迷子の僕の異世界生活

クローナ

文字の大きさ
上 下
227 / 333
変わる環境とそれぞれの門出

227

しおりを挟む



穏やかに過ぎた翌日、俺とノートンさんは突然の来訪者を迎える事となった。

「はじめまして。私は王城にて宰相首席補佐官を任されておりますリシュリュー=ブランジェと申します。トウヤ様とは今後何かと関わらせていただきますのでぜひお見知りおき下さいませ。ではさっそく本題に入らせていただきますがまずはこちらのふたりが本日よりこちらでお世話になります。急なことでしたのでとりあえず我が家のハウスメイドの中から子供の扱いにも長けているものを選んでまいりました。身元、人柄に問題は無いかと思いますが何かあればご連絡下さい。では次にこちらのものは王都で建築業を営んでいるものでございます。今回の『桜の庭』における改装を一手に引き受けていただきます。大まかな指示は致しておりますが細部はぜひトウヤ様のお好みにしていただければと思いますので助言をいただければと思います。それで今後の予定なのですが───。」

アルフ様からの使いの者だと名乗った方々をノートンさんの執務室にお通しすると扉が閉まるやいなや最もきちんとした身なりの眼鏡を掛けた銀髪の若い男の人が立ったまま早口で話し始めた。

「ちょ、ちょっと待っていただけないだろうか!」

矢継ぎ早にまくし立てるリシュリューさんをノートンさんがようやく止めてくれた。良かった俺じゃ無理だ。

「はい、何でしょう。」

「すまないが私達は何も聞かされていないのだが一体どういうことですか?」

「はい?何も、とは?」

「何もかもです。『第一皇子様からの遣い』と言われましたが私共はあなたの来訪すら存じておりません。」

ノートンさんのその言葉にリシュリューさんはすごい顔になった。

「だ、大丈夫ですか?」

「はい、失礼致しましたトウヤ様。いつものことなので大丈夫ですよ。」

リシュリューさんは深呼吸をひとつするとズレてはいないように見える眼鏡の位置を整えすぐに元の笑顔に戻りそう言ったけど多分ものすごくイラ付いているのを抑えての営業スマイルだ。

「トウヤ様はこの後からお昼まではどんなお仕事を?」

「えっと僕は今洗濯機の中に入っているものを干したら今日はエントランスと階段と二階の廊下の掃除をしたらお昼ごはんまで子供達と遊びます。」

「そうですか、では2人はそのお仕事に回って下さい。」

「「かしこまりました。」」

「じゃあ僕も」

「いえ、トウヤ様はどうぞこちらに。私も掛けさせていただきますトマスもこちらへ。」

急に尋ねられなんとか返事を返すと2人の女性に指示を出し俺は足止めされてしまった。有無を言わせない雰囲気にノートンさんと顔を見合わせたけれどとにかくソファーに並んで座わることになった。
そしてリシュリューさんとトマスさんが向かい側に腰掛けるとテーブルの上に図面を何枚か取り出した。それは『桜の庭』のものだ。

「それでは初めから説明させていただきます。改めまして私はこれまでトウヤ様が稀代の治癒魔法士様であると明らかになってから第一皇子様のご意見を聞きながらこの先行われるお披露目の儀の調整などをさせて頂いておりました。先日王族へとお立場の変わられたトウヤ様ではございますがこの先も『桜の庭』でお仕事を続けられるとの事。前代未聞ではありますがそうお望みだと言う事ならばお気持ちよくご滞在いただくために今は使われていない別館を改装することになりました。」

「え!」

「ご不満ですか?色々なことを踏まえてこれが最適と判断したのですが。あ、勿論本宅は現在土地を吟味中でございますがお住まいになれる迄には1年ほどかかってしまうのでは無いでしょうか。それに王城からの通いとなればご負担もあるのではと思いこの様に判断致しました。」

「あの……そんなの申し訳ないです僕は今のままで充分───。」

「いえ、不十分です。それにクラウス殿との逢瀬の度に街の宿を使われてはさすがに外聞が悪うございます。今後ご結婚されればクラウス殿がこちらに住まわれる可能性もお在りでしょうからその様に改装致しますのでご安心下さい。」

「が……。」

初めて会う人がクラウスとの関係だけでなく王都の宿に泊まったことまで知られてる事に羞恥で一気に耳まで赤くなるのがわかった。しかも『外聞が悪い』って……。

「大変申し訳ありませんが国賓であるトウヤ様とそれを管理する私共との間には行動を詳らかにしていただく必要があります。これは勿論トウヤ様をお護りする為に必要なことで国王陛下をはじめ王族の皆様も同様です。慣れていただくしかございません。」

「は、はい。」

王様にもプライベートはなく、『俺のため』だと言われてしまえばもう黙ってうつむくしか無かった。

「では納得いただけたようなので続けさせていただきます。先程もお伝えしたように本邸の計画は先のものなので手っ取り早くこちらの別館を改装することになりました。ところでトウヤ様王城のお部屋は如何でしたか?どこかご不便なところはございませんでしたか?」

「不便だなんて…凄く素敵でした。」

そう応えるとリシュリューさんの営業スマイルが少し緩んだ。

「それは良かったです。あのお部屋を改装したのはこちらのトマスです。」

「はじめまして。私は王都で主に王城や貴族邸の建築や改装の仕事を請け負わせて頂いております。お部屋に満足していただいて何よりです、これから何日か出入りすることになりますので宜しくお願いします。」

トマスさんは俺とノートンさんの緊張を解してくれるようなおおらかな笑顔の持ち主だった。

「改装の件は了承していただけたと言うことで宜しいですね?ではトマスはこれより別館に立ち入らせていただきます。」

リシュリューさんがそう言うとトマスさんは図面を手に立ち上がり執務室を出ていった。

「では次に院長は『桜の庭』の今後についてなにか聞いておいででしたか?」

「うん、まぁ……。こちらからお願いはしてある話でもありましたから。でも具体的には何も。」

話しをふられたノートンさんは俺の顔をちらりと見ると言いにくそうにそう応えた。

「……では簡潔に。この先トウヤ様に王城よりの呼び出しを受けていただくにあたって『桜の庭』の勤務時間を考慮できない場合がございます。近々であれば御用始めの儀ですがその際トウヤ様に安心して外出して頂けるよう人員を補充させていただきました。尚、お世話になるものについてですが先程も説明致しましたが急でしたので今回は我が家のハウスメイドです。身元、人柄も保証いたします。ナニーの資格も持っておりますのでご安心下さい。本日より幾日かトウヤ様のお仕事を習い、御用始めでご不在の際にはこちらに不便がないように務めさせてさせていただきます。では何か質問はございますでしょうか。」

一息にそう話し浮かべた完璧過ぎる営業スマイルに俺とノートンさんは2人の女性が『住み込みか通いか』を確認する事しか思いつかなかった。




しおりを挟む
感想 229

あなたにおすすめの小説

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

兄弟がイケメンな件について。

どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。 「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。 イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

処理中です...