迷子の僕の異世界生活

クローナ

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本当の結婚

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心地よすぎて眠り過ぎた。
でも今日はお休みだから少しくらい寝坊しても構わないはずだ。

瞼の向こうが明るいから沢山眠ったはずなのに目が開かない。

「ん〰〰〰。」

目が開かないままベッドの上で身体を起こしぐぐっと背伸びをしたら身体のあちこちがやたらだるい。

「〰〰〰はぁ。」

伸ばした腕を肩からストンと落として仕方無く目を開けると目の前に両手を小さく広げたクラウスがいた。

「お、おはようクラウス。」

「おはよう冬夜。よく眠れたか?」

「あ~うん、でもあちこちだるい。なんでだろ……」

それになんだか喉も。

もう一度背伸びをしながらあくびをしてる途中でその原因にはたと気付いた。

───俺…昨日クラウスと……。

寝ぼけるのも程がある。思い出した途端に恥ずかしさがこみ上げ、いたたまれなくて両手で顔を覆った。だって他に隠すものがない。

「冬夜の顔がみたい。だめか?」

クラウスの声に指の隙間を開けて盗み見た先に柔らかい笑顔で俺を見上げる綺麗な空の蒼色の瞳と目が合ってしまい慌ててその隙間を閉じた。

その顔はずるい。いつもは格好良いクラウスに上目遣いでおねだりされたらなんだかうちの子達みたいに可愛くて言うことを聞いてしまいたくなる。

でも───あれ?なんで上目遣い?

再び隙間を作り今の状況をよくよく確認してみれば、俺はベッドのヘッドボードに背中を預けて座っているクラウスの足の上に向かい合わせで座っていた。

「……いつから抱っこしててくれたの?」

確かに目は開けれなかったけど俺はその場で身体を起こしただけだ。それは起きる前からクラウスの腕の中にいたことにほかならない。
クラウスの広げられた手はさっきまでそこで眠っていた俺の為のものだった。

「寝苦しかったか?」

「ううん、心地よすぎて寝過ごしちゃった。」

窓の外がすっかり明るい。本当はもっと早く起きて出来るだけクラウスが傍にいるのを実感していたかった。昨日だって起きていられる限り一晩中でもクラウスの顔を眺めていたいと思っていたけれど、沢山愛されているうちに意識が途切れてしまった。

もったいない事をしてしまったと思う反面、「こうしていたい」と告げた願い通りに寝てる間もクラウスの腕に抱き入れて貰えていたことが嬉しい。
自分に許された場所、その腕の中に顔を隠したまま倒れ込んだ。やっぱり心地が良い。

「……き、昨日は…その…寝ちゃってごめんなさい。」

汗や涙やいろんなもので汚れたはずの身体はサッパリしていて下着は付けていないけれど肌触りのいいクラウスの大きなシャツが着せられている。でも初めての時に後始末を全て任せて先に寝ちゃうってどうなの?

「構わない、それより顔見せて。」

「……ずっと見てたでしょ。」

自分の失態に合わせる顔がない。

「寝顔は見てたよ、起きるまでずっと。だから今更隠しても無駄だ。キスもいっぱいしたし。」

「なっ……!」

自分が毎日子供達にしていることなどすっかり棚の上に上げた俺は寝てる間に好き勝手したクラウスを思わず見上げてしまった。

「やっと見れた。」

したり顔のクラウスが俺の顎をすくって頬に口付ける。

「そうやって眠ってる間にしたの?」

「嫌か?」

「………起きてる時にして欲しい。」

だってクラウスとのキスが好きだから。

俺のおねだりに「喜んで」とおでこや目元、頬にちゅ、ちゅ、と口付ける。焦らされてようやく重ねた唇は他と同じじゃ物足りなくて昨日の夜のように首の後ろに手を回すと深く口付けられ絡められたクラウスの舌はやっぱり熱くて、甘くて。
俺は覚えたての熱を呼び醒まされてしまいそうで強請っておきながら慌てて唇を離した。

