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すれ違いの中で
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しおりを挟む「「「ディノ!」」」
外の様子に気付いた子供達がみんなが出てきてディノの周りに集まった。クラウスは子供達に場所を譲るように立ち上がるとノートンさんの方へ近づいて行った。
「ばかディノ!あちこち探しちゃったじゃない。」
「ホントだよ。久々だったからいないのに気づくまでどれだけ走ったと思ってんだまったく!」
「つぎはでぃのがさがすばんだからね。」
そう言って次々にディノを抱きしめる。平気そうにしながらもやっぱり心配していないわけじゃなかった。
この風景を失ってしまうかと思ってどれほど怖かったか知れない。
「とおやもうだいじょおぶだよ」
「でぃのいるからなかないで。」
止められない涙を心配してロイとライの小さな手が俺の顔や頭を撫でキスをくれる。
「こんにちは、大丈夫かい?俺はクラウスと同じ騎士隊のキールだよ。ディノ君だっけ、俺達が警備に出ようとしたら騎士隊の門の外にひとりでいたんだ。一通り確認してみたけど怪我もしていないからそんなに泣かなくて大丈夫だよ。」
もう1人の騎士が優しく笑いかけながら説明してくれた。キールと名乗ったその人はポケットからきれいな刺繍のハンカチを俺に手渡してくれた。
「セオに会いに来たんだってね。でも丁度今度の昇格試験の練習しててさ、会わせてあげれなくてごめんな。」
キールさんがすまなそうにディノの頭を撫でる。
「ディノを、助けてくれてありがとうございました。」
そうかやっぱりディノはセオに会いに行ったんだ。気付いてたのにその寂しさを埋められ無かった。どれほど会いたがってるか知っていたのにその行動に考えが及ばなかった。
「ごめんディノ、ごめんね。」
もう一度小さな体を抱きしめる。あまりに俺が泣くからディノを独り占めしても誰も怒らなかった。
「それじゃあ無事送り届けた事だし俺達は警備に戻るよ。キミも早く泣き止んでね。いつまでもそんな風に座り込んでいると冷えちゃうからね。」
キールさんはそう言うと立ち上がってクラウスとノートンさんの方へ向かい、そのまま去っていこうとする2人にディノが手を振った。
「またねぇ。」
「おう。」
「またな。」
クラウスとキールさんはこちらを向いて軽く手を上げると背中を向けて行ってしまった。
久しぶりに大泣きした俺はマリーとレインに立たせてもらわなきゃいけなかった。泣いてしまった本当の理由を子供達は知らない。でもそんな情けない姿を誰もからかったりしないでただ寄り添ってくれた。
ノートンさんが渡してくれた冷たいタオルで熱っぽく腫れた瞼を冷やしてこっそり治癒魔法を掛けた。おかげでその後昼食を運んでくれたカイやリトナに泣いた事を知られる事もなく、初めて自分の魔法を便利だと思った。
それからお昼寝の時、ディノが今日の冒険譚を話してくれてそれにみんなで耳を傾けた。
郵便屋さんがよそ見をしたスキに外へ出たこと。散歩のおばあちゃんとお話した事。折角騎士のところへ着いたのに門が閉まってて中に入れなかったこと。セオに会えないと言われてちょっぴり泣いてしまったこと。セオより高い肩車の景色が楽しかったこと。
一生懸命話してくれたディノは街路樹の葉に手を伸ばした時に俺を見つけたところで眠りに落ちた。サーシャ達もその寝息に誘われてしまった。
子供達がお昼寝から起きる頃、騎士隊で今日の事を聞いたセオが様子を見に来てくれた。今日は非番を利用して本番さながらの模擬戦をしていたらしい。
子供達はもちろん大喜びで夕飯の直前まで外で遊んでもらいシャワーを浴びたらあっという間に眠ってしまった。
子供達の寝息を確認してから階下に降りると台所からマリーとレイン、それにセオの楽しそうな話し声が聞こえた。
