迷子の僕の異世界生活

クローナ

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真実

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俺はマリーとレインに急かされながらクラウスを見送る事もせず、台所に顔を出してカイとリトナにおはようの挨拶だけすると「こっちは任せておいて」と言うマリーとレインにお願いして自分の部屋に戻った。

荷物を置いて着替えをして、それから隣の子供部屋の小さい子組を起こすつもりだったんだけどその必要はなくてみんな俺のベッド中で眠っていた。

「ふふっ可愛い。」

普段子供達がこんな風に俺のベッドに潜り込むことは無い。記憶を遡ればその前は俺が教会から戻れなかった時でそれなら今回はやっぱりあの鐘の音か見つけた鞄か。どちらにせよ原因は俺だから本当は喜んじゃいけないって判ってるんだけど自分を求めてくれたと思うと頬が緩んでしまう。

寝顔だけをそっと覗いて着替えてしまうと脱いだ物も鞄の中にも洗濯物が結構あった。いつもなら朝1番で回す洗濯機を始められていないからついでに出来てちょうど良かった。そう思って子供達を起こすより先にリネン室へ行けばなんてことはない、すでに洗濯機は稼働していた。

「誰だろう助かるなぁ。」

俺を助けてくれた人が誰なのか迷う程いる日常がここにある。それが嬉しくて顔がだらしなく緩む。
持ってきた洗濯物をかごに放り込んで部屋に戻り今度は遠慮なく順番に抱きしめておはようのちゅうをそりゃあもういっぱいした。

「ご〰〰〰〰ん、ご〰〰〰〰んって。」

「おみみがへんになった。」

「らいがびっくりしてた。」

「ろいもびっくりしてたよ。」

着替えながら次々と昨日の異変を教えてくれた。

「ごめんね、怖くなかった?」

サーシャの髪を結びながらそう聞くと口を揃えて「ぜ~んぜん。」と笑っていた。それでも外では遊んでなかったんだよね。ちゃんとセオから聞いている。

「せおがい〰〰〰〰〰っぱいあそんでくれたの。」

「まりーとれいんもだよ。それからのーとんさんがね。」

「かねもおじいさんになっちゃったんだって」

「ご〰〰〰〰〰ん、ご〰〰〰〰〰ん。」

サーシャはいつもの様にご機嫌で、ロイとライはクスクス笑って楽しそうでディノは鐘の音を真似ながら腰を曲げて渋い顔のおじいさんになっていた。三歳児のおじいさんは可愛すぎる。

「とおやはこわくなかった?」

「なかなかった?」

鏡の中のサーシャが結び終わった髪に満足気に笑って椅子から降りると支度の終わったロイとライが同じ質問を俺に向ける。

「うん怖くなかったよ、ありがとう。」

心配してくれた2人のほっぺにちゅうをしてみんなで洗面に向かった。

本当は誰よりも怖かった。いや、違うなあの時の俺は神様に拒絶されたと思って多分哀しかった。でもそうじゃないってわかって嬉しくて泣いてしまった。悲しくて泣くことは我慢できるのに嬉しい時に涙が出るのを我慢するのって難しい。
長い不安から開放されたせいか大泣きしてしまってあの時のアルフ様のニヤニヤした顔を思い出したら急に恥ずかしくなってきた。

「とおやおかおあかいよ?」

サーシャに気づかれ「ちょっと暑くなちゃった」と誤魔化した。
でもそれはあながち間違いでもなく、今朝外に出た時とても暖かかった。俺がいろんな悩み事にとらわれていた間に季節はいつの間にか冬から春になろうとしていた。



柔らかな日差しの中で2回目の洗濯物を干していると鬼ごっこの子供達が間を駆け抜ける。

「手伝うよ。」

追いかけていたレインが足を止めた。

「ふふっ鬼がいなくなったらだめでしょ。もうすぐ済むから大丈夫だよ、ありがとう。」

「いいよちょっとくらい。すぐに捕まえるとうるさいし。」

「じゃあ甘えちゃおうかな。」

そう言ったらレインが嬉しそうに笑った。

こんな穏やかな気持ちなのは久しぶりだ。

特にこのふた月程はクラウスとのすれ違いの中出来もしないのにセオの代わりをしようと躍起になっていたし、誤解が解けてプロポーズしてもらってからもあの事件にみんなを巻き込んでその後は指輪だけの結婚に悩んでいた。

