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すれ違いの中で
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しおりを挟む翌朝からディノがセオを待って縦格子に向かい淋しい背中を見せることはなくなった。
来れない理由をセオ自身からちゃんと教えてもらったからか、会えなくて淋しく思うのではなく自分も何か頑張ることでセオを応援しようと思ったみたいだ。
その気持ちはディノを大きく成長させ、自分で着替えを全て終わらせたり、セオの代わりをしようと俺の後をついてお手伝いをかってくれる。それは他の子達も同様だった。
あの日に生まれた不安も子供達と変わらない日々を過ごすうち少しずつ消えていくようだった。
「トウヤさん最近とても体調良さそうですね。」
「そうですか?カイさんにそう言ってもらえるなんて嬉しいです。」
「本当に、元からお可愛らしいですが最近は一段と肌ツヤがいいです。」
「やだなリトナさん、可愛いなんて俺そんなに小さくありません。でもありがとうございます。いっぱい食べてたっぷり眠ってるからですかね。」
保健の先生から健康だとお墨付きをもらえたのは素直に嬉しい。
『寝る子は育つ』じゃないけれど最近の俺はよく食べよく眠っている。それは俺もまた子供達と同様に『セオの代わり』になれるように努力しているからだ。
朝、洗濯物を干し終わったら庭に出て駆け回る。午前中にやっていた掃除は小さい子組がお昼寝中の文字を勉強させてもらっていた時間を充てることにした。夜眠ってからは自分の部屋に早々に引っ込んで居たけれどその時間に洗濯物をたたむ様にした。
遊びに仕事に四六時中動き回ってるせいで昼や夜は当然の事、朝もお腹が空いて目が覚める。おかげで食事の量がうんと増えてまるで成長期の子供みたいだ。
ベルトの穴の位置も戻ったしこれでもう少し背も伸びればいいのにな。
実は先日セオを見送った時小さい声で話すからおのずと距離が近くなったら首が痛かった。薄々気付いては居たけれど身長差が広がっていたんだ。
身長は伸びないけれど毎日の鬼ごっこのおかげで体力はついた様に思う。どのみちもう少ししたらセオだけじゃなく、マリーやレインの分も走らなくちゃいけないもんね。
だけど流石に毎日は大変すぎて自分の体をいたわるために『たからさがし』を計画したんだけど沢山仕掛けた隠し場所はあっという間に暴かれてしまい、もちろん俺のシャツのポケットに仕込んだカードは全速力で逃げたのにすぐにレインの手に渡ってしまっていつもより疲れる結果になった。
セオの合格を祈りながら忙しく過ごす日々を重ね、もう冬の2月もあと3日という時、アンジェラが遊びに来てくれた。
馬車から降りたアンジェラはドレスの上に襟や裾、手首にフワフワのファーがついた真っ白なコートを羽織っていて、子供達の目を釘付けにした。
お姫様なアンジェラはいつものように付き添って来た人を全て返してしまうと勝手知ったる俺の部屋で身軽な格好に着替えてしまう。
ゲストルームに案内しようとしたら『使ったらトウヤの仕事が増えちゃうじゃない。』って言うんだけど女の子が男の部屋に入るのもどうかと思うんだよね。
アンジェラとは前にクラウスの事とかアンジェラの家の話とかしたせいか誰よりも遠慮しなくていい唯一の同年代の友達みたいな関係が築けていた。
廊下で待ってると着替え終わったアンジェラがコートを掛けたいからハンガーを貸して欲しいとドアから覗いたのだけれど俺の視線が上向きになる。
「あれ?ブーツは履き替えないの?」
確かコートに合わせた白いショートブーツを履いていたはずだ。
「え?履き替えたけど?」
そう言ってドアを全開にしてぺたんこの足元を見せてくれた。
「まだまだ伸びるってまったくどうなってんだよっての!」