「あ、トウヤさんお疲れさまです。ほら、2人ももう寝ろ。」
俺に気付いたセオが2人を追い払うようにする。もう少し遅くこれば良かったとマリーとレインに申し訳なく思った。
「はーい。」
「じゃあセオさん、試験頑張ってくれよな。」
「応援してるからね。」
「ああ、ありがとう。それまでチビ達を頼むな。」
「任せてよ。ね、トウヤ。」
「うん、おやすみトウヤ。」
セオに応えながら台所の入り口で立っていた俺に近寄ってハグちゅうを受けるとまた2人で話しながら廊下を階段へと向かって行った。
「セオさん、今日は───」
「トウヤさん、話はノートンさんの所に行ってからにしましょう。」
謝ろうと思ったのに話しを遮られてしまったので大人しくお茶の準備をしてノートンさんの執務室に向かい、いつものようにノートンさんがお茶を入れてくれると言うのに甘えセオの横に座らせてもらった。
そしてテーブルに紅茶が並んだところで深々と頭を下げたのは俺じゃなかった。
「すいませんでした。」
「なんでセオさんが謝るんですか。俺こそごめんなさい。俺の不注意でディノを危ない目に合わせる所でした。」
「トウヤさんは悪くありません、俺がちゃんとチビ達に来れない理由を話して置けばよかったんです。」
「それは違います。子供達を見るのが俺の仕事なんですそれなのにちゃんと見てなかったから───」
「やめなさい二人とも。少し落ち着きなさい。」
ノートンさんに言われお互い大きな声を出していたことに気付き、落ち着くために紅茶を一口ずつ飲んだ。
「セオの言う通り今日のことはトウヤ君のせいじゃない。キミはディノが以前外に出たことがあるのを知らなかった。言ってなかった私の方に責任がある。郵便の受け取りを子供達に任せていたのも私だ。それに門が開いてる時に許可なく出入りできてしまうことはルシウス君にも指摘されていたのに改善できて無かった。キミが謝る事なんて何一つないんだよ。」
「いいえ、僕が悪いんです。以前だったらノートンさんだって今日ほど心配しなかったですよね?僕が『桜の庭』の外を危険な場所にしてしまったんです。今日の事で確信しましたやっぱり僕はここにないほうがいいんです。」
そう、ディノが戻ってから俺が子供達にしてあげられる事と言ったらそれしか思い浮かばなかった。
「トウヤ君に責任はないと何度も言っているだろう?今日の事に責任を感じて辞めると言うなら院長である私が先に辞めるべきだ。それに今キミが辞めたらきっとディノが自分のせいだと泣いてしまう。他の子供達も再び大切な人を失う事になるだろうね。私はあの子達にそんな思いをさせたくない。それともトウヤ君は平気なのかい?」
「その言い方はずるいです。」
「なにもかも自分の所為にしようとするからだ。キミの悪い性分だね。私はトウヤ君を『桜の庭』に引き止めるためならどんなずるい事でも言えるよ?」
今夜のノートンさんは今までで一番いじわるだ。『お守り』にすがりそうになる手を膝の上で握り込んで黙り込むしか出来ない。だけどその手をノートンさんにこじ開けられて代わりに大きな手で両手をつなぐようにされてしまった。
「じゃあこうしよう、今日のことは私達みんなが少しずついけなかったんだ。もう二度と同じ事が起こらない様に気をつけるとしよう。だからトウヤ君もここを出ていくことは考えないでくれないか?キミがあんなに泣いてしまうほど不安を植え付けたのは私だ済まなかった。」
「そうです。俺も謝ります、本当にすみません。」
──それは違う。だってアルフ様にも同じ様な事を言われたのだからノートンさんもセオも少しも大袈裟じゃない。
でも俺に向かって頭を下げる2人にこれ以上何も言えなくなってしまった。
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