迷子の僕の異世界生活

クローナ

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すれ違いの中で

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俺が年上と知った時の反応が見たくてエリオットの顔をじっと見ていたけれど勘違いした事が気まずいのか小さな声で『失礼した』と言うとすぐに目を逸らした。
人を見た目で判断するからそうなるんだって言ってやりたいけれど言わないよ。俺は大人だからな。

俺の可愛い子供達はとても素直だから俺を学生と疑った面々に誘われたら可愛い笑顔とお返事で手を繋ぐとご機嫌で校内を案内をされていた。

「マデリンで一人でお使いに出た時は誰も『学生』なんて言わなかったのに。」

「マデリンは小さな町だからみんなトウヤ君のこと知ってたんじゃんないかい?」

子供達の少し後ろをノートンさんと並んで歩きながら小さな声で呟いたつもりがしっかりノートンさんの耳に届いてしまったみたいだ。

あれからもすれ違う生徒に同じ様な声掛けをされていた俺は結局大人になりきれなかった。

ノートンさんにそう言われ思い出せば確かにパン屋さんでも八百屋さんでもお肉屋さんでも俺が『とまりぎ』の名前をだせば『キミがトウヤかい?』って名前を知ってる人ばかりだった。
でもそれは俺が子供に間違われるのは当たり前だと言われたのと同じだ。

「そう言えばノートンさんにもマリーやレインにも『さぼり』だと疑われたことを忘れていました。」

頬を膨らませてそう言えば「そうだったかな?」なんて咳払いをして明後日を向いた。その誤魔化しは身に覚えがある証拠だから俺とノートンさんの大事な出会いの些細な出来事を覚えていてくれて嬉しくなった。

だけど何度も間違われてはその度エリオットが自分も勘違いしたクセに追い払ってくれる。それはありがたいのだけどこんな事ならみんなと同じ『よそ行き』なんて着ないでマデリンでもそうした様にいつもと同じエプロンにカーディガンでこればこんなに何度も訂正してもらわないで済んだかも知れない。

こんな風に俺だけがいじけている中、サーシャはセシリアとすっかり仲良くなってディノはフラジオに肩車。その下でロイとライは手を繋ぎ、先頭をエリオットが歩いて立ち止まるたび丁寧な説明をしてくれていた。

マデリンにいた時から剣と魔法のある世界の学校ってどんなものかと思っていた。けれど案外普通だ。広い美術館の様な作りの建物や観客席付きの大きな闘技場なんかは流石に驚いたけれど黒板を見て勉強する姿は変わらない。俺も約1年前までは何年もずっと同じ事をしていたなと思うだけだ。

『魔法学』の授業には少しだけときめいたけど見学先の初等部はやっぱり座学で、ノートンさんに教えてもらっているマリーやレインなんてつまんなくて寝ちゃったりしないか心配になってしまった。

それにしても………俺達以外にも何組か引率されているグループとすれ違うたび、先頭を歩くエリオットに生徒が会釈をしているのに気付いた。
生徒会長のエリオットは金色の髪でふわふわくせ毛のショートヘア。青色の瞳は切れ長で姿勢のいい後ろ姿に負けず顔も良かった。イケメンで生徒会長ともなればやっぱり人気者だよね。そう思ってたけどよく見ていたら保護者の中にも同じ様に会釈する人が何人もいた。

「ノートンさん、この学校の生徒会長ってそんなに偉いんですか?」

気になってノートンさんに聞いてみた。

「うん、まあ確かに王都の学校の生徒会は今日の説明会もそうだけど学校運営にも結構関わっているからね。でもそれだけじゃないよトウヤ君、エリオット様はフランディールの第四皇子様だ。」

「え!?」

思わず出た大きい声に慌てて口を塞いだ。エリオット『様』!?

