迷子の僕の異世界生活

クローナ

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本当の結婚

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いつもの小鳥が鳴くまでにいつもの準備を済ませ、ティーカップを三人分用意して開け放してある扉からカイとリトナが入ってくるのをいそいそと待っていた。

「おはようございます、朝食をお持ちしました。」

「おはようございます。……え?」

「おはようございます、カイさん!リトナさん!来てくれたんですね!」

朝食を運んできてくれたのはやっぱりカイとリトナだった。いつもと違って元気のない挨拶だったけど嬉しくて少し大きな声で挨拶をしたら2人が驚いてしまった。

「トウヤ様!」

そう叫んだカイはまたポロポロと涙をこぼす。

「お見えになるとは知らず失礼致しました。トウヤ様もうお仕事復帰なさってよろしいのですか?」

リトナはワゴンから手を離し姿勢を正すと俺に向かって頭を下げた。

「ちょ、ちょっと待って!変な呼び方しないで下さい。」

呼び方もだけど言葉遣いも態度も丁寧すぎていつものリトナと違う。

「いいえ、そう言うわけには参りません。テレシア様よりもずっと高位の治癒魔法の使い手とお聞きしています。知らなかったとは言え今までの非礼をお許し下さい。」

「リトナさんやめて下さい!怒りますよ!カイさんも泣き止まないともう紅茶ごちそうしません!」

「「でも……!」」

「リトナさん、昨日も言いましたが僕は『桜の庭』の従業員のただの冬夜です。カイさん、昨日僕が無事だったの知ってるでしょう?いつまでも泣かないで下さい。それとも昨日のことでもう僕と一緒にお茶飲むの嫌なんですか?」

「「そんな事ありません!」」

悲しそうな顔をしてみせると慌てて朝食をワゴンからテーブルに並べ始めたカイとリトナに安心して三人分の紅茶をカップに注いだ。

「どうぞ。」

「「頂きます。」」

いつもの様に椅子も自分たちで引っ張ってきて座る姿にほっとする。

「僕はおふたりが来てくれるのが当たり前だって思っていてそのご厚意も当たり前のように受け取っていました。でも他の方に来ていただいたことでそれは違うんだってようやく知りました。今までありがとうございます。これからも一緒にこうしてお茶を飲んでくれませんか?」

これはお礼を口にしながらもこの先もずっと2人に来て欲しいと言うおねだりだ。下心ありありな俺の言葉にカイの瞳がうるうるしだす。

「トウヤ様……。」

「だからそれはやめて下さいカイさん。」

「ではお言葉に甘えて今まで通り呼ばせて頂きます。トウヤさん、こちらこそ私達のせいであんな目にあったのにそんな風に言って頂けて嬉しいです。」

「リトナさんも。おふたりこそ巻き込まれてたいへんだったんじゃないですか……でもそうですね、簡単に騙されちゃうくらいおふたりのこと信頼してるんですよ。僕の大切なお茶友達なんです。」

『友達』なんて思ってるのは俺だけかも知れないけれど俺の気持ちを知って欲しくてドサクサにまぎれて言ってしまった。照れ隠しにへへって笑ったらようやく2人も笑ってくれて紅茶の味も美味しくなった。

「おはようトウヤくん。」

「「「おはおうございます、ノートンさん。」」」

「おはようカイ、リトナ。」

珈琲を入れるために席を立つとノートンさんの登場で2人も立ち上がった。

「「ノートンさん、この度は本当に申し訳ありませんでした。」」

深々と頭を下げる2人に歩み寄ると肩を叩いてそれをやめさせた。

「いや、2人にはとても感謝してるよ。昨日はトウヤ君を助けてくれてありがとう。怪我をしたと聞いたけれど具合はどうだい?」

「ご心配ありがとうございます。でも怪我ならその……トウヤ様に治癒して頂いたのですっかり元通りです。」

カイがそう答えながら遠慮がちに俺に向けて視線を送る。だからその呼び方はやめて欲しいのに。

「そうかそれならよかった。だけど駄目だよ?そんな呼び方をしたらウチのトウヤ君が拗ねてしまう。ただでさえキミ達が来なくてずっとしょんぼりしてたんだから。」

ノートンさんの背後から俺もコクコクと頷いて見せるとまたカイが泣き出してしまった。なんかカイっていつも元気だと思ったけれど笑ったり泣いたり自分の感情にとても素直でウチの子達みたいで可愛らしいかも知れない。

「泣きすぎだバカ」と言いながら寄り添うリトナの涙を拭う手付きは優しくて仲良しの2人が羨ましかった。

「トウヤ君はよく眠れたかい?」

「はい、とっても。子供達が4人もベッドに入ってきたのに起きるまで気づかなかったぐらいぐっすりです。」

俺の手の中の珈琲を受け取りながらノートンさんが少しだけ心配そうに聞いてくるけどノートンさんのおかげで『ウチのトウヤ君』は今すっかりご機嫌なんです。

「いつもその顔で笑ってくれるかい?」

「はい。」

ノートンさんの言ってる意味はよくわからないけれどとりあえず頷いた。
「じゃあまたお昼に伺います」と約束してくれた2人を見送りもう少しノートンさんとお喋りしようかなって思ったら意外な2人が入ってきた。

「うわ、ホントに居るし。」

「起きてていいのかよ。」

「おはよう2人とも。」

「おはようマリー、レインどうしたのまだ早いのに。」

昨日のお昼ぶりに見る2人の姿にこれまたいそいそとハグちゅうをしに近寄ったら両腕をがしりと捕獲されてしまった。

「おはようじゃないわよ、心配させて。ディノ達を起こしに行ったらみんなトウヤの部屋で眠てるし、ロイがもう起きていったなんて言うから慌てて見に来たんだからね。」

「いつ帰ってきたんだ入院したんじゃなかったのかよ、だいたいノートンさんも何呑気に珈琲なんか飲んでるんだよ昨日あんなにオロオロしてたくせに!」

マリーとレインは小言を言いながら俺を元の場所まで連行すると椅子に座らされてしまった。
そう言えば子供達には俺は体調を崩して入院したことになっていたんだった。

「治癒してもらったからもう大丈夫だよ。」

「トウヤの大丈夫は信用しない。だいたい最近無理し過ぎなのよ。」

「ホントだよ。仕方無くやらせて置いたけど見舞いに行ったほうが入院するなんて訳わかんねえ。とにかく今日は俺とマリーがやるから大人しくしてろよ。」

「でも…。」

どこも悪くないのだから大人しくする必要なんてない。助け舟を求めてノートンさんをちらりと見ればただにこにこ笑って珈琲を飲んでいた。

「『でも』じゃないの『はい』は?」

「……はい。」

マリーに首を縦に振る以外の選択肢を貰えなかった俺は結局1日中子供達と大人しく遊ぶこと以外の仕事を取り上げられて過ごすことになった。





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