迷子の僕の異世界生活

クローナ

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真実

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食べられてしまう様なキスに上手く息ができない俺をクラウスがふかふかのベッドに優しく降ろし真っ直ぐに俺を見下ろして「愛してる」と言った。

両手を伸ばし「俺も」とクラウスの太い首に腕を絡ませる。そして形の良い唇が俺に近づくの待っていたのに不意にクラウスが横を向いてしまった。

「な…に?」

じれて口を開いた俺の耳にノックの音が聞こえてしまった。同時にここがふたりきりの宿屋じゃないことを思い出して急に恥ずかしくなる。
その上残念そうな顔をしたクラウスに子供をあやす様なキスをおでこにされてしまったらせっかく掴まえた腕を解くしかなくて、薄いカーテンをくぐりクラウスが出ていったベッドに座り慌てて寝転んだせいでボサボサになってしまった髪とシワのついたシャツをなんとなく引っ張って整えた。

「アルフレッド様とルシウスだ。あとユリウスも。」

クラウスがそう言って薄い布を開き俺はようやくその外の景色を見ることになった。
白を基調とした部屋はとても広いのに家具は天蓋付きの大きなベッドに大きな鏡とクローゼット、そしてさっきの食事を摂るべき4人がけのテーブルセットがあるだけだった。
奥と手前に扉があってノックの音はどちらからだろうとキョロキョロしているうちにクラウスは俺のシワシワのシャツの上に上着を羽織らせて鏡の前で体裁を整えると手前の扉を開けた。

でもそこは廊下じゃなく続き部屋だった。広い部屋は花や絵画で飾られ応接間の様になっていてそこにアルフ様とユリウス様、それにルシウスさんがいた。

教会でもそうだったように白い部屋の中でもその存在感が消えることはない。
美しい真っ白な髪に隠しきれてない綺麗な真紅のルビーの瞳が俺を見てにこりと笑った。教会でみたのとは違う優しい笑顔だった。

「お加減は如何ですか?」

「はい、もう大丈夫です。食事もとても美味しかったです。ありがとうございました。えっと……。」

どうしていいかわからない俺にアルフ様が先に「座っても?」と聞いてくれた。

向かい合わせのソファーの片方に俺が。もう片方にアルフ様とルシウスさんが腰掛けた。もちろんこのソファーも大きくてふかふかでクラウスが背中にそっとクッションを仕込んでくれた。
クラウスがユリウス様を付け加えの様に言ったのは護衛としてアルフ様の後ろに控えてるせいなのかな。そのクラウスも同じ様に俺の背後に立っている。

「先程の事を謝罪に参りました。喜びのあまりトウヤ殿のお気持ちを考えずお立場を受け容れさせようとしてしまった事、誠に申し訳ありませんでした。王を始め老輩達も反省しておりす。本当は王自らもこちらに直接謝罪に伺いたいと言っていたのですが顔を見知った者たちのほうが良いだろうと言うことで私達が伺いました。」

「いえ、私の方こそ取り乱してすみませんでした。」

あれほど丁寧に話してもらったのに受け止められなかった俺が悪い。今王様達に謝られたりしたら別の意味で逃げ出したくなりそうだ。でもこうして俺に敬語を使って話すアルフ様からも正直逃げ出したい。

「トウヤ殿の体調がよろしければ先程宰相が申した宝物庫に案内しようと思いますがいかがですか?」

「あの……アルフ様。」

「はい、何でしょう。」

「私に対しての敬語や敬称はやめていただけませんか?私がアルフ様と呼ぶかわりに『冬夜』と呼んでくださる約束です。」

優しい笑顔に前にした約束を引っ張り出してみたけれどアルフ様は優しい笑顔のまま首を横に振った。

「失われたとはいえガーデニアは我がフランディールが最も恩恵を受けた国です。トウヤ殿はそのガーデニアの第一皇子様ですから敬うのは当然です。それともまだ納得できませんか?」

そう言われ首を横に振った。

「納得はしています。でも生まれはどうであれ今の私は『桜の庭』の従業員です。」

否定はもうしない。それこそ恩を仇で返すことだから。
それでも俺は19年間日本で普通に生きてきた一般人だ。いい意味で階級のない社会で自分より先を生きる人や教えを請う相手を敬うようにしつけられて育った。そうすることは本当に正しいと思う。
そして今の俺は『桜の庭』の従業員でいくらそうだと言われても急にアルフ様の様な皇子様にはなれやしない。
それなのに同じ様な扱いをされるのは誰が見ても身の丈に合わないし、あの時のカイやリトナの様に距離を感じてしまう。

でもアルフ様は何も言わずかわりに真紅の瞳でしばらくじっと俺を見定めた。

アルフ様やルシウスさんと親しくなれたと思っていたのは最初から俺だけだったのかな。そう思ったら悲しくなってアルフ様の視線から逃げるように下を向いてしまった。

「……そうだな。確かに頭ではわかっていても目の前にいる可愛らしいトウヤが私達のじいさんの一番上の従兄弟だなんて実感がわかないな。大叔父様というよりどう見たって末っ子だ。」

