迷子の僕の異世界生活

クローナ

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報告と警告

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クラウスを見送った後急いで台所へ向かうとワゴンを押して出てきた2人と入り口で鉢合わせた。

「カイさんリトナさんおはようございます。遅くなってすみません。」

「おはようございますトウヤさん。お寝坊ですか?珍しいですね、トウヤさんはいないしノートンさんは早くいらっしゃるしで驚いちゃいました。」

「本当ですよ。今朝はトウヤさんの淹れてくれるお茶飲みそこなっちゃったな。」

カイとリトナはこんな日でもいつもと変わらず元気な声と笑顔で挨拶をしてくれた。

「遅くなってすみません。おふたりさえ良かったらお昼にお茶を用意してお待ちしてますね。」

『桜の庭』に来て以来毎日顔を合わせる2人と朝のお茶を飲みながら話す雑談でノートンさんに聞くほどではないけれど疑問に感じるこの世界の理を知る事が沢山あった。
たまに作るお菓子の材料やセオが来た時に量を賄うための卵などは2人がよく気にして持ってきてくれるものだし、会った事のない料理長さんからしょっちゅう果物を頂いたり、先日のように広場に遊びに行くのならとお弁当を提案し頼んでくれたのもカイとリトナなのだ。
勝手に『茶飲み友達』と思ってたけれど朝のお茶の時間を2人も楽しみにしてくれている事を改めて知れて嬉しい。

「やだな、冗談ですよ。また明日の朝頂きますね。それより大丈夫ですか?トウヤさんが僕達に何も言わず朝お見えにならないのは初めてだったので体調でも崩されたのかと心配しました。」

「ええ、こんな早朝から裏門に馬もあったのでなにかあったのかと。今もノートンさんが何も教えてくれないからカイなんてトウヤさんが恋人と朝帰りでもしたんじゃないかって冗談を言って追い出された所なんですが……トウヤさん、お顔が赤いですけどまさか……本当に?」

「いや、えっと…その…。」

リトナの言葉に面食らってしまった。カイが冗談で言った事が事実だから。事実なんだけど『朝帰り』なんてなんだか言葉の響きが別の意味を含んでいるみたいで……

「まだいたのか、キミ達も仕事があるだろう、さっさと戻りたまえ。」

「は、はい!じゃあまたお昼に来ますね。」

廊下の声に気付いたノートンさんにいつものようにどやされて顔の紅い俺を残して2人は慌てて戻って行った。



お昼少し前、今朝の代わりにカイとリトナにお茶を用意して待ったいたけれど来たのはリトナひとりだった。俺が『桜の庭』に来て最初の日以来の事だった。

「カイさんは別のお仕事ですか?」

「ええ、まぁ。そんな所です。」

「じゃあカイさんの分のクッキーは夕方にしますね。」

「いえ…だったら僕の分も一緒に包んではいただけませんか?」

戸棚にお皿をしまおうとしたらリトナはそう言って「カイは夜も来ないと思う」と続けた。

「……実はトウヤさんに恋人がいらしたのが随分ショックだったみたいでしばらくは僕ひとりで来ることになりそうです。おかげでこうしてトウヤさんと二人きりだなんて嬉しいですね。カイは馬鹿だなぁ。あ、でも元々一人分の仕事なのでこちらにはご迷惑おかけしませんよ。」

にこりと笑いそう言うとリトナは持ってきた昼食を手早く台所のテーブルにのせ、代わりに朝食で使ったトレイ等をワゴンに乗せると時間がないからと立ったまま紅茶を流し込んで足早に教会へ戻って行ってしまった。

ひとりで作業するリトナがやけに慌ただしくしていたから俺はカイの来ない理由を『冗談ですよね?』と返しそびれてしまった。
そして夕飯時にはリトナも来なかった。まったく初めての人達が運んできてくれたことで自己紹介が長引いてしまい結局2人が来れなかった理由を確かめる事が出来ないままだった。


「カイさんとリトナさんどうしたんでしょうか。」

しばらく僕がひとりで来ると言ったリトナすら来ない事に付き合いの長いノートンさんなら何か理由を知っているかもしれないと思って尋ねてみた。

「そうだね、彼らの仕事は見習いとは言ってもれっきとした治癒士だから来られない用が出来たのかも知れないよ。それに食事を運ぶ事なら元々キミが来るまでは入れ替わりで誰かが来ていたんだ。それが2人でなくとも不思議じゃないさ。まぁ確かにカイとリトナはその中でも治癒士として腕が立つからなるべく来てもらう様に教会に頼んであるし子供達もよくお世話になっていたけれどね。ただこれは治癒士見習いの仕事だから彼らもそろそろ給仕から卒業かもしれないな。だからカイやリトナでなくとも別に不思議なことじゃないんだからトウヤ君が心配する程の事でもないさ。また明日の朝ひょっこり来るんじゃないのか?」

夕飯の後片付けを手伝いながらノートンさんがそう話してくれたのでやっぱりリトナが昼間言ったのはいつもの軽口で2人が来ないことには別の理由がちゃんとある。それにあの時リトナも笑っていたしやっぱり冗談だったのだと思うことにした。

ただ、せっかく出来た『茶飲み友達』と今日一緒にお茶が飲めなかった事が寂しかったから明日の朝のお茶請けには長く話せるようにいつもより多めにクッキーを用意することに決めた。


子供達が眠って1日の仕事を終え、部屋に戻ってしばらくしたらドアをノックする音がした。

ノートンさんだと思って開けたドアの前にいたのがクラウスだったのでめちゃめちゃびっくりした。

「どうしたの?」

「ちょとな。院長が呼んできていいって言うから遠慮なくそうさせて貰った。」

そう言ってニヤって笑うと俺の唇を奪ってすぐに抱き上げられてしまった。文句を言おうにもここでは子供達に聞こえてしまう。マリーとレインはまだ起きているかもしれないんだ。

「恥ずかしいからみんながいるところではしないで。」

階段を降りた所でようやく小声で言うことが出来た。

「誰もいなかっただろう?それに仕事でお疲れのおよめさんを労いたいんだよ。」

これっぽっちも俺に悪いなんて思ってない顔でそう言って俺のリングにキスをされたらなんにも言えない。それに『嫌か?』って聞かれた所で見られたら恥ずかしいだけであって少しも嫌じゃないからそう聞くのはずるい。結局俺はふくれっ面のまま抱っこされてノートンさんの部屋の前まで連れて行かれてしまった。

「あ、俺寝間着のままだ。」

そう言ってノックをためらった俺に『院長だけなら許す』ってクラウスが苦笑いした。そんな風にしていたから結局何故クラウスが来たのかわからないままノートンさんの執務室にお邪魔する事になった。




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