迷子の僕の異世界生活

クローナ

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真実

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夜もまた絵本を読み、小さい子組の寝息を確かめると灯りを小さくして自分の部屋に戻った。

少し期待しながら部屋の灯りをつけたけれどお休みの前はこのタイミングに光った通信石に変化はなかった。

今夜は会えないのかな。

本当は凄く期待してた。今まで子供達が傍にいたから余計に寂しくなってしまう。

その寂しさをもっと強く感じるとわかっていながらカレンダーを見て指を折った。

「あと……10日になっちゃった。」

それはマリー、レインと一緒に過ごせる残りの日数だ。
今日は冬の三月みつき19日で2人が学校の寮へ移るのは29日。
このひと月程は朝晩こうして確かめるのが日課になっていた。

残り僅かな大切な時間のうちの1日を自分の為に使ってしまったけれど、悩みが消えてしまった今日はいつのまにか近づいていた春の陽だまりを感じて過ごした。
治癒魔法が使えるとわかってからいろんな事があって少しずつ降り積もった不安で心が冬の中に取り残されていたのかも知れない。

持て余した時間でディノに見つけられた鞄の中身を元に戻す事にした。教会へ行くと決めても不安で揺らぎそうになる自分に覚悟を決めさせる為にした事だけれど、あの時の俺に『大丈夫だ』と教えてあげたい。
片付けるたび『桜の庭』へ戻る事が出来た事を実感しそれを許してくれた王様とアルフ様に感謝し、もちろんそれ以上にお父さんとお母さんに感謝した。

ぺたんこになった大き過ぎる鞄をクローゼットに片付け大切な巾着も枕の下に戻しする事がなくなっても通信石は光らない。

そっか、そう言えば『あんな事』があったからクラウスは来てくれていたんだ。

それ以外の悩み事やそのお陰で知ることになった結果が大きすぎて随分些細な出来事になっている。

だって……もっと凄いことしちゃったし。

印を残してしまったせいでシャワーを浴びる時うっかり脚の『虫さされ』を見つけられてしまい、『練習』と誤魔化してシャツを着たままディノとロイとライの手伝いをして3人が服を着る間に急いでシャワーを済ませた。
消してしまうのは簡単だけどまた会えないのだったらやっぱりこのままがいいかな。

椅子に座って光らない通信石を眺めながらよりによってそんな事を思い出した自分を恥じていると目の前が急にオレンジ色になった。

「ごめん、もう眠る所だったか?」

慌てて両手で握りしめ返事をすれば待ち人の甘い声が耳をくすぐった。

「ううん起きてたよ。」

「本当に?ピアスがずっと光ってたんだが……。」

困惑する声にさっきまで机の上に組んだ腕の上に顎を乗せていたのを思い出した。

「ごめん、無意識に触ってたみたい。」

「いや、それならそれで嬉しいよ。」

左手首の『お守り』はクラウスの左耳のピアスと繋がっていてクラウスの事を考えて触れると透明な石を薄いピンク色に光らせてしまう。
寝る前にするおやすみのキスでそうなってしまうとウォールの宿で知ったけれどそればかりじゃないとルシウスさんが教えてくれた。
離れていても『俺の好き』を伝えられる事が嬉しい。

俺たちはどうやら互いに不器用だ。

クラウスはマデリンでの出来事のせいで俺が人に触れられる事が怖いのだと誤解し、俺は『しばらく会えない』と言われ抱きしめてくれないクラウスに嫌われてしまったと誤解していた。その間眠る前にキスを送ると淡く光を返してくれる蒼色のこのお守りだけが俺の心を支えてくれた。

でも今が声だけで良かった。目の前にクラウスがいたらさっき何を考えていたか瞳を覗かれて暴かれてしまう気がする。

だけどやっぱり顔が見たい。自分の不器用さを認め気持ちを全部言うと約束した。だからクラウスに遠慮はしない。

「クラウス、今外にいるなら逢いたい。」

通信石から「今日はどうだった?」と聞こえた声にそう返事を返す。

クラウスならきっと来てくれている気がした。今までタイミングが良かったのは外から俺の部屋に灯りがつくのを見ていたからだ。
すぐ横のカーテンを開けて窓の外をじっと眺めても暗くてクラウスがいるかどうかは見えないけれど部屋の灯りが消えないのを見てるはずなんだ。

そこまでしてようやくクラウスは「なら少しだけ」と言ってくれた。

申し訳ないと思いながらも執務室の扉をノックするとノートンさんは快く応対してくれた。

「また外で話すのかい?暖かくなってきたとは言え夜はまだ冷える。ここはキミの家なんだから部屋でもなんなら食堂でも台所でも好きに使うといい。」

「すぐ戻るから大丈夫です。あの…遅いからクラウスは通信石だけで済ますつもりだったんですけど僕が逢いたいって言ったんです。だから……。」

「クラウス君を悪者にしないから大丈夫だ。じゃあ戻ったらノックだけしてくれるかい?」

昼間の話しを思い出してそう言ったらノートンさんがクスクスと笑った。

「はい。」

ノートンさんは俺達を気遣い毎回そう言ってくれるけれど外だからお互い『おやすみなさい』を素直に言える気がする。



「遅くまでお疲れさま。」

「悪いな、早く来れなかった。」

「ううん、逢いたかったから嬉しい。」

俺の朝が早いから気遣ってくれるけれど大人が寝るにはまだ早い時間だ。約束だってしていないから謝る必要も無い。
そして抱きついた俺のおでこにキスを落とすと当たり前のように抱き上げるクラウスの腕の中におさまりそのままベンチに腰掛けた。

自分の着ていたマントを脱いで俺に着せてくれたけれどその下は純白の騎士服のままだった。冒険者の黒もいいけど赤の騎士服も格好良いって思ったくせに今はこの白こそがクラウスによく似合って最高に格好良いと思ってしまう。

膝に乗せた俺に改めて「どうだった?」と聞いたクラウスに子供達の話しをすれば嬉しそうに笑ってくれた。

「じゃあまた改めて挨拶に来ないとな。」

「俺も!……俺もクラウスのお母さんに挨拶したいです。」

「ああ、御用始めが終わって落ち着いたら行こう。首を長くして待ってるそうだからな。」

そう言ってさっきよりもっと嬉しそうに笑ってくれて、俺はその笑顔に引き寄せられるように唇を重ねた。

一度重ねてしまえばもう一度、もう一度と欲が出る。それに応えたクラウスが俺の唇を啄むとちゅ、ちゅ、と濡れた音がして恥ずかしい。でも重ねるだけのキスじゃもう足りない。

『おやすみなさい』を言う頃には上着なんて必要ないほどに頬が熱くてノートンさんが戻りの報告をノックだけでいいと言ってくれたことが凄くありがたかった。




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