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報告と警告
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しおりを挟む見慣れた天井の下で目が醒めた時、自分の身体が思うように動かなくてびっくりしてしまった。
それもそのはず。俺のベッドに小さい子組が大集合していたからだ。クラウスのおかげでぐっすり眠れたみたいでその分あちこち乗られ放題した結果どうしたら起き上がれるか暫く悩んでしまった。
それにしてもみんないつの間に入ってきたんだろう。身体を捻ってなんとかベッドから抜け出すと可愛い寝顔にそぉっとちゅうをした。でもやっぱりロイの大きな目がぱちって開いた。
「まだ寝てていいよ」って言うと素直に目を閉じる。まるで昔懐かしいお人形さんみたいだ。
もちろんクラウスは帰ってしまっていたけれどおかげで俺の甘えっぷりを見られずにすんだし、朝から子供達に癒やされて間違いなくいつもの俺です。
「おはようクラウス。」
昨日はお喋りしながら眠ってしまったから出来なかった『お守り』へとキスを送る。
もう二度と外さないと約束した『お守り』は大好きな人の瞳と同じ空の蒼色の魔法石を金糸で編んであって文字通り俺を護ってくれる『俺』だと言った。
その時の言葉を一言一句思い出し顔がにやけてしまう。
「へへっ。これ、やっぱりクラウスなんだって。」
誰へともなしにそう口にしてから今この部屋には小さい子組がいて多分ロイは目を瞑っているだけで本当は起きていることを思い出し慌ててエプロンを掴んで1階へ降りた。
近頃は寒さも幾分やわらいで夜が開けるのも早くなってきた。それでも窓を開ければ外の空気は俺の火照った頬を冷やし、朝露のけむる中ではセオが鍛錬をしていた。
「トウヤさん、おはようございます。」
「おはようございますセオさん。今日お休みですか?」
「違いますよ。実は帰るのが面倒だったんで泊まっちゃいました。俺の部屋は相部屋ですから同室の奴のイビキがうるさくて、ここのほうがぐっすり眠れるんです。」
「そうなんですか、それは困りますね。」
窓を開けてすぐに近寄って来たのだから俺の事を心配して泊まってくれたのに違いない。それなのにノートンさん譲りの優しい言い訳が嬉しくて笑ってしまった。そんな俺にセオも少しだけ頬を緩める。
「でしょう?トウヤさんはぐっすり眠れましたか。」
「もちろんです。ぐっすり眠りすぎて知らないうちに子供達にベッドを占領されてて起き上がれませんでした。」
「チビ達はトウヤさんの事大好きですからね。今日はいつもより甘えるんじゃないですか?覚悟しておいたほうがいいですよ、何なら休み貰って手伝いましょうか?」
「そしたらみんなセオさんの方へ行っちゃいます。俺の楽しみ取り上げないで下さい。」
セオの軽口に笑って返すとようやくいつものようなお日様みたいな笑顔を返してくれた。
「じゃあ俺の出番はなさそうだしトウヤさんの元気な顔も見れたんで騎士舎へ戻ります。」
「朝ごはん食べて行かないんですか?」
「『桜の庭』の朝食の時間までいたら遅刻ですよ。あ……。トウヤさん、あの……。」
「はい、なんですか?」
「クラウスさんと結婚されるって聞きました。そしたら『桜の庭』を離れてしまうんですか?」
「な……!」
セオは窓から離れようとした自分の身体を窓枠を掴んで無理矢理引き戻す様にした。そうまでして俺に向けた言葉に絶句してしまった。
別に内緒にするつもりはないんだけど改めて他の人から言われるとやっぱり照れくさい。そんな俺の顔を見てセオがクスクスと笑う。
「すみません、昨日クラウスさんとノートンさんがお話してる場に俺もお邪魔してたんで聞いてしまいました。」
「あの……はい。そう言う事になりました。機会がなくてお話するのが遅くなってすみません。でも俺はどこにも行きませんよ?俺の存在が『桜の庭』にいる事を許されているうちはいさせてもらうつもりです。」
「そんな事言ったらもうずっと『桜の庭』を離れられませんよ?」
即答してくれたセオの言葉が嬉しい。それはセオが認めてくれているからだ。
駄目だと言うのはアルフ様かそれとも神様か。
昨日の騒ぎで俺の事を知る人が増えてっしまった。もしもそのせいで『桜の庭』にいられなくなってしまってもアルフ様なら時々子供達に会うことを許してくれるだろう。でも神様が『駄目』だと言えば昨日話したクラウスとのささやかな夢も消えてしまう。
「そうですか。なら子供達も安心ですね。でもクラウスさんもそれでいいって言ってるんですか?」
「はい、そうです……けど……何か言ってたんですか?」
「いえ、クラウスさんは特に何も。ただノートンさんに早く教会へ行くようせっつかれてました。俺もそう思いますよ。じゃあ朝飯食いっぱぐれないうちに戻りますね。」
そう話すとセオは窓枠を掴んでいた手で反動を付け勢いよくそこを離れ走り出した。そして足音を立てず2階から僅かな荷物を取って手くるとあっという間に『桜の庭』を後にした。
慌ただしく騎士舎へ戻っていく姿に昨日の選択が間違って無かったと思う。そうでなければ今日セオは休みをとってくれたに違いないんだ。
ノートンさんも同じ様にいつもと同じだと思ってくれるかな。そしてカイとリトナは今日来てくれるかな。
セオと話しをしていた分、俺も慌ただしく朝の支度を進めるけれどテーブルを拭きながら視界に入った銀のリングに手が止まる。
「結婚『する』んじゃなくて結婚『してる』のにな。」
教会へ行かない理由は全部俺の所為なのにクラウスはまたノートンさんに叱られてしまったのかな?俺の事を大事に思ってくれるから心配してくれるのは凄く嬉しい。でもその反面、クラウスにまた謝らせてしまったのかなって思うと悲しくなる。
この世界では誰にも気付いて貰えないけれど、冬枯れの桜の下でクラウスがくれたこの指輪が俺達の結婚の証なのに。
『結婚式』なんてしなくたって俺はクラウスの『伴侶』なのに。
……そう思ってた。この時までは。
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