224 / 333
真実
224
しおりを挟む俺はマリーとレインに急かされながらクラウスを見送る事もせず、台所に顔を出してカイとリトナにおはようの挨拶だけすると「こっちは任せておいて」と言うマリーとレインにお願いして自分の部屋に戻った。
荷物を置いて着替えをして、それから隣の子供部屋の小さい子組を起こすつもりだったんだけどその必要はなくてみんな俺のベッド中で眠っていた。
「ふふっ可愛い。」
普段子供達がこんな風に俺のベッドに潜り込むことは無い。記憶を遡ればその前は俺が教会から戻れなかった時でそれなら今回はやっぱりあの鐘の音か見つけた鞄か。どちらにせよ原因は俺だから本当は喜んじゃいけないって判ってるんだけど自分を求めてくれたと思うと頬が緩んでしまう。
寝顔だけをそっと覗いて着替えてしまうと脱いだ物も鞄の中にも洗濯物が結構あった。いつもなら朝1番で回す洗濯機を始められていないからついでに出来てちょうど良かった。そう思って子供達を起こすより先にリネン室へ行けばなんてことはない、すでに洗濯機は稼働していた。
「誰だろう助かるなぁ。」
俺を助けてくれた人が誰なのか迷う程いる日常がここにある。それが嬉しくて顔がだらしなく緩む。
持ってきた洗濯物をかごに放り込んで部屋に戻り今度は遠慮なく順番に抱きしめておはようのちゅうをそりゃあもういっぱいした。
「ご〰〰〰〰ん、ご〰〰〰〰んって。」
「おみみがへんになった。」
「らいがびっくりしてた。」
「ろいもびっくりしてたよ。」
着替えながら次々と昨日の異変を教えてくれた。
「ごめんね、怖くなかった?」
サーシャの髪を結びながらそう聞くと口を揃えて「ぜ~んぜん。」と笑っていた。それでも外では遊んでなかったんだよね。ちゃんとセオから聞いている。
「せおがい〰〰〰〰〰っぱいあそんでくれたの。」
「まりーとれいんもだよ。それからのーとんさんがね。」
「かねもおじいさんになっちゃったんだって」
「ご〰〰〰〰〰ん、ご〰〰〰〰〰ん。」
サーシャはいつもの様にご機嫌で、ロイとライはクスクス笑って楽しそうでディノは鐘の音を真似ながら腰を曲げて渋い顔のおじいさんになっていた。三歳児のおじいさんは可愛すぎる。
「とおやはこわくなかった?」
「なかなかった?」
鏡の中のサーシャが結び終わった髪に満足気に笑って椅子から降りると支度の終わったロイとライが同じ質問を俺に向ける。
「うん怖くなかったよ、ありがとう。」
心配してくれた2人のほっぺにちゅうをしてみんなで洗面に向かった。
本当は誰よりも怖かった。いや、違うなあの時の俺は神様に拒絶されたと思って多分哀しかった。でもそうじゃないってわかって嬉しくて泣いてしまった。悲しくて泣くことは我慢できるのに嬉しい時に涙が出るのを我慢するのって難しい。
長い不安から開放されたせいか大泣きしてしまってあの時のアルフ様のニヤニヤした顔を思い出したら急に恥ずかしくなってきた。
「とおやおかおあかいよ?」
サーシャに気づかれ「ちょっと暑くなちゃった」と誤魔化した。
でもそれはあながち間違いでもなく、今朝外に出た時とても暖かかった。俺がいろんな悩み事にとらわれていた間に季節はいつの間にか冬から春になろうとしていた。
柔らかな日差しの中で2回目の洗濯物を干していると鬼ごっこの子供達が間を駆け抜ける。
「手伝うよ。」
追いかけていたレインが足を止めた。
「ふふっ鬼がいなくなったらだめでしょ。もうすぐ済むから大丈夫だよ、ありがとう。」
「いいよちょっとくらい。すぐに捕まえるとうるさいし。」
「じゃあ甘えちゃおうかな。」
そう言ったらレインが嬉しそうに笑った。
こんな穏やかな気持ちなのは久しぶりだ。
特にこのふた月程はクラウスとのすれ違いの中出来もしないのにセオの代わりをしようと躍起になっていたし、誤解が解けてプロポーズしてもらってからもあの事件にみんなを巻き込んでその後は指輪だけの結婚に悩んでいた。
頬を撫でる風はいつからこんなに暖かかっただろうか。なんか凄く肩の力が抜けてる感じだな。
「よし、じゃあオニ復活してくるわ。」
「ありがとう。あ、そうだ今朝洗濯のスイッチ入れてくれた?凄く助かっちゃった。」
レインの手際がよくて本当にすぐ終わってしまった。それにいつもと変わらない時間に洗濯が終われたのもそのおかげだ。