アンジェラが子供達と遊んでくれているから俺は久しぶりに昼前にモップがけをしていた。元の世界では感じることなんて無かった身長に対する嫉妬のような物が原動力になったおかげで掃除が捗って仕方なかった。予定では今日のブーツを履いた高さまでは伸びるんだって。
「トウヤだってまだ伸びるでしょ?」
と俺の成長を信じて疑わないアンジェラは俺を見下ろすのが楽しいらしい。昼ごはんの後片付けを手伝ってくれるのはもちろん嬉しいのだけれどわざわざピッタリ隣に立つ。
「ねぇ、そう言えば部屋に掛けてあったコートってトウヤのじゃないわよね?サイズが合わないわ。」
「預かりものだよ。」
「ふうん。」
それが誰のものか聞きたそうではあったけどそれ以上コートの話にはならなかった。でも誰の物か想像しているのか可愛い顔がにまにましていた。
「あ、そう言えばトウヤは聞いてる?クラウス様近衛騎士相手に2勝したんですって。」
「アンジェラも知ってるんだ。」
クラウスが昇格試験を受ける事。
「当然でしょう?この前のサロンもその話でもちきりだったんだから。」
でも俺が知ってるのはクラウスが近衛騎士の昇格試験を受ける事だけだ。それもセオから聞いた話。
けれどアンジェラは俺が渡す洗い終わったお皿を拭きながら俺の知らないクラウスの話を聞かせてくれる。
「申請者が3年ぶりの上近衛騎士の隊長はお兄様のユリウス様だから前回よりも試験内容が厳しいんですって。それなのに勝ってしまうんだから流石よね。」
「そうなんだ。」
俺は相槌をうちながらも興奮気味に話すアンジェラがお皿を割ってしまわないか心配だった。
「お父様なんて『もう一度クラウス様にお会いしたらどうだ』なんて言うのよ?あんな事言ってたのに今更何言っているんだか。呆れちゃうわ。」
アンジェラが以前お父さんと喧嘩した原因は大切な娘が家のために結婚相手を選ぼうとしたからだ。でも娘思いのお父さんが思わず薦めちゃうくらいクラウスはすごいんだ。
「やだ、私は全然そんなつもり無いから誤解しないでね。だけどもうクラウス様が近衛騎士になるのは確実だろうってお見合い話が殺到してるらしいからトウヤもうかうかしてられないんだからね。」
ぼんやりと考えていたから返事をしなかった俺にアンジェラがわざわざその可能性を否定し、その上注意まで促してくれた。
「うかうかって……選ぶのはクラウスだから。」
「ちょっと何言ってるの?余裕ってこと?やーね惚気けちゃって。」
俺の返事を終始勘違いしたアンジェラがふさがった両手の代わりに肩をぶつけて来た。
「あ~でもクラウス様が近衛騎士になるのは素晴らしいことだけどお城勤めになるしお休みもなかなか無いから今より会えなくなってしまってトウヤも淋しいわね。」
可愛くて優しいアンジェラは小さい子組のお昼寝に絵本を読んでくれて、入学を控えたマリーとレインには学校のイベントの話や面白い先生の話を先輩として聞かせてくれた。
それからお昼寝の後もまた沢山遊んでくれて夕方には再びお姫様に戻って帰っていった。
あの日以来、くたくたに疲れて眠ってっしまえたから『お守り』に頑張ってねとおやすみなさいのキスをした後は余計なことは考えずに済んだ。
だけどアンジェラが沢山子供達の相手をしてくれたからあまりお腹が空かなかったし、疲れてないせいか今夜は上手く眠れない。
洗濯物も昼間のうちにたたんでしまったから気を紛らわせるものが何もなかった。
知らされていない事には逢えてないからだと理由を付けて納得できた。
同じ場所で寝起きしているのだからクラウスの事を聞くのもセオなら気にならなかった。
でもアンジェラや他の沢山の人が知ってることを自分がこれっぽっちも知らないと言う事実が俺を酷く悲しい気持ちにさせた。
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