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本当の結婚
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しおりを挟む俺が泣いたせいでノートンさんはマリーに叱られてしまった。
その後はまた子供達がピッタリと寄り添い、ご飯の支度も掃除も洗濯もマリーとレインがいつも以上にお手伝いをしてくれ、お昼寝の時間も小さい子組と一緒に眠って昨日に引き続いてまるで『桜の庭』で働き始めた頃のようにゆったりとした1日を過ごした。
そして子供達が眠り自分の部屋に戻れば、すぐに『通信石』がオレンジ色に光った。
「はい、冬夜です。」
ドキドキしながら返事をすればクラウスの声が俺の名前を呼んだ。昨日ほど足取りは軽くないけれどこうして顔をみて触れ合える事はやっぱりこの上なく嬉しかった。
「いらっしゃい、お仕事お疲れ様。」
広げられた腕に飛び込むとそのまま高く持ち上げられた。
「わ、ちょっ…なに?」
驚いてクラウスの肩に掴まるとにそのままの高さで抱き上げられてしまった。
いつもより高い位置からクラウスを見下ろすと大好きな空の蒼色の瞳を細め口元がゆるく弧を描く。
「今の『お疲れ様』ってのいいなって思って。」
クラウスの眩しすぎる笑顔に抱えた悩みが吹っ飛んでしまいそうになる。そのままベンチへ移動して昨日と同じ様に膝の上に乗せた俺の唇に軽くキスをした。
「今日はどうしてた?」
「今日も昨日みたいにゆっくりさせてもらって過ごしたよ。」
「そうか、でもなんだか昨日程元気じゃないな。」
クラウスの前では気持ちを偽らないことにしてるからすぐに心を読み取られてしまう。
「今朝ね、カイとリトナに結婚式の事を聞いたんだ。」
「それで元気がないのか?」
「やっぱり俺は無理かもって……ごめんなさい。」
謝った俺の目元をクラウスが指の甲でするりと撫でる。
「そんな事で謝るな、教会へ行かないのは2人で決めたことだ。そう言えば昨日ルシウスにこの指輪が冬夜の魔力を纏ってるって言われたんだ。俺のここと、ここと、ここと、ここにも間違いなく冬夜がいる。俺達はそれで充分だろう?」
クラウスが俺に自分の左手のリングとミサンガを見せ、次に左の耳のピアスをその手で撫で、そしてまたその左の掌を胸にあて俺の大好きな顔で笑うと最後に俺の左手を取り薬指のリングに口付けた。
それは昨日の俺の真似だけど俺の言葉を覚えていて同じ言葉を返してくれた事が凄く嬉しい。
「ありがとうクラウス、俺幸せだよ。」
「ああ、俺もだ。」
嬉しいのにどうしても溢れる涙をクラウスが唇で拭ってくれた。
「そう言えば俺の魔力を纏ってるってルシウスさんが言ったって言ったけどなんでだろう。」
自分の指のリングはついつい撫でてしまう。クラウスも一緒にいると俺のリングを手を握りながら親指で撫でているけれどけれどそのせいでクラウスの手にあるリングを触る機会はあまり無いからはっきり言って覚えがない。でもルシウスさんは視えてしまうから本当の事だ。何か魔法が付いてたりするのかな。
でもそれを確かめるにはルシウスさんに頼んでまたあの文字を視るしか無いけれど自分の心を知るみたいでなんだか恥ずかしい。
「……もしかして指輪の意味も知ってるの?」
「ああ知ってる。でも少し困ったことになってるから冬夜に話しておかないといけなかったな。」
「困った事ってもしかして結婚のこと反対された?」
ノートンさんに聞かされた話しを不意に思い出した。
「そんな事はない。むしろ俺と結婚すれば冬夜が名実共にフランディールの人間になるってアルフレッド様も喜んでくれたよ。だけど流石にアルフレッド様や兄達には俺を理由に出来なくて『冬夜が子供達を心配してるから』と言うしかなかった。院長がアルフレッド様と会う機会はおそらく無いだろうけれど冬夜が俺側の人間と会う事があったらそうなっていると心に留め置いてくれるか。」
「うん……。ごめんなさい、俺のせいで」
頷いたまま顔を上げれない俺の髪をクラウスは耳に掛けあやすようにおでこにキスを落とす。
「だから謝るなってさっきも言っただろう?それよりすまない、子供達のこと言い訳に使ってしまって。咄嗟のことで他に上手い事が思い浮かばなかったんだ。」
「ううん、そうじゃない、そうじゃないんだ。」
反対されていないのは素直に嬉しかった。でも俺はまたクラウスに嘘をつかせてしまった。それも家族という大切な人たちに。優しくされる程その事が申し訳なくてそのままクラウスの首に縋り付いてしまった。
『桜の庭』の中だけで生きている俺と違ってクラウスにはユリウス様やルシウスさんと云う兄弟がいて、ご両親もいる。エレノア様やアルフ様とも血の繋がりがあって他にも騎士隊の人達や友人と呼ぶ人も沢山いるのだと思う。
俺の為に大切な人達に嘘をつかせ続ければいつかきっと今も何も言わず背中を撫でてくれる優しいこの手を失ってしまうかも知れない。
「──ノートンさんが明後日のセオのお休みに合わせて俺に休みを取りなさいって言ってくれたんだ。明日の夜には来るだろうからクラウスと2人で過ごしなさいって。」
「それは願っても無いけれど『忙しい』理由が使えなくなってしまうな。残念だけど今回はやめておくか。」
クラウスなら俺の事を考えてきっとそう言うと思っていた。
「俺はクラウスと一緒にいたい。」
「別の理由を考えなくちゃいけなくなるがそれでもいいのか?」
「うん、でも次はちゃんと俺の理由にする。だから明日の夜から俺の傍にいて。」
「───わかった。どこか行きたい所はあるか?」
「ううん。どこにも行かなくていい。だだずっとこうしてクラウスの腕の中にいたいんだ。」
心配するクラウスの意見を聞かず、首に抱きついたまま顔も見せないで我侭を続ける俺の耳元でクラウスが何故かクスッと笑った。
「冬夜の望むままに。」
クラウスの答えを聞いてようやく顔を上げた俺のおでこにキスを落とし、昨日と同じ様にしてクラウスと別れたあとノートンさんにお休みをもらうことを告げると満足そうに笑ってくれた。そして休みから戻ったら俺達の結婚のことをみんなに話すよう薦めてくれた。
部屋に戻った俺は何より大切な子供達に未だに云えていない事を反省した。初めは照れくさいと思っていた自分が恥ずかしい。クラウスはアルフ様やユリウス様やルシウスさんに俺達の事ちゃんと話してくれていたのに俺が話したのはノートンさんだけ。それもクラウスが話してくれたんだ。
改めて誰よりも不誠実な自分をひとしきり顧みた俺は明日の準備を始めた。
明日着る服を机の上に置いて、次に大きめの肩掛けカバンに1日分の着替えを。それからしまい込んであったクラウスから貰った大きなカバンを取り出した。
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