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真実
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しおりを挟む『楽しみに』だなんてそれで違ってたらどうするんだろう。
お城に到着して不安の消えないまま通された部屋は王様の執務室で、本来ならごく限られた人しか立ち入る事は許されないらしい。そのせいかアルフ様とユリウス様以外みんな少しそわそわしていた。
大きな机や壁に並ぶ沢山の本、お花の飾られた花瓶は大きすぎて水換えが大変そうだ。ギルドの物よりもずっと詳細なフランディールの地図は俺の知っている街の名前がこの国のほんの一部だと教えてくれていた。
フランディールの国王様は今まで出会った誰よりも背が高く逞しく人懐っこい顔で豪快に笑う人で例えるならマートさんに雰囲気が似ていた。
つまりアルフ様とはあまり似ていないけれどひと目で『優しい人』とわかる感じの人だ。
俺達を気作に出迎えてくれたあと少し離れた執務机に座り、執務室にいたもう一人の男の人と一緒にアルフ様から報告を受けていた。
アルフ様のお部屋よりももっと広くもっと豪華で、待っている間にふかふかのソファーにひとりで座らされたらすかっりはまり込んでっしまってクラウスが慌てて後ろから俺を猫の子みたいに救出するとルシウスさんがクッションをかき集めて背中や周りに詰めてくれた。
王様はアルフ様からの報告を黙って聞いた後おもむろに立ち上がると同じ部屋に通された司祭様やハインツさん、ルシウスさんも立ち上がった。俺も慌てて立ち上がろうとしたけれどふかふか過ぎるソファーとクッションが邪魔をして背後に立つクラウスに助けを求めたけれど手を貸してはくれず、焦る俺の目の前に近づいて来た国王様が教会でアルフ様がしたように俺の前で跪いて礼をしてしまった。
「よくぞ戻られましたガーデニアの皇子よ。」
俺はなんとかソファーから抜け出し、ずり落ちるように王様の前に座り込んだ。
「あの…私は自分が王様の仰る皇子様だとは到底思えません。どうして皆さんはそう思うのですか?」
銀の匙に浮かんだ『ガーデニア』の名前だってただの偶然かも知れない。
でも国王陛下はやっぱりにっこり笑ってこういった。
「では何がそう思わせているのですかな?」
王様は俺の後ろのクラウスに目配せをするとクラウスが俺を抱き上げて元のようにソファーに座らせ、王様は俺から一番近いソファーに腰掛けた。
「年齢が違います。」
「それで?」
「名前が多分変です。」
「それから?」
「それから……。」
その先は流石に躊躇ってしまいクラウスを見たけれどクラウスはただ黙って頷いた。これを言ったら流石に違うってみんなわかるかも知れない。そしてやっぱり得体がしれない存在になってしまうかも知れない。でも言わないことは騙すようで嫌だと思った。
「……私が育った所はこの世界とは違います。祝福をくださる神様もいないし魔法もありません。」
そう言っても誰も何も言わなかった。
「……私の育った国は日本という小さな島国で私のようにみんな真っ黒な髪と真っ黒な瞳の人間ばかりで私はその特徴を受け継いでいます。この世界の人達に比べたら身体も小さくてそれに……」
「……それに私は桜の木の下に捨てられているのを保護されました。その時、その場所にちなんで名付けられた名前が桜木冬夜という名前です。沢山の人が望んでいる皇子様と俺とではあまりにも違いすぎます。」
俺の告白に最後まで誰も口を挟まなかった。そして最後まで聞いた王様に「他には?」と聞かれ俺は首を横に振った。
俺を偽物だと判断するのにこれ以上の話はない。
「魔法がなくては日常生活に困るのではありませんか?」
暫くの沈黙の後、最初に声を発したのはハインツさんだった。
「いいえ、魔法のかわりになるものが沢山ありました。だからこの世界と同じ様に蛇口をひねれば水は出ます。電気があるから灯りにも困りません。もっと便利なものが沢山あって馬車よりもずっと早い乗り物や空を飛ぶ乗り物もありました。」
「それは実に興味深いですね。では反対に不便だと感じた事はありませんか?」
「それもあまり感じていません。魔法の方が便利なことも多くある様に思います。」
ハインツさんは魔法のない世界に目を輝かせた。
「違う世界で育ったと言われますがではここへはどうやって来られたのですか?」
そう聞いたのは王様だった。
「道を歩いていたらいつの間にかこの世界にいました。それがマデリンでした。帰り道がわからず困っていたら通りがかった宿屋の男の子が拾ってくれました。それで……そこに長い間泊まっていたクラウスさんが私を王都に連れてきてくれたんです。」
そう答えたらみんなの視線がクラウスに注がれた。
「転移の際、お体に負担はありませんでしたか?」
「いいえ。しばらく気が付かなかったくらいなので。」
何もなさすぎて1時間ぐらい帰り道を探して歩きまわっていた。
「本当にガーデニア王の魔法は素晴らしいものですね。あの…私達にもわかるような何かそちらの世界のものなどございませんかな。」
ハインツさんの興味はさっきから元の世界へ向きつつある気がした。だけどそれは他の人も同じだった。
これがその証明になるのか判らないけれど、俺はクラウスが預かってくれている鞄の中から財布を取り出した。
その中から出した俺の顔写真のついた日本語の文字の並ぶ身分証明証や紙幣や小銭はトレイの上に並べられみんなの間を回り始めた。
「桜の木の下で保護されたと仰いましたが生きるのは大変でしたか?」
そう聞いたのはサミュエラル司祭様だった。
「いいえ、保護してくれた施設で学校に通いながら18歳になるまでそこで暮らしました。そこは『桜の庭』の様な場所で食べる事や着る物や眠る場所に困ったことはありませんでした。」
「それは安心いたしました。」
「では命を脅かすようなことは起きませんでしたか?」
そう聞いたのは王様だった。
「はい。私の育ったところではその世界中で最も平和な所でした。事件や事故はもちろんあります。でも私はもちろん多くの人が不安を感じる事なく生活しているとても安全な所でした。」
「この王都より平和だったんですよね?」
俺に対して敬語を使うルシウスさんの言葉に淋しさを感じながら頷いた。
そして俺の答えに満足そうに深く頷いたのは王様だった。
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