頬を撫でる風はいつからこんなに暖かかっただろうか。なんか凄く肩の力が抜けてる感じだな。

「よし、じゃあオニ復活してくるわ。」

「ありがとう。あ、そうだ今朝洗濯のスイッチ入れてくれた?凄く助かっちゃった。」

レインの手際がよくて本当にすぐ終わってしまった。それにいつもと変わらない時間に洗濯が終われたのもそのおかげだ。

「知らないよ、俺達朝ごはんの準備してただけだから。ノートンさんもトウヤが来る少し前に来たから多分セオさんじゃない?」

レインはそう言うと目の前をわざとらしく走り抜けたサーシャを追いかけて走っていった。

そっか、セオがしてくれたのか。

仕事だから時間も無かっただろうになんだか申し訳ないな、今朝もお礼が言えなかったし次に会うまでになにか考えなくちゃ。

新たな、でも楽しい悩み事を考えながらリネン室に洗濯かごを片付けに行くとそこにノートンさんが新聞を片手に入ってきた。

「昨日のことが記事になってるんだよ。」

そう言って新聞をリネン室の作業台に広げて見せてくれた。

中でもとりわけ大きな紙面を割いていたのは王都の教会の前に立つアルフ様の写真とその時に話した言葉だったけれどあの聞きなれない鐘の音であちこちの街で混乱が起きた事が書かれていた。そしてそれを各教会の司祭様や領主様が抑えてくれたことも。

俺が目にしたのはすでに騎士隊の人達に警備された状態の王都の人々だった。だけどそうしなくてはいけないくらいだったのだろう。

騎士は王都にしかいないから他の街ではもっと混乱したかも知れない。

これが王様の言っていた『理由』何を優先すべきか一目瞭然だ。

「まだ『皇子様』の事は発表されてないんだね。何か聞いているかい?」

「いいえ、でも準備が必要だと言われていました。」

「じゃあやっぱり近い内に国王陛下からの発表があるだろうね。……だけど良かったのかい?それより前に私やセオに話してしまって。」

「はい。王様には治癒魔法士の様に隠す事は出来ないと言われました。今後人前に出ることもあるかも知れないそうです。だからその前に僕が少しでも自覚が持てるように信頼する人に話すといいとおっしゃいました。」

「それは身に余る光栄だね。」

そう言うとノートンさんはクラウスがするみたいに右手を胸にあてて俺に向かって会釈をした。でもウィンクのおまけ付きだから少しもかしこまっては見えなくて笑ってしまった。

「本当は子供達にも話せたらなって思うんですけどノートンさんはどう思いますか。」

広げた新聞を一緒にたたみながら子供達に話すことを相談してみた。

「う~ん、なんとも言えないね。話したい理由を聞いても?」

「朝話した事と理由は同じなんですけど子供達にももう嘘や誤魔化しをしたくないんです。今回内緒で出掛けるんじゃなくてマリーやレインにお休みをもらうって話しが出来たことが嬉しかったんです。それにお披露目の日も前の日から留守にしてしまうしこれからもそういう時はディノ達にもちゃんと断りたくて。だからたとえ上手く伝わらなくても話したいなって思うんです。」

それにもう少ししたら頼りにしているマリーとレインもいなくなってしまうから尚更黙って出掛けて小さい子組を不安にさせたくないし出掛ける度にセオの休みを奪うこともしたくない。

「トウヤ君がそう思うのなら話してみるといい。子供の方が単純だから案外すんなり受け止めるかも知れないよ。」

ノートンさんが背中を押してくれたけれどいざ話そうとすると自分でもよくわかっていない事をどこから話せばいいのか悩んでしまって結局お昼寝の時間になってしまった。









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