迷子の僕の異世界生活

クローナ

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すれ違いの中で

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珍しいレインの大声になんだか胸の辺りがざわりとする。

「ダメ、中にもいないわ。」

マリーがサーシャとロイとライを連れて階段を降りてきた。

「じゃあ俺外見てくるってノートンさんに言っといて。」

「わかった。」

レインに言われマリーがノートンさんを呼びに行った。たかがかくれんぼの筈だ。なんでノートンさんを呼びに行くの?

「ちょっと待った。」

ドアを開けて庭に出ようとするレインのシャツを掴んで止める。レインが庭中を走り回ったのはその姿を見ればよく分かる。いくら走って熱くなったとは言え、薄着で汗もかいたまままた外に出たら風邪を引いてしまう。

「ディノが見つけられないなら掃除も洗濯も終わったし一緒に探すってば。後どこ探したらいいの?」

胸の辺りにざわざわと黒いものが広がる様な感覚が止められない。そんな事あるはず無いと思いながら聞こえたレインの言葉は俺の心臓を締めあげた。

「だからいないって言ったろ、俺探し回って汗だくだよ?こんだけ探していないならディノの奴外に出ちゃったんだ。」

───ディノが外に?ひとりで?

「外って『桜の庭』の外って事?だってディノに門扉は開けられないでしょう?」

「きっとさっきの郵便が来た時だよ。あ~もう最近やらなかったからすっかり油断してた。多分教会の広場かその辺りにいるだろうから俺見てくるよ。」

そう言って俺の手からシャツを引き抜こうとしたその腕を掴まえた。

「トウヤ離せってば。」

「ディノがいないって本当かい?」

レインにあっさり手を解かれてしまった所にマリーに呼ばれてノートンさんが来てくれた。

「やだトウヤ。顔が真っ青よどうしたの」

「どうしたのってだってディノが。」

「そっか、トウヤが来てからもしかして初めて?そんなに心配しなくていいわよ今まで何度もあったんだから。きっと教会の広場で遊んでるわ。」

そっか、前にもあったんだ。だからマリーもレインも平気そうなんだね。ディノが少し抜け出しても王都は平和だから。

でも今は俺の所為でそうじゃないかも知れない。ノートンさんが言ったように俺の代わりにディノが傷付けられたりしたらどうしよう。どうしたらいい?
なんで俺はあの時すぐに庭に出なかったんだ。なんでノートンさんを呼びに行かなかったんだ。俺がレインに甘えなかったらこんな事にならなかった。

「今からちょっと行ってみてくるからマリー達はもう一度中を探してみてくれよ。」

「駄目だ!」

外に出ようとしたレインの腕をどうにか掴んだ。今度は簡単に逃げられないようにしっかり握り直す。

「離せよトウヤ。マリーも同じ事言っただろ?外に出てもディノの事だからその辺にいるって。俺ちょっと走って見てくるから。」

「駄目だって言ってるだろ!レインにまで何かあったらどうするんだよ。」

「も~大丈夫だってトウヤは心配しすぎ!ノートンさん、トウヤになんとか言ってよ。」

少し前ならノートンさんは『大丈夫だよ』って俺をなだめてレインにディノを探しに行かせたかも知れない。だけど今そうされるのはやっぱりレインの方だった。

「レイン、今日は私が見てくるよ。みんなはトウヤ君と『桜の庭』の中をもう一度探してくれないか。」

「何だよノートンさんまで。」

「それなら僕が行ってきます。ノートンさんとみんなはここにいてください。」

「トウヤ君───だけどキミだって同じだよ。」

そう危ないのは俺も同じかも知れない。それなら俺自身に向けられたほうがいいに決まっている。でも決してそうはならない。

「ノートンさん、僕にはこれがあるから大丈夫でしょう?それにノートンさんよりは走れますから。」

左腕の『お守り』がどんなものかノートンさんは知っていいる。結局俺1人がこの中でルシウスさんの魔道具に護られて安全なのだと言うことを。

こんな事になるのなら大きくても重くても面倒だと言われても子供達に同じものを作って貰えば良かった。綺麗事を並べたけれど結局俺はみんなに俺自身の変化を知られることが嫌だったんだ。これでディノに何かあったら全部俺の所為だ。お願いだからどうか無事でいて。

門扉から外に出たけれど、ディノが行くならどっちだろう。郵便が来てからもう1時間ほど経っていた。
マリーやレインの言う通り教会の広場にひとりで行くだろうか。ううん、違うな。あんなにセオに会いたがってた。ディノならきっと見送りに行った道順を覚えていて宿舎に向かったはず。でも───

「とおや。」

探す先を悩む俺の耳に聞こえたのはディノの声だった。背中から聞こえた声に振り向くと道の先に大きな人影が2つ。遠目だけどそれが赤い騎士服の人だとわかる。

空耳かと思った時、その肩から降ろされた小さな子供が俺に向かって走って来た。

「とおやぁ。」

「ディノ!」

俺に向かって笑顔で走ってきたディノを両手で抱きとめたら途端に力が抜けてしまった。俺は立っていられずそのまま石畳の上にへたり込んでしまった。

「良かった。ディノ、ディノ……」

笑ってる、無事だよね、怪我もしてない?怖いこと無かった?ディノの体を確かめながら汚れ一つない服に安心する。

どこに行ってたの?何してたの?柔らかいほっぺを掴まえて色々聞きたいのに言葉にならない。涙が溢れてきた俺は情けないけれどディノの小さな胸に縋るように抱き泣いてしまった。

「しんぱいかけてごめんなさい。」

「えっと……あ、かってにそとにでてごめんなさい。」

「───ディノ?」

自分のしゃくりあげる音が聞こえる中に可愛らしい声が聞こえた。だけどこんな事を言うディノなんて知らない。

一瞬抱きしめた相手を間違えたかと顔を上げるとやっぱり間違いなく大事なディノで、その小さな頭を大きな手が撫でた。

「ちゃんと言えて偉いな。言った通りだったろ?トウヤなら怒らないって。」

「うん、でもないちゃったよ。」

小さな手で俺の涙を拭いながら自分の頭を撫でた大きな手を迷惑そうに見上げたディノの視線を追いかけると目の前に片膝を付いてディノに笑いかけるクラウスがいた。




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