「おおおじさま?」

軽い溜息の後に今まで通りの口調に戻ってニヤリと笑ったアルフ様の言葉を思わず復唱してしまった。ユリウス様もルシウスさんも頷いている。後ろを振り向くとクラウスは困った顔をしていた。

「なんだ、わかってないのか。先々代の王妃は私達全員のひいばあさんだぞ?その妹の子供なんだからトウヤと私達は親戚って事だ。」

「わっ…!」

俺の隣にどっかりと座り込んだせいで体が傾いてアルフ様の胸に倒れ込んでしまった。
慌てて起き上がろうとする俺を気にもせずそのままアルフ様の片腕で掴まえられてしまい仕方なくそのままの体制で尋ねてみた。

「アルフ様達としん…せき?」

「そうだ、異世界に時空を超えて転移していたとは言え長い間見つけられなくて済まなかった。今までひとりぼっちにさせて悪かった。これからは私達がトウヤの家族だ。じいさん扱いは嫌なんだろう?じゃあやっぱり末っ子だな、これからは私をアル兄様と呼べ。」

すると反対側にユリウス様が座り俺をアルフ様の腕から引き離したせいで今度はユリウス様の胸にもたれかかる様な格好で抱き込まれてしまった。

「トウヤ、騙されるな。血の繋がりはあってもその人はダダの遠い親戚だ。トウヤはクラウスの伴侶となるのだろう?なら私達が家族で兄だ。」

驚いて見上げれば今まで向けられた事のない柔らかな表情でユリウス様が俺に笑いかけた。

「お前、私の騎士の癖にその態度はなんだ。」

「今は上下の立場ではなく血の繋がりの話をしているのでしょう?アルフレッド様こそ兄の立場になろうなど図々しいですよ。なぁトウヤ。」

「ず、図々しいだと?」

『敬語が嫌』それをお願いしたのにいつのまにか頭の上で始まったアルフ様とユリウス様の言い合いがなにがなんだかよくわからない。
だって何度も言うけど俺はずっとひとりだったから。ノアルの時に誰とも、どこにも繋がってない自分が悲しかったのに。そして唯一の肉親であるお父さんとお母さんも100年も前に死んでしまったと聞いたばかりなのに。

「兄さんたちは小鳥ちゃんに謝りに来たんでしょう?これでは先程と同じではありませんか。クラウス、お前も護衛騎士ならその危険なふたりから小鳥ちゃんを護らないか。」

向かいに腰掛けていたルシウスさんが俺を『小鳥ちゃん』と呼び2人をたしなめクラウスにそう言った。

「そうですが嬉しそうですし冬夜にはこのぐらい強引な方が伝わります。ただ必要以上に触りすぎです。これは俺のなんでこれ以上は遠慮してください。」

クラウスはそう言いながらソファーの後ろからひょいっと俺を持ち上げ抱き上げた。

「……俺はクラウスの『おおおじさん』なの?」

座っているだけでキラキラと眩しいフランディール最強の第一皇子様とそれに並ぶ近衛騎士隊長。それに次期魔法士長。この人達と俺が親戚?それにクラウスまでなんて。

「そうだな。」

そう言っていつもの優しい笑顔で笑う。でもそれっていいのかな?いいんだよね?だってユリウス様が『クラウスの伴侶になる』って言っていた。でもやっぱり気になってしまう。

「俺達結婚しても大丈夫?」

「ああ、ユリウスが言ったろ?俺達は遠い親戚だからその辺りは問題ない。」

クラウスの返事が嬉しくてアルフ様達がいるのも忘れて抱きついてしまった。

「なんだトウヤ、私達と血が繋がってることよりそっちの方が大事だなんて相変わらずだな。それにクラウスは呼び捨てで自分の事は『俺』って言うのか?じゃあ私の前でもそうしろ。ついでに敬語もナシだ。」

ニヤニヤするアルフ様にルシウスさんと同じ事を要求されこのふたりが親戚だと言うことを納得した。

「……この国の皇子様をそんな風に呼べません。それに私は実際に皆様より年齢が下なので今まで通りでないと嫌です。そんな事言うなら私はこれからずっと第一皇子様って呼びます。」

今の俺はクラウスの腕の中にいるからちょっとだけ強気になってる。だいたいこの中で一番親しそうなユリウス様が敬語を使いアルフレッド様と呼んでいるのにいくらなんでも無茶苦茶だ。

「……クラウス、私達の大叔父様は随分頑固だな。」

「冬夜がそう言うなら間違いなくそうなると思います。」

アルフ様に話かけられたクラウスはしれっとした顔でそう答えた。それってクラウスも俺が頑固だと思ってるってこと?

「わかった、そんな事でせっかくできた可愛い末っ子に嫌われちゃかなわぬからな。さぁトウヤも元気になった様だしこの話はこのくらいにして宝物庫に確かめに行こうか。」

アルフ様は俺とクラウスを暫く見比べてようやく諦めてくれたようで改めて俺を宝物庫へ誘ってくれた。

「はい。よろしくお願いします。」




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