迷子の僕の異世界生活

クローナ

文字の大きさ
上 下
232 / 333
変わる環境とそれぞれの門出

232

しおりを挟む



今朝はカイやリトナと入れ違う様にジェシカさんとハンナさんが来てくれた。

「おはようございます。もうお仕事を始められているのですか?」

「遅くなって申し訳ありません。」

「いえ、全然そんな事ありません。実は毎朝食事を運んでいただくついでにおしゃべりするのが日課になっているんです。おふたりもどうぞ。」

申し訳無さそうに頭を下げてしまった2人に慌てて事情を説明しながらカイとリトナが片付けたばかりの椅子を並べ紅茶を勧めると2人は遠慮がちに腰を降ろした。

「私だけの時はもう少し後に見習いの者がひとりでやってきて朝食をテーブルに置いていくだけだったんだけどトウヤ君が来て以来どんどん来るのが早くなったんだ。お2人はおしゃべりに付き合う必要は無いからお願いする時は今日と同じ時間で構いませんよ。」

「そうでしたか、でもトウヤ様の様にお可愛らしい方とおしゃべり出来るなら早起きしたくなる気持ちもわかりますわ。」

ノートンさんがフォローをしてくれて2人はようやくほっとしたのか笑顔になった。
だけど俺の方はハンナさんが『お可愛らしい』なんて言うから昨日の夜の『変な顔』の自分を思い出してしまった。

「そ…そろそろ子供達起こしに行ってきますね。」

「でしたら私達も参りますわ。」


いつものはぐちゅうで目覚めた子供達は俺の所為でゆっくり紅茶を飲むことが出来なかったジェシカさんとハンナさんににこにこ笑顔で朝の挨拶をした。

そして昨日のように2人が掃除も洗濯もしてくれて俺はのんびり子供達と遊んでいると荷馬車がやってきて子供達の春月はるつきの新しい服を届けてくれた。

プレイルームに運んでもらいそれぞれの名前が箱の隅にタグ付けられていて仕分けいくと年長組の物は小さい子組の物と比べる箱の数が少ない。
その代わりマリーとレインに別の物が一揃えそれぞれに届いた。

「……制服だ。」

レインがぼそりとそう呟いて開いた箱の中に見入っている。学生になる実感がじわじわとこみ上げてきているようなそんな顔をしてそっと制服を撫でた。

マリーは早速箱から出すと自分の身体にあてている。反応はそれぞれだけど2人共瞳をキラキラさせて嬉しそうだ。

「ノートンさん、着てみてもいい?」

「勿論だ、私からお願いしようと思っていたところだよ。着替えてゆっくり私達に見せてくれるかい?」

ノートンさんの返事にレインが「仕方ないなぁ~」と照れくさそうに応えるとマリーと2人箱を抱えて部屋へ着替えに行った。

その間にまだまだある箱の中身をノートンさんと一緒に確認していく。こうしている今もジェシカさんとハンナさんが掃除をしたり子供達の相手をしてくれているから凄く助かる。

新しい肌着に靴下。普段着の他にお揃いの外出着。生地は薄手で色も明るく春らしい。
エレノア様からの贈り物にはお菓子や新しい絵本も入っていて小さい子組はそっちに夢中だ。

「トウヤ君が頼んだ物も間違いないかい?」

「はい、大丈夫です。」

給料からの天引きを約束して自分の物もいくつか頼んだ。子供達と同じく下着と靴下。後は今着ているような動きやすいシャツとパンツを数枚。最初は持っているもので調節も出来そうだと思って頼むつもりは無かったけれどよく考えたら俺はこの世界の春を知らない。
桜が咲くから大きな違いはないんだろうけれどここは雨も少なく雪を見ることも無かった。

それに前回ノートンさんが『制服だ』と言って身体に合わせて仕立ててもらった服はマデリンで安く仕入れたものに比べるとやっぱり動きやすい。

貴族御用達のテーラーさんの仕立てだからいいお値段なのだろうけど衣食住付きの『桜の庭』でもらうお給料の使い道はなくなってしまったから今回の出費も気にしなくてよさそうだ。

そうして納品の確認が終わる頃、制服に着替えたマリーとレインが戻って来た。

「どうかな?」

照れくさそうに並ぶ2人は白いシャツの上に胸に学校のエンブレムの入った黒いジャケット。マリーは膝丈のスカートでレインはパンツスタイル。マリーの首元にはリボンが結んであって落ち着いた濃紺だけど大きいから華やかだ。
レインは同じ色のシンプルなタイ。

