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危険な魔法
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しおりを挟むパタパタと駆け回る小さな足音があちこちから聞こえていた。
「トウヤ、洗濯物終わったから干してくるわね。」
「え?マリー、サーシャありがとう。じゃあ俺シーツ取ってくるね。」
「トウヤ、シーツならもう外して持って来てあるけど放り込んで動かせばいいのか?」
「ありがとうレイン、ディノ。洗濯は待ってて、ルシウスさんのがあるから!」
「「とおやだいふきおわった~これどこぉ?」」
「ありがとうロイ、ライ。俺がもらうね。」
朝食の時にノートンさんが『トウヤ君の仕事が終わったら。』なんて言うから子供達が張り切ってお手伝いをしてくれている。
いつものタイミングじゃなくあちこちから急かされているから俺は洗い物をしながらなんだか右往左往してしまっていた。
みんなが俺の仕事を早く終わらせようとしているのを見るとそんなに我慢させてしまったのかという申し訳無さと、行かせてあげられる嬉しさとで心がいそがしい。
2回目の洗濯を回している間に午前中にやるべき掃除も終わり、シーツが干された頃にはバスケットの中に水筒とタオルと敷物をセットして出発準備が整ってしまった。
「じゃあ出発する前に私からみんなにプレゼントがあるんだ。」
エントランスに集まった所でルシウスさんがみんなに渡してくれたのはくるみ大の銀色の鈴が付いたストラップだった。
「なあにこれ。」
サーシャが手に取って揺らすとシャカシャカと小さな音が鳴った。
「中に石が入ってる。」
それは俺の分もあって隙間から中を覗くと小さな魔法石がいくつか入っていた。
「新しい魔道具を考えたんだけどちゃんと使えるかチビちゃん達に試して欲しいんだ。今日はそれを付けて遊んでくれるかい?」
『新しい魔道具』という魅力的な響きに瞳をキラキラさせると小さい子組が鈴を手にして俺の所にやって来た。ベルトループに通してあげたら嬉しそうにジャンプしたりくるくると回ったりしている。マリーとレインも自分でつけていた。
「じゃあいこうか。」
「「「はーい!」」」
ノートンさんの声に笑顔で応えるとマリーとサーシャ、バスケットを持ったレインとディノ、俺を挟んでロイとライで手をつなぎ外に出た。
うずうずして走り出したいディノは早々にレインに抱き上げられすっかり『お姉ちゃん子』のサーシャは空いた手でルシウスさんにもらった鈴に夢中で前を見ないから何度もつまずいてマリーが転ばないように支えていた。
『桜の庭』から一本道の白い石畳に導かれ木立を抜ければ教会前の広場の芝生が見えてくる。
いつもよりずっと早く来たからか誰もいない貸し切りの広場にレインの片腕に捕まっていたディノが開放され走り出したのを合図に鬼ごっこが始まった。
「ルシウスさん、この魔道具ってあれから作ったんですか?」
俺もみんなと同じ様にベルトループに通した鈴を掌ですくうように持ち上げてルシウスさんに聞いてみた。
「うん、小鳥ちゃんの『防犯ベル』を参考にしてみたんだ。『小さい』って条件はクリアしてるだろう?」
「はい、それに子供達に自然に持たせて下さってありがとうございました。でも眠ってないんじゃありませんか?」
覗き見した様で失礼だけれど朝食の時間に呼びに行った時起きてはいたけど眠そうにご飯を口に運んでいた。それにシーツを取りに行った時ベッドに入った形跡が見当たらなかった。
「ノートン先生と話していたら興奮して目が冴えてしまってね。魔法士にはよくあることだから心配しないで、1日2日寝なくたって平気さ。朝ご飯食べたら元気になったし今も魔法が上手く発動するか楽しみで仕方ないんだ。」
走り回る子供達を眺めてルシウスさんは嬉しそうにそう言ったけど『魔法が発動する』という事は『何か起きる』という事だ。
その事実に子供達の笑顔でナリを潜めていた不安が顔を出す。胸の前で『お守り』にすがりそうになった手をぎゅっと握り込んだ。
「大丈夫。」
ぽん、と下を向いた俺の頭にルシウスさんの大きな手が乗った。
「大丈夫だよ小鳥ちゃん。今ここで何か起こっても私がキミ達に指一本触れさせないよ。それにね私は誰がどう見ても王国魔法士だ。私と共にいる『桜の庭』の子供達が魔法によって護られるのを見せつければ『桜の庭』が誰によって護られているのかを再度知らしめる事が出来るいい機会になる。」
クラウスよりもうんと高い身長もそれを足元まですっぽり覆う金の刺繍の入ったワインレッドのローブも日差しに青く煌めく長い黒髪も確かによく目立っていた。
「ね?」っと見上げた俺の頭をさらにぽんぽんとあやすように叩く仕草は笑顔も併せてクラウスによく似ていて、その所為かなんだか凄く安心する。
「とおやもあそぼう!」
「わぁ!」
ルシウスさんの顔を見ていたせいで気配を殺して近づいて来たディノに前からタックルを受けて芝生の上に転がった。
「は~や~くぅ!とおやがおにさんだからね。」
転がった俺の上を這い上がってまあるいおでこにこつんと頭突きを食らう。みんなが捕まらなくて俺になすりつけにきたらしい。
「荷物なら見てるからトウヤ君も行っておいで。」
「はい、ありがとうございます。」
ノートンさんが差し出してくれた手につかまって起き上がり俺も芝生の上を駆け出した。
「もう無理!休ませて~」
「バテるの早すぎるわよ。」
へたり込んだ俺の前を走っていたマリーが笑いながら
去っていく。近頃体力の必要な遊びはセオに任せきりでその反面子供達は鍛えられたんじゃないかと思うくらい素早さが増している。
「ホント無理。誰かおにさんもらって~。」
片手を上げてそう云うと「しょうがないな~」と言いながらレインが近づいて来てくれてタッチしようと伸ばしてくれた手が俺の手首を掴んだ。
「トウヤ危ない!」
「え?何?」
思い切り手を引かれ俺とレインの位置が入れ替わる。そのせいでレインの背後に走り寄る人の顔が見えた。
「こんな所でキミに出会えるなんて!会いたかった私の天使〰〰〰〰〰〰〰〰〰!!」
「あ、ラテ屋のお姉さんだ。」
俺の数少ない顔見知りだった。走り疲れた上にぐるんと回されて思考が追いついてなくて、レインが何を危ないと言ったのか、なんでハグをしてくれてるのか状況を把握出来ないうちにラテ屋のお姉さんが俺達の目の前に現れた半透明の光る壁にぶち当たって3メートルぐらい後ろへ転がって同時に甲高い音が鳴り響いた。
《 リ───ン、リ───ン、リ───ン 》
大きなシャボン玉の様な透明の光の丸い膜は俺とレインの周りだけじゃなく子供達の1人1人の周りにも出来ていて同じ様に音が鳴っている。まるでトライアングルの様な甲高い音が連続的になっている為に広場中の人がこちらを見ていた。転がったラテ屋のお姉さんもびっくりした顔で俺達を見ている。
「これって……防犯ベル?」
「大丈夫ですか!何かありましたか!」
誰から見ても異常な状態に黒い制服の騎士が2人駆けつけて来た。
「「セオさん!」」
「「「せおだ~」」」
それはセオとジョセフだった。気がついた子供達がセオの名前を呼んだその途端障壁と音が消えた。
「お前この子達が『桜の庭』の子供達と知っていて何かしようとしたのか!」
「ち、違うよ誤解だよ~私はその子の知り合いだってば~酷いななんでまたこうなるんだよ~」
尻もちを付いてキョトンとしていたお姉さんの腕をジョセフが後ろに抑え込んでしまった。
「本当ですかトウヤさん。」
「はいセオさん。彼女はラテ屋のお姉さんです。ジョセフさん離して上げて下さい。」
レインとしゃがみこんでいた俺達2人を腕を掴んでひょいっと同時に立たせると心配そうにセオが覗き込んだ。
「は、はいトウヤさん!」
「ほら、私は悪くない!酷いなぁまったく、ただ天使ちゃんに挨拶しようとしただけなのにさ。」
いつの間にか側に集まっていた子供達の中からマリーが腕を擦り立ち上がったお姉さんの前に出て、セオ程の身長の彼女を睨みつけた。
「酷いのはどっちよ!あんな勢いでぶつかったらトウヤのほっそい骨が折れちゃうじゃないの!」
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