながらキラキラと煌めいてそのまま空中を泳ぎだした水の魚をディノとサーシャが追いかけだした。

それを手品みたいだと思うのは間違っているのはわかってるけどこんな目に見えてその上可愛らしい魔法なんて初めて見たかも知れない。

「すっげぇ。」

「キミもどうぞ。」

ディノに最初を譲ったレインがはにかみながらユリウスさんの指の輪っかに同じ様に息を吹きかけるとさっきより大きな魚が泳ぎだす。マリーやロイとライも同じ様にさせてもらい生み出された自分の周りを泳ぐ魚を楽しそそうに見入っていた。

「そら、追いかけて。」

ルシウスさんの掛け声で一斉に遠くへと泳ぎだした魚をみんなが追いかけだすと入れ違いにバツの悪そうな顔でディノの手を引く服を濡らしたサーシャと泣きべそのディノが戻ってきた。

「しゃかな…しゃん、きえちゃったぁぁぁ。」

「……つかまえてあげようとしたの。」

ぽろぽろと泣き出したディノの横でもちろんサーシャも半べそだ。

「泣かなくて大丈夫だよ。チビちゃん。」

俺が二人の涙を拭いていると近づいてきたルシウスさんはサーシャの濡れた服を一瞬で乾かしてしまうとサーシャとディノを後ろから抱き込み今度は両手の親指と人差指を使ってさっきより大きな輪をつくる。

「さあどうぞ。」

涙の止まったふたりが「せーの」でそこに息を吹きかけるとルシウスさんの作った輪っかの向こうに魚の大群が現れた。

「「「うわぁぁぁ!」」」

「ふふっ喜んでくれて良かった。」

ふたりと一緒に声を上げた俺にルシウスさんがクスクスと笑っていた。

「あの……僕もやってもいいいですか?」

子供達が魚を追いかけふたりきりになったところで笑われついでにお願いすれば「どうぞ」と小さい方の指の輪っかを差し出してくれた。

シャボン玉みたいにするのかな。

ドキドキしながら「ふうっ」と息を吹きかけると今度はそこから水の小鳥が何匹も出てきた。

「うわぁぁ。凄いですルシウスさん。」

「このくらいでそんなに喜んでくれるなんて可愛いなぁ。」

パタパタと目の前に飛んできた小鳥をそっと包み込むと手の中でただの水に戻ってしまいディノの気持ちがもの凄くわかった。

「このぐらい、だなんて信じちゃ駄目だよトウヤ君。」

「ノートンさん。」

ルシウスさんを叱った後やりかけの仕事に戻っていたのはノートンさんも同じだった。

「水魔法でこんな複雑な形を作って同時にこれほど大量に生み出した挙げ句縦横無尽に方向を操るなんて出来る人間はそんなにいるもんじゃないからね。」

そう言って俺の手を柔らかく包んで乾かしながらノートンさんが常識を教えてくれた。確かに今『桜の庭』は水族館の大水槽並に大量の魚と小鳥が飛んでいる。これが誰でも出来るなら俺は今までにももっと魔法を目にしている筈なんだ。

「いやぁ先生に褒められるなんて嬉しいなぁ。」

ルシウスさんが照れながら立てた人差し指をくるくる回すと指先から今度は水の蝶が沢山出てきた。

「……もしかして息なんて吹きかけなくても出てくるんですか?」

「ふふっでもその方が楽しいだろう?」

確かに水の生き物達の生まれるお手伝いをしたみたいで楽しいけれどそれが必要ない行為だと知ってしまえばは子供みたいにしゃいだことが少しだけ恥ずかしい。

でもニコニコと笑っているルシウスさんやキラキラ光る魚たちを追いかけつかまえる度にその水を浴びながら楽しそうに声を上げて走り回る子供達を見ているとやっぱり俺も楽しくて、この世界に魔法があると知った時のわくわくした気持ちを思い出しもっと色んな魔法を見てみたいと思った。





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