「だからあんまり睨んじゃだめだよ。それにトウヤ君の方が歳上なんだから。」

ノートンさんが俺の耳に顔を寄せて小さな声で囁くと眼鏡を光らせてにやりといたずらな顔で笑いすぐに姿勢を戻した。
俺はエリオットが明らかに年上のノートンさんへの言葉遣いが気に入らないままで『いい子だな』って思うたびそれを思い出してはエリオットを睨みつけていた。でもその事をノートンさんに気づかれていたのが恥ずかしい。これじゃ見た目だけじゃなくて中身も子供だ。

「……はい、気をつけます。」

だからこそ俺が横柄に感じたエリオットにノートンさんは丁寧な返事を返したのか。もっと早く教えてくれればいいのにノートンさんは時々いじわるだ。そんな自分が恥ずかしくて今絶対に顔が赤い俺の肩をノートンさんがちょんちょんとつつく。

「トウヤ君、彼らの腕をよく見てご覧。」

今度は何かと顔を上げて言われたところをよく見れば3人の腕にはミサンガが結ばれていた。もちろん俺の作ったものじゃない。

「ルシウスくんの言う通りだ。いや、手芸屋さんの頑張りかな?」

眼鏡の奥の金色の瞳を細め優しく微笑む。その笑顔にまたひとつ不安が小さくなるのを感じた。




それから一通り案内をしてもらった俺達はマリーとレインとの合流場所であるダイニングホールのテーブルに座って2人が来るのを待っていた。

そこは広いホールの中でも少し階段で上がった中二階にテーブルセットが用意された場所だった。
こちらからはホール全体を見渡せるけれど座ってしまえば階下の様子はわからないという少し隔離された感じの空間になっていた。
こんなところでマリーとレインは気がつくだろうか。

「『桜の庭』の子たちなら同じ生徒会の者が連れて来るので大丈夫ですよ。」

キョロキョロしていたらフラジオが俺の心配に気付いてくれた。

「ありがとうございます。皆様以外にも生徒会の方がいらっしゃるんですね。」

エリオット様が皇子様と知った俺は敬語を使うことに躊躇いはない。まあ、3人とも見た目年上だから違和感もないしね。

「ええ、今日の運営の方に5人回っていますわ。」

フラジオとセシリアも俺に対してちゃんと敬語を使ってくれた。

「今更ですが生徒会長なのに子供達の案内をして頂いて良かったんですか?」

ノートンさんの言う通り生徒会が今日の運営に大きく関わるなら一番トップのエリオット様がここにいるのはなんだか申し訳ない。

「確かにそう思うのが普通かも知れないが私達は3人はもうすぐ卒業する。来年の新入生は来年の生徒会に任せるのがいい。私達がいなくても立派に仕事をこなせる者たちばかりだ、心配はないよ。」

そう静かに瞼を閉じて答えたエリオット様はなんだか満足げで後輩を信頼しているのがわかる。俺と違ってきっといい学生生活を送ったんだろうな、なんて勝手に想像してみた。

そんなふうに雑談をしているとその信頼する後輩に連れられたマリーとレインがやって来た。

「ただいま!ねえすごいの!」

「ただいま。うん、なんか凄かった。」

高揚した顔で目を輝かせる2人にとって今日の見学は学校生活が更に楽しみになったみたいだ。

「おかえりマリー、おかえりレイン。」

「わ、ちょっと待った。」

離れていたのが淋しくてマリーにハグちゅうしてからのレインにもしようとしたらちゅうどころかハグまでブロックされてしまった。しかも軽々片手だ。初めてセオさんの前でした時も照れたっけ。その成長は仕方ないと思いながらも俺の愛情より見栄を取られてなんだか悔しい。

「とうや、ろいとちゅうして。」

「らいもちゅうして。」

拗ねた俺に朝からリボンを結んだまま可愛さマシマシのロイとライが柔らかいほっぺを差しだしてくれた。
喜んでそのほっぺにキスをすれば周りがざわりと騒がしくなる。なんだよほっぺにちゅうぐらいで。

「じゃあ私もしてもらおうかな。」

「え?」

聞き覚えのある声に振り返ればすぐ目の前にルビーの煌めきがあった。




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