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本当の結婚
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しおりを挟む昨日よりは子供達の監視の目はゆるいけれど手伝いはいつもより多め。
ひざ掛けを渡され、庭で遊ぶ子供達をベンチに座って眺めているのが本日の俺のお仕事みたいだ。でも考え事をするにはいいのかも知れない。
そう思ったけれど頭の中はこんがらがったままだ。
魔法が日常に溶け込みすぎて水もお湯も灯りもそれとは意識せずに使ってるから根っこが違っていることを久しぶりに思い出した。
治癒魔法なんて一番元の世界じゃありえないものを使うくせに何を今更とも思わなくはないけれどあれだって魔法と言うより俺の願い事の様なものでどうしてそれで治癒が出来るのか未だによく分からないし、魔法らしい魔法は今も使えず髪の毛を乾かすのもマリーとレインにお任せだ。
だから自分の中の『結婚』とこの世界の『結婚』があまりにも違いすぎて今朝カイとリトナに教えて貰ったことが上手く飲み込めない。
俺はノートンさんやセオに知ってもらってそのうち子供達や俺達に関わる人達に俺とクラウスが結婚している事をゆっくりと知ってもらえば良いと思ってた。そうすればいずれ認めてもらえるだろうって。
それだけじゃやっぱり駄目なのかな。
「隣、いいかい?」
「ノートンさん。」
声を掛けられるまで目の前に立っていることも気づかないほどいつの間にか考え込んでしまっていた。
「子供達にね、トウヤ君が何か難しい顔をしているから話しを聞いてこいって連れ出されてしまったよ。」
そんな言葉に遊んでいる子供達の方を見るとマリーとレインがわかりやすく顔を背けた。どうやら心配させてしまったみたいだ。
「今朝の事かい?」
「──はい。」
「すまない、立ち聞くつもりじゃなかったんだが中に入り辛くてね。」
この事で謝られるのは2度目なのだけど本当に謝るのは台所を入りづらい雰囲気にさせてしまった俺の方だ。教会に行かない理由を誤魔化しているせいでノートンさんに聞く勇気がなかった。
「いえ、初めからノートンさんに聞いていればよかったんです。」
「だけど本人が言わないことをわざわざ知らせる事も無いだろう?リトナのあれは反則だ。」
「え?」
「おや、違ったかい?」
「いえ、それもあります。」
カイの事も勿論頭をこんがらがらせている。けれどノートンさんの言うように本人から聞いたわけでも無いからどうしようもない。
この世界に来るまで施設の仲間以外に信頼のおける相手はいなかったからカイやリトナが仲良くしてくれるのは嬉しいし、もちろんカイの気持ちも嫌だとかは思わない。けれど『鈍感』だと言われてもこの世界に迷い込むまでろくに友人もいなかった俺にはその優しさの違いを読み取れる筈がない。ましてやそれを男同士の恋愛には結び付けるのは難しい。
クラウスの事だって長い時間を掛けてようやく同じ『好き』だと答えを出したのだから。
「僕の国では割と当たり前だったんですけどノートンさんから見て僕とクラウスの様に『結婚式』をしないのってどう見えますか?」
「う~ん……そうだね、美しく言うなら『祝福を受けないのはもったいない』かな。」
「『美しくない』言い方だと違うんですか?」
それで納得すれば良かったのにもったいぶった言い方をしたノートンさんの別の言い方を知りたくなった俺は好奇心から聞いてしまった。
「ああ、美しくないとこうだな。『まだ遊び足りないのかクラウス=ルーデンベルク!侯爵だろうが近衛騎士だろうがそんな誠意のない奴にうちのトウヤ君はやらん!』……と、まあこんな感じかな。」
突然立ち上がり大きな声を出すから俺だけでなくチラチラとこっちを気にしながら遊んでた子供達も何事かと目をパチクリさせていた。
「……聞かないほうが良かったかい?」
「いいえ。率直な意見をありがとうございます。」
座り直し少しだけすまなそうな顔をするノートンさんに首を横に振って見せた。
少しではあるけれどクラウスを悪く言うその言葉は俺が言わせてしまっている。そしてノートンさんの言ったことはそのままクラウスを大切に思う人から俺に向けられる言葉なのかも知れない。
「まあ年寄りの戯言だから気にせんでくれ、クラウス君がトウヤ君を何よりも大切に思ってるのは私も十分すぎる程判っているよ。だが周りがクラウス君を放おっておかないのも事実だ。私も気軽に呼ばせて貰ってるが本来の彼は侯爵家の子息で更には我が国が誇るべき近衛騎士だ。由緒正しい王族の血も引いていてその上お兄様は近衛騎士隊長と次期魔法士長ときてる。エレノア様のところにも見合いの話が沢山持ち込まれていると孫自慢の手紙が来たよ。そしてそれを全て断られて困っているともね。」
「だから私は別の心配をしてるんだ。クラウス君が教会へ行かないのは彼に理由があるのではなく、もしかしたら第一皇子様の方から許可が頂けないのではないかとね。」
「僕では釣り合わないですもんね。」
改めて聞くクラウスは俺にとって雲の上の人みたいだ。その上格好良くて優しくて非の打ち所がない。そんな人が俺の事を好きになってくれたことが今も不思議で仕方ない。
「逆だよ?クラウス君を護衛騎士に持つトウヤ君は彼よりうんと立場が上だ。」
「まさか。」
信じられなくて思ったままそう言った俺にノートンさんが呆れ顔で溜息をついた。
「まあ確かにここで働いてるキミに本来の立場を知る事は難しいかも知れないね。しかししまったな、相談に乗るつもりが返って悩み事を深くしてしまった様だね。これではマリーとレインに叱られてしまう。」
そして空を仰ぎ目を瞑ると少し考えるふりをしてからもう一度俺を見た。
「トウヤ君、明後日はセオが休みだ。明日の夜には『桜の庭』へやってくるだろうからキミにもお休みをあげようと思う。どうだい?結婚を決めてからクラウス君とまだあまり話せてないだろう。それに無事だったとは云え嫌な思いをしなかった訳じゃないんだから2人でゆっくり過ごすといい。いいかい、これは決定事項だ。」
「ありがとうございます。でも……僕ひとりでは決められないのでクラウスと相談してみます。」
きっとノートンさんは最初からこの話をするつもりだったんだと思った。でも休みを貰って2人で過ごす時間が出来てしまったら『忙しい』という言い訳ができなくなってしまう。
せっかくの提案に良い返事を返さなかった俺に仕方なさげに肩をすくめると大きな手で頭を優しく撫でてくれた。
「老婆心でつい余計な事を言ってしまったが肝心なことを伝え忘れてしまっていたな。トウヤ君、2人が結婚式を『して』も『しない』でも私はキミ達を心から祝福するよ。遅くなってしまったけれど、結婚おめでとう。クラウス君と幸せになりなさい。」
ノートンさんはそう言って眼鏡の奥で優しい金色の瞳を細め穏やかに微笑んだ。それはずっと聞きたかった言葉で一番言って欲しかった人にようやく言って貰えた事が嬉しくて泣いてしまった。
そして嬉しかった分だけ嘘をついている事が苦しくなった。
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