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真実
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しおりを挟む長い長い廊下を俺の歩調に合わせゆっくり進んだ先にその扉はあった。
扉はとても重厚でその扉を開く鍵は『桜の庭』の門扉と同じ許された者が触れるだけ。
「派手なものは大抵同盟国からの贈呈品だな。入り口の方はこんなものばかりだ。」
アルフ様が興味なさそうにスタスタ奥へ歩いていくけれど薄暗い倉庫を想像していた俺は明るい部屋に所狭しと並ぶ調度品にキョロキョロしてしまう。
高そうな展示物の多すぎる美術館は奥に向かうに従って更に貴重な物になっていくのがなんとなくわかった。
「トウヤに見せたいものはここだ。」
アルフ様の立ち止まった所から部屋の雰囲気がガラリと変わる。
落ち着いた色の壁紙の部屋には壁の高さいっぱいに収まる一枚の大きな肖像画があり、俺はそれに暫く見入ってしまった。
「これはこの国を大国にした先々代のフランディール国王夫妻だ。」
アルフ様が誇らしげに教えてくれたその絵の中には堂々と立つ王様と美しい王妃様の肖像画。
この人が物語に出てくる王様なのか。
威風堂々とした姿は今の王様に似ている気がした。アルフ様はその強さをこの王様に例えられているけれど見た目は似てるわけじゃなかった。
そしてその隣のこの人が俺のお母さんのお姉さん。
美しい王妃様は金色の髪に青色の瞳。俺と違いすぎて残念ながら親近感はわかないかも。けれどこの人が俺を生きてるって強く信じてくれたからみんなも信じて探してくれた。絵本や物語にして今でも忘れられないようにしてくれた。
本当だねクラウス。今までの何一つ欠けても今の俺はいない。
王妃様が俺を探して『桜の庭』を作ってくれなかったらこの世界に戻っても俺は王都に来てなかったかも知れない。
クラウスと出逢うこともなくお母さんが望んだ平和になったこの世界に戻った後も自分がなぜこの世界に来たのか知らずに生きて行くことになってしまったかも知れない。
「俺の事、生きていると信じてずっと探してくれてありがとうございました。」
色んな国を駆け回り探してくれた王様と今の俺の居場所を作ってくれた王妃様に深々と頭をさげた。
「トウヤ、これを見ろ。」
ユリウス様がアルフ様に渡した薄い箱をそのまま俺に手渡した。それは黒いビロードが張られ金の飾りの施された薄い箱で、蓋を開けると鮮やかな赤い布の上に銀貨が2枚はめ込まれていた。
「それがガーデニア王と王妃の婚姻記念の大銀貨だ。」
箱の中に並ぶ2枚の銀貨の模様は片方は男性の横顔で、もう片方は女性の横顔。それが向かい合うように並べられていた。
「王と王妃で対になってるんだな。」
隣から覗き込んだクラウスが俺がこの1年近くおもちゃだと思っていたコインを胸の内ポケットから出して並べてくれた。俺が持っていたのは女性の横顔の物だ。
これがお父さん。こっちのはお母さんだったんだ。
指先でそっと撫でて触れた小さな膨らみに胸の奥がぎゅっとなった。
「それはもうトウヤの物だ。さっきのトウヤの部屋に飾っておこう。」
「駄目ですよ。だってすごく高価なものだっておっしゃってました。」
クラウスとは反対側から俺の肩に手を置いて覗き込んだアルフ様にそう言われ、口では駄目だと言いながらも手放すどころか目を離す事もできない。
「市場に出したら、だ。有り難い事に我が国の財政はそれを競売に掛ける程困ってない。宝物庫の棚の奥にしまっておくよりお前の部屋に置く方が有意義だろう?国王陛下の許可もおりている。」
「あ……ありがとうございます。」
そんな風に言われたら甘えてしまう。俺の肩口でニヤリと笑うアルフ様に素直にお礼を言うとそっと蓋を閉じて胸に抱き込んだ。
「そう、末っ子は素直にもらっておけ。他にも気にいる物があるなら持ち出しても良いと言われている。気に入るものが必ずあるはずだ、と言われたから探してみろ。」
いたずらを仕掛けた子供の様な顔とその言葉に、他にもお父さんとお母さんに関わるものがあると確信して部屋の中をウロウロと探してみた。
そしてなんとなく懐かしくて一枚の絵画の前で足を止めた。それは両手を広げたくらいの大きさで、懐かしく思ったのはの描かれている年若い男の人の髪が黒髪だったから。そしてその横で金色の髪の女の子が椅子に掛けて微笑んでいた。親子……いや兄妹……かな?
「それが気に入ったのか?」
「あ……えっと、黒髪がなんだか懐かしくて。」
立ち止まった俺にアルフ様がさっきと同じ様に肩に手を掛け一緒にその絵を眺めに来た。
「トウヤはこれを見て懐かしく思うのか。ふふっ面白いな。これはガーデニア王と妹姫だ。先々代の王が焼け残っていた物を持ち帰って修復したおふたりの姿のわかる唯一の物でひいおばあさまの宝物だ。」
「え?」
じゃあこれが俺のお父さんとお母さん?
「ガーデニア国王はトウヤと同じ黒髪だったのだな。それに優れた魔法士だったせいか随分と細身だ。」
「妹姫様は随分小さな方なんですね。小鳥ちゃんみたいだ。確かにこんな可愛らしいお姫様の願い事ならなんでも叶えてあげたくなっちゃうかな。」
いつの間にかユリウス様がアルフ様の隣から、ルシウスさんは俺の真後ろからその絵を見に来ていた。そしてクラウスはもちろんアルフ様とは反対側の俺の隣で。
「なんだお前達知らなかったのか。さっきのは見栄え良くしてあるが先々代の王妃も小さかったんだそ?だから私とトウヤが小さいのは仕方ないことだ、な?」
「な?って……アルフ様は私よりずっと背が高いじゃありませんか。」
「そりゃあ私の方がこの血が薄まっているからな。」
クスクスと笑うアルフ様につられて初めて見るお父さんとお母さんの前で俺の事を家族と呼んでくれる人達に囲まれて一緒に笑った。笑ってそしてもう出ないと思っていた涙が再び溢れ出してしまった。
お父さん、お母さん。淋しがってごめんなさい。酷いこと言ってごめんなさい。それから俺を護ってくれてありがとうございました。
おふたりのお陰で今俺はここにいます。
おふたりが100年の刻を超えて今のこの世界へ繋いでくれたおかげで俺は心から愛する人と愛してくれる人。そして多くの愛しい人達に出会えました。
俺の幸せがお二人への恩返しになるなら俺は今本当に幸せです。
これからこの世界で俺はもっともっと幸せになります。
「この『願い姫』が望んだのだからトウヤは必ず幸せにならなくてはいけないな。さあ、我らが願い姫よこれからどうしたい?望みを申してみよトウヤの願いはおふたりにかわり私達がなんでも叶えよう。」
第一皇子様に近衛騎士隊長、次期魔法士長に俺の護衛騎士。本当は俺の方がうんと年上らしいのだけれど最強のお兄さん達が俺に向かって手を差し伸べてくれる。
「私は……私の望みはこの世界で大好きな人達のそばで生きていく事です。」
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