「……シャワー浴びてくる。」

返事の代わりにクラウスが頬にキスをして俺を抱き上げて立ち上がった。

「ひ、ひとりで行けるよ。」

「ああわかってる、浴室までな。」

お言葉に甘えて素直に身を預けた。本当にクラウスと一緒にいる俺は歩かないな。でもこれっぽっちも嫌じゃない。浴室の前まで運ばれて床に足を着いた筈なのにそのままへにゃりと崩れクラウスに支えられた。上手く足に力が入らなかった。

「一緒に入るか?」

「大丈夫!」

ニヤリと笑うクラウスを追い払ってドアを支えに浴室へ入った。まさか気を張らないと立てないなんて経験がない。
お陰でしっかりと思い出してしまった。自分がした事、そしてクラウスにしてもらった事。

昨日俺はクラウスに『およめさんにして』って強請って抱いてもらった。でも俺がそんな恥ずかしい思いをしてまで誘わなくちゃいけなかったのは俺の『彼シャツ』姿で誘惑されなかったクラウスのせい。

着せられていたクラウスのシャツを脱ぐと浴室内の鏡に昨日の夜、クラウスに隅々まで愛された身体が映り込んだ。

お世辞でも魅力的とは言えない、ここでは誰が見ても貧弱な身体。ウォールで出会ったお姉さん達とは根本的に創りの違う身体。

プロポーズの時も昨日の夜も、宣言したくせに手を出してくれないのはこの世界では子供みたいな身体のせいかもなんて少しだけ不安もあった。
けれど俺を抱いたクラウスのいつも澄んだ空の蒼色は間違いなく俺を見て色情を孕んでいた。

その瞳を思い出し鏡の中に見えるあちこちに残る紅い跡を指で辿ると何度も教え込まれた昨日の熱がぶり返しそうになる。

───うん、大丈夫だ。

優しく甘く宝物のように抱いてもらったことをちゃんと全部覚えている。

違和感の残る足腰と喉に治癒魔法を掛けたらせっかくの跡が消えてしまうかな?だけど流石に抱っこのままで教会の中まで行く訳にはいかない。

祈る思いで掛けた魔法は俺の願いを聞き入れてくれた。

安心してシャワーを浴びてさっぱりした身体で置いてあったバスーローブを着て外に出たら俺の肩掛けカバンがドアの横に置いてあった。さすが俺のだんなさん、気が利いてます。

今日はお城に行った時と同じきちんとした服を準備した。だってせっかくの結婚式だから。
服だけ整えて濡れた髪のまま部屋へ戻れば着替えを半分終えたクラウスが髪を結んでいた。

「足、治癒してしまったのか?俺が運ぶからそのままで良かったのに。」

クラウスが残念そうにそう言って笑った。

「大丈夫、教会の前までは運んでもらうから。それより髪、結んじゃうの?」

格好良いのだけれど結んでしまうと仕事中みたい。

「まあな。慣れるとこっちのほうが楽なんだ。それに下手に降ろしてるとユリウスに間違われて何かとうっとおしい。」

俺の手からタオルを奪い、優しい風魔法で俺の髪を乾かしながらそう言ったクラウスは心底面倒くさそうな顔をした。

確かにユリウス様はクラウスと同じ長い金髪を結ばずにいる。兄弟で、同じ職場で、間違えられる事は確かにあるだろう。

だけど本当はわかってる。
今のは半分は本当で半分は俺ががっかりしないための優しい嘘だ。

お披露目式はまだだけどクラウスは俺といる限り『仕事中』で今はテーブルに置いてある魔道具がクラウスの代わりをしているだけだって。
でもそれも俺のため。クラウスは俺を護るために近衛騎士になってくれた。どこまでも誠実な人に俺も誠実でありたい。

だからやっぱり答えは間違っていないんだ。

「───じゃあ行こうか、クラウス。」

俺は驚く程冷静にその言葉を伝えた。







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