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前夜の出来事
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しおりを挟む招かれた王妃様のお部屋に入るやいなや俺はその場にいた侍従さんらに取り囲まれた。
「まぁまぁ、こんな可愛らしいお方一体どこから攫っていらしたのですか?」
「いいだろう?トウヤと言う。お前たちも聞いているであろう私の新しい家族だ丁重に饗せよ。」
「まぁ、でしたらこのお方がガーデニアの愛し子様でいらっしゃいますのね。お会いできて光栄にございます。ささ愛し子様こちらにお座りになってくださいませ。」
そう言って王妃様から引き渡された俺はその中で一際年配の侍従さんに子供のように手を引かれソファーに案内された。
「紅茶はお好きですか?お菓子も用意いたしましょうね、お好きなものは御座いますか?」
「あ、ありがとうございます。でも今王妃様と一緒に夕食を頂いたばかりなので……。」
「畏まりました。それではお茶だけご用意いたしますね。」
「ふむ、『王妃様』とはどうも他人行儀だな。そなたを『末っ子』と言い出したのはアルフレッドだそうだな、アルフレッドが兄であるならばそなたは私の娘でもあろう。一度「お母様」と呼んでみるのはどうだ?」
向かいに座った王妃様はどこかで聞いたことのあるセリフを口にした。間違いなく似たもの夫婦で似たもの親子だ。
「ほほほ、王妃様いくらお可愛いらしくあれどトウヤ様は皇子様でございましょう。」
そう言って笑うのは案の定ソファーに沈んだ俺の周りにクッションを詰めてくれたさっきの年配の侍従さんだ。
「私とて皇子を4人も産んだのだからわかっておるわ。だが常々ひとりくらいトウヤの様な可愛い娘が欲しいと思うていたのだ、気分を味わうくらい良いであろう、なぁトウヤ?」
「なぁ」と言われてもどう転んでも俺は娘にはなりえないのだから返事のしようすがなくて侍従さんたちが王妃様のイヤリングやネックレスを外すのを眺めながら愛想笑いをするしかなかった。
「ところで王妃様どうしてこんな時間にトウヤ様をお部屋にお連れになったのですか。」
それは俺が一番気になるところだ。話し方や笑顔がアルフ様によく似ていると思うからか前から知っている人の様な気持ちになるけど親睦を深めるってどうしたらいいのかな。
「解らぬか?トウヤが公の場に出るのは明日が初。だというのにこの状態ではいくら愛らしくとも田舎の小娘だ、体裁は整っておるがせっかくの珍しい黒髪も手入れが行き届いておらぬ。」
田舎の小娘って。
でも指摘された通り俺の髪は少しでも大人っぽく見せたくて伸ばすのを優先したからはっきり言えばほったらかしで残念そうに俺を見る王妃様の髪は手入れが行き届いているからか侍従さんがアップにしていた髪留めを外しても軽く整えるだけで王妃様の美しさを倍増させた。こっちのほうがお似合いかも知れない。
クラウスを真似て背伸びをしたけれど適当にしていた事がなんだか恥ずかしくなってしまった。
……あれ?でもなんだろうこの違和感。
「社交界進出する娘に母親がする事など決まっておろう。───お前達、やっておしまい。」
王妃様がアルフ様にそっくりな笑顔で口元に半円を描く。その美しさに見とれてしまった俺は気づけば両側から侍従さんに腕を取られ立たされた。
「え?なんですか一体。」
2人の侍従さんはもちろん俺より背が高い。両側から腕を掴まえられたら逃げ出せるはずもなかった。
「大丈夫ですよトウヤ様。何もかも私達にお任せ下さい。」
「ささ、こちらへどうぞ。」
「で、でもっ……!」
ニコニコと笑うふたりに結構な力で引かれれば扉へ向かって足が動いてしまう。
踏み入れた先は寝室だった。俺の使わせて貰っている部屋よりずっと広くてずっと豪華だけど華美ではなくてとても品のある素敵なお部屋だ。───って、いやいや駄目でしょうよコレ。
「待ってください、王妃様!?」
「案ずるな悪いようにはせん。」
クスクスと王妃様の笑い声を背中に受けながら踏ん張ってもなんの意味もないみたいに涼しい顔の侍従さんに連れられた俺の足は絨毯の上をスルスルと滑って寝室を通り抜け更に奥の扉に向かい、嫌な予想通りのその先は俺の使わせて貰っている部屋と同じ浴室だった。
クラウスも近づけない男子禁制の王妃様のお部屋のしかも浴室に入っちゃうなんて俺もしかしたらこのまま捕まっちゃうんじゃないだろうか。
逃げられない状態のなか侍従さんの手によって着ているジャケットを脱がされタイもシャツの釦も外されてしまう。
「ま、待って下さい。一体何をするんですか!?」
「ご心配なさらず。お身体のお手入れですよ。」
「お手入れって…必要ないです俺男ですから!」
「『俺』とは勇ましいな。だが性別など関係なかろう明日はそなたも王族として皆の前に出るのだ美しくしておいて無駄にはならん。」
「でも……」と王妃様の声に振り返ってしまったら俺の視界に侍従さんにドレスを脱がされている王妃様が入ってきた。
なな、なんで!?これどう言う状況!?
「申し訳ありません!!」
「おや?これは予想外の反応だな。」
「ほほほ、お支度し易くて助かります。王妃様しばしそのままでいらしてくださいな。」
俺の服を脱がしながら侍従さん達が和やかに笑い声を立てているけれどこっちはそれどころじゃない。でも自分の手すら自由にならない俺が王妃様を見ないようにするには目を固く閉じるしかなかった。
今更だけどさっき感じた違和感は俺という『お客』がいるのに王妃様がネックレスやイヤリングを外したり髪まで解いた事だった。でも養護施設の女の子達も帰って来ると目の前でTシャツと短パンになるしアンジェラの事もあってどこかで馴れてしまっていたのかも知れないし、それにこんな事になるなんて想像できるわけない。
ぎゅっと目を瞑ったままの俺の顎に柔らかな指がかかり上を向かされる。
「目を開けよ。」
「は、はい。」
王妃様の命令に逆らえず仕方無しに薄目を開けると目の前に薄衣に包まれた王妃様の胸の谷間が飛び込んできた。対する俺は多分腰のタオル一枚だ。
「ふふ、女の裸は見慣れぬか?白い肌が真っ赤になって初々しいのう。黒曜石の様な瞳もまた大きく美しい、うちの男どもが夢中になるのもわかるな。何もせずともこれだけ美しいのだ磨いたらさぞや良かろう。トウヤには湯浴みから始めよ。私はいつもどおりで良い。」
「承知いたしました。ではトウヤ様、こちらへおいで下さい。」
「おいでください」とは言葉だけで俺はお花の浮かぶバスタブに文字通り放り込まれた。
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