「知らないよ、俺達朝ごはんの準備してただけだから。ノートンさんもトウヤが来る少し前に来たから多分セオさんじゃない?」
レインはそう言うと目の前をわざとらしく走り抜けたサーシャを追いかけて走っていった。
そっか、セオがしてくれたのか。
仕事だから時間も無かっただろうになんだか申し訳ないな、今朝もお礼が言えなかったし次に会うまでになにか考えなくちゃ。
新たな、でも楽しい悩み事を考えながらリネン室に洗濯かごを片付けに行くとそこにノートンさんが新聞を片手に入ってきた。
「昨日のことが記事になってるんだよ。」
そう言って新聞をリネン室の作業台に広げて見せてくれた。
中でもとりわけ大きな紙面を割いていたのは王都の教会の前に立つアルフ様の写真とその時に話した言葉だったけれどあの聞きなれない鐘の音であちこちの街で混乱が起きた事が書かれていた。そしてそれを各教会の司祭様や領主様が抑えてくれたことも。
俺が目にしたのはすでに騎士隊の人達に警備された状態の王都の人々だった。だけどそうしなくてはいけないくらいだったのだろう。
騎士は王都にしかいないから他の街ではもっと混乱したかも知れない。
これが王様の言っていた『理由』何を優先すべきか一目瞭然だ。
「まだ『皇子様』の事は発表されてないんだね。何か聞いているかい?」
「いいえ、でも準備が必要だと言われていました。」
「じゃあやっぱり近い内に国王陛下からの発表があるだろうね。……だけど良かったのかい?それより前に私やセオに話してしまって。」
「はい。王様には治癒魔法士の様に隠す事は出来ないと言われました。今後人前に出ることもあるかも知れないそうです。だからその前に僕が少しでも自覚が持てるように信頼する人に話すといいとおっしゃいました。」
「それは身に余る光栄だね。」
そう言うとノートンさんはクラウスがするみたいに右手を胸にあてて俺に向かって会釈をした。でもウィンクのおまけ付きだから少しもかしこまっては見えなくて笑ってしまった。
「本当は子供達にも話せたらなって思うんですけどノートンさんはどう思いますか。」
広げた新聞を一緒にたたみながら子供達に話すことを相談してみた。
「う~ん、なんとも言えないね。話したい理由を聞いても?」
「朝話した事と理由は同じなんですけど子供達にももう嘘や誤魔化しをしたくないんです。今回内緒で出掛けるんじゃなくてマリーやレインにお休みをもらうって話しが出来たことが嬉しかったんです。それにお披露目の日も前の日から留守にしてしまうしこれからもそういう時はディノ達にもちゃんと断りたくて。だからたとえ上手く伝わらなくても話したいなって思うんです。」
それにもう少ししたら頼りにしているマリーとレインもいなくなってしまうから尚更黙って出掛けて小さい子組を不安にさせたくないし出掛ける度にセオの休みを奪うこともしたくない。
「トウヤ君がそう思うのなら話してみるといい。子供の方が単純だから案外すんなり受け止めるかも知れないよ。」
ノートンさんが背中を押してくれたけれどいざ話そうとすると自分でもよくわかっていない事をどこから話せばいいのか悩んでしまって結局お昼寝の時間になってしまった。
147
お気に入りに追加
6,403
あなたにおすすめの小説
キスから始まる主従契約
毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。
ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。
しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。
◯
それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。
(全48話・毎日12時に更新)
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
兄弟がイケメンな件について。
どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。
「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。
イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる