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危険な魔法
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しおりを挟むノートンさんは昨日ああ言ってくれたけど、やっぱり不安が拭いきれなくて洗濯物を干したあとリネン室で昨日かき集めた取れそうなボタンを直そうと思った。
けれどセオにけしかけられた子供達がそれごと俺を庭に連れ出してくれた。
「トウヤさんに自覚して欲しくて脅かし過ぎてしまいましたね。クラウスさんと確認した限り騎士の方は大丈夫ですから『桜の庭』では今まで通りでいて下さい。」
ベンチに座ってボタンを直す俺の所に追いかける子供達を振り切ってセオが近づいてきたと思ったらお日様みたいな笑顔で俺を慰めるとまた子供達から逃げるため走り去って行った。
───ちゃんと自覚してくれないと護りきれません。
子供達の楽しそうな顔を見ながら一昨日の朝、『桜の庭』に戻ってすぐセオが言ったことを思い出していた。
思えばマデリンで男に攫われた時もひとりで外に出ないようにマートから言われていたのに買い物ぐらいどうってことないって思ってあんな事になった。
ギルドでの事だって何度もクラウスに『ひとりじゃ駄目だ』と言われたのに俺が聞かないからああなった。
王都のギルドでもウォールのギルドでもひとりで行動してその結果クラウスのくれたお守りに護って貰った。
セオもノートンさんも『脅かしすぎた』と言ったけど子供達に危険が及ぶと聞いてようやく理解できたのだから俺には丁度良かったんだと思う。そうでないときっと今頃『桜の庭』から飛び出してもの凄く迷惑を掛けていたのが想像できてしまう。
そしたら俺の事を内緒にしたためせっかくの休暇にどこへもいけないセオや、俺の為にお兄さん達に会って話しをしてくれているクラウスのしていることが無駄になってしまう。それじゃあエレノア様の時とまるで同じになってしまって今度こそ愛想を尽かされてしまうかもしれないな。
そんな自分に呆れて空を見上げたら不意に両手を引っ張られた。ロイとライだった。
「とおやもいっしょにせおをつかまえようよ。」
「いっしょにあそぶとたのしいよ。」
やっぱりこの2人には見つかっちゃうのかな?
「ありがとうロイ、ライ。」
2人のおでこにちゅうをして誘われるままに追いかけっこの輪にはいって走り回ればすっかり疲れて頭の中も空っぽに出来た。
夜になって子供達が眠り、部屋に戻ろうと廊下に出た所でセオが待っていた。
「ノートンさんが来て欲しいそうです、お茶は用意してあるので行きましょう。」
なんだろう、今日はちゃんと『いつも通り』だったはず。庭にも出たしご飯だってちゃんと食べた。それでもまだ心配されてしまったのかな?
セオの後ろを叱られる前の子供のような気分になりながらついて歩いた。
「セオです。トウヤさんをお連れしました。」
ノックの後続けてそう言うとドアを開け先に入るように促されて顔をあげると執務室の中にはノートンさんだけじゃなくソファーに腰を掛けたクラウスがいて気弱な心臓がトクンと跳ねた。
「こ…こんばんは?」
予告なしで驚いてしまってなんて言ったらいいのかわからず出た言葉だった。クラウスも可笑しかったのか少しだけ口元に笑みを浮かべて「お邪魔してます。」と言って身体を向こうへ少しだけずらして俺の座る場所を空けてくれた。
「お疲れ様トウヤ君。クラウス君がいて驚いたかい?子供達を起こさないよう裏口を使ってもらう様にお願いしておいたんだよ。」
それならそうと言って欲しかったかも知れない。クラウスはウォールの時みたいな格好良い私服姿だしノートンさんもセオもまだシャワーをすませていないからいつもの格好で…………俺だけパジャマだ。
そりゃあそれぞれ見慣れてるからみんなは気にしないだろうけれど場違いな感じがしてしまって恥ずかしくて思わず襟元を握りしめた。
「トウヤはこんな時間まで仕事なのか?」
「仕事じゃないよ、みんなが眠るまで絵本を読んでるだけだよ。それに今はセオさんがいるからみんな遊び疲れて眠るのも早いんだ。」
クラウスが上着を脱ぎながらそんな風に聞くから同意を求めてノートンさんを見たら呆れ顔で首を横に振られてしまった。
「それは仕事だよトウヤくん。クラウス君、この通りここはもうトウヤ君なしではいられない状態なんだ。今夜来てくれたと言うことは何か進展はあったのかい?」
「ええまぁ良い知らせと判断していいのかわかりませんが。」
ノートンさんの俺がいなくちゃと言ってくれた言葉に喜びたいのにクラウスのはっきりしない答えに不安になり、その気持ちを隠しきれないままクラウスを見上げてしまった。そんな俺にクラウスが脱いだ上着を着せてくれた。
「ん?寒いのかと思ったけど違ったか?」
なんで着せられたのかわからず戸惑う俺に上着の前を合わせながら尋ねられ襟元をずっと握ったままだったことに今更気がついた。
「ううん。」
ううん、本当は寒いんじゃない。だけど都合よく取ってくれたらいいと思ってしまった。やっぱり俺はズルい。だって丁寧にくるまれて上着から伝わるクラウスの体温や匂いがまるで抱きしめられている様で不安な気持ちが薄れていく。少しでもいいからこのままでいたかった。
「で、その良い知らせかわからないと言うのはなんだい?」
「───実は『保護』はすると言っては貰ったんですが『どう保護するか』はトウヤ自身に選ばせると言われました。」
「それはお兄さんのユリウス様にそう言われたのかい?」
「いいえ、第一皇子のアルフレッド様です。今日の事なので遅くとも2,3日中には呼び出しがあるかと思います。」
俺とノートンさんの顔を交互に見ながら話すクラウスは難しそうな顔をしていてそれを聞いたノートンさんも同じぐらい難しい顔になってしまった。
「もうそこまで話しを持っていけたのかい?やっぱりクラウスくんに任せて正解だった。そうか、第一皇子様が『保護する』と言って下さったのならまずは一安心だね。それでその呼出はトウヤ君ひとりで受けるのかい?」
「いえ、私が付き添います。」
「そうか。じゃあ書状が届くのを待つとしよう。クラウス君、トウヤ君を頼んだよ。」
「もちろんです。」
最後にようやく優しい空の蒼色の瞳を持った俺の好きな人が笑って俺を見てくれた。
裏口までクラウスを送ってついていこうとしたら外に出る扉の前で「ここでいい」と断られてしまった。
「風邪を引いてしまうといけないからな。」
その優しさが嘘つきの俺には痛い。
「引かないよだって本当は寒くなんてなかったんだ。……俺だけ寝間着姿だったのが恥ずかしかっただけ。だから上着借りてしまってごめんなさい。」
クラウスの心配する気持ちを利用してしまった俺に向けられる目が怖くて、慌てて脱いだ上着を差し出したけどその腕が軽くなっても顔が上げられなかった。
だけど腕が軽くなってすぐまた俺の肩に脱いだばかりのクラウスの上着が掛けられてしまった。
「寒くなかったならそれでいい。俺も目の前で俺以外の人間がお前の寝間着姿を見てるのが嫌だっただけだ。」
そう言って俺に着せた上着の一番上のボタンを留めると自分はカバンからあの黒いマントを取り出して羽織ってしまう。
「次に逢う時まで預かっておいてくれ。」
嘘つきの俺を叱りもせず呆れもせず、ただ優しく微笑むと俺の頭を撫でてクラウスは帰って行った。
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