制服だけを見れば地味過ぎるかと思ったけれどシンプルであるからこそ薄紫や深緑の髪色を引き立ていた。

「よく似合ってるよ。」

ノートンさんは嬉しそうに目を細めて一言そう言うとうんうんと何度も頷いて、小さい子組も制服姿の2人を大絶賛だ。

「まりーかわいい。」

「「れいんもかっこいい。」」

「でぃのもかっこいいのなりたい!」

「わ、やめろシワになるだろ。」

飛びついたディノをレインが慌てて抱き上げた。

「なぁトウヤもなんとか言えよ。」

なんだか急に大人っぽくなってしまったふたりに見惚れていたら珍しく顔を赤らめたレインに催促されてしまった。

「凄く似合ってるよ。きっと二人とも学校行ったらモテモテだね。」

「何よそれ。」

「ほんとほんと。見せてくれてありがとう、ほらシワにならないうちに着替えておいで。」

レインからディノを受け取ると「「はーい」」と素直に返事をして着替えに戻っていく。

その後姿を見送る俺の腕の中で「くるしい」とディノが身を捩った。ぎゅうっと抱きしめすぎたみたいだ。
「ごめんね」とほっぺにちゅうをして床に降ろしてあげると新しい絵本を眺めるサーシャのところへ走っていった。
そして空いた両手をロイとライがぎゅうっと繋いでくれた。

「「とおやよしよしする?」」

「トウヤ君、まだ早いよ。」

「……知ってます。」

マリーとレインの立派な制服姿が誇らしくて嬉しいのに、どうしようもなく寂しさがこみ上げる。泣いたりしたら楽しみで仕方ないって顔をするマリーとレインに申し訳なくてせっかく制服姿をお披露目してくれたのに追いたてるようにしてしまった。
ノートンさんは俺が涙をこらえているのをわかってて声をかけてくるから意地悪だ。

慰めに来てくれたロイとライにお礼にハグとちゅうをすると両側からお返しをしてもらったからマリーとレインが服を着替えて戻ってくる頃には気持ちも切り替えられていた。

2人に届いたのは制服だけではなくてエレノア様からの『入学祝い』もあった。
マリーには可愛らしい櫛と鏡。レインにはシンプルだけどやっぱり櫛と鏡。

「鏡を贈る意味はね、あらゆる厄災を跳ね返すようにって願いが込められているんだよ。私からはこれを、実用重視だから特に意味はないよ。」

ノートンさんがそう言って2人に渡した箱の中身は万年筆とレターセット。それからお財布だった。

「ふふっ。お財布は父親からの定番のプレゼントなんですよ。」

ジェシカさんがそっと耳打ちして教えてくれた。本当は理由もちゃんとあって『自分でお金を管理する許可を与える』と言う意味なんだそうだ。

ノートンさんが言わないのはそのお金が父親からではなくフランディール王国の国費だからなのかも知れない。
でも意味を知ったらきっとマリーとレインもノートンさんから成長を認めてもらえたと喜ぶに違いないと思うんだけどな。

俺はふたりへの『入学祝い』を何も用意できていない。
言い訳をするならば俺にとって『入学祝い』とは新しい制服に鞄。自分の名前を書き込める文房具でそれ以外になにか特別なものをもらう事なんてなかった。

でも本当は離れてしまう2人に俺の願いをありったけ込めてミサンガを贈りたかった。怪我も病気もひとりで耐えるのは辛いことを知っているから。アルフ様には俺の好きにしていいと言われてるけれどミサンガが原因で2人になにかあったらと考えれば安心より不安が上回る。

俺が何者であるか子供達はまだ知らないほうが良いと気付かされてからその不安は大きくなって、他になにか適した物がないか考えてみても贈ることと贈られること、どちらも無縁だった俺には難しくて未だ準備が出来ていなかった。

もうあまり時間もないよな。

考えあぐねた俺はお昼ごはんの準備の時に思い切ってジェシカさんとハンナさんに相談をしてみることにした。

「トウヤ様からの『入学祝い』ですか?」

「はい、こんなギリギリなんですけど学校で必ず必要な物とかでマリーとレインに何か良いものはないかと思って。」

2人はいろんな案を出してくれるけれど学校で使うものはやっぱり全て準備されていそうでこれだと言う物がない。

「じゃあおふたりの子供さんの時はどうしたんですか?」

「自分のですか?そうですねぇ私の子供が入学する時は特に何も。」

「母親は入学の為の準備全てがお祝いのようなものですから私などせいぜい飾りボタンぐらいでした。」

「ああ、そう言えば私もそうでしたわ。」

ふたりとも懐かしそうに優しい笑顔で懐かしむように目を細める。

「飾りボタン……ですか?」

「ええ、今もそうしてるかはわかりませんが私達の頃は定番でしたわ。私も母親にしてもらいましたし。」

「私もです。そんな物とも思いましたがトウヤ様がマリーちゃんとレイン君に贈るにはぴったりかも知れませんよ?」




しおりを挟む
感想 229

あなたにおすすめの小説

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

処理中です...