迷子の僕の異世界生活

クローナ

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休暇と告白

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セオの休日   お留守番 ②



三日目の朝ともなれば全員があからさまにつまらなそうな顔をしていた。もちろん食事も年長の2人が完食しただけだ。

「セオ、こうなったらトウヤくんから預かったものに頼るしかなさそうだね。」

「そんなものがあるんですか?」

「これさ。」

そう言ってノートンさんが見せたのは3通の封筒と手紙が1枚。

『  ~ 始めに、『ノ』と書いてあるのはノートンさんのポケットに、『セ』とあるものはセオさんの身体のどこかにしまって下さい。
  次に何も書いてない封筒を子供達に渡してください。

  それからもしも時間が余ってしまうようならセオさんは走ってください。
  
  それでは怪我のないようにお願いします。~トウヤ~ 』

「時間が余るなら走れって……なんですかこれ?」

「う~ん、なんだろうね。『出番がないかも』ってトウヤくんは心配してたけど私達は2日間粘った方だよね、セオ。」

「はい。あの俺の顔を見て残念そうにする視線が辛いです。」

「よし、じゃあ洗濯を干し終わったら始めようか。」

何しろ俺とノートンさんも封筒を持たされるのだから手は開けておくべきなのだろう。
残ってしまった朝食の後片付けと洗濯を手分けして片付けると『始まりの桜』の下に子供達を集めた。


「なにこれ、ノートンさん。」

渡した封筒をひっくり返して何も書かれていないのが不思議なようでマリーが声を上げた。

「それはね、トウヤくんからキミ達へって預かったんだよ。」

「え?じゃあ開けていいの?」

「どうぞ。」

みんなが見れるようにマリーがしゃがむとレインもそれに習い開かれた封筒の中身をみんなで覗き込んだ。

「『エントランスのマット』って何?」

「トウヤの文字の練習───なわけないか。」

紙に書いてあったのはたったそれだけだ。訳が分からず全員で首を傾げてしまった。

「取り敢えずみんなで行ってみるかい?}

ノートンさんに言われてみんなでゾロゾロとエントランスへ向かってみた。

「ねぇせお。とおやのおてがみなあに?」

「なあに?」

ロイとライに聞かれても「さあ……」としか答えれない。そしてやってきたところであるのはただのマットだ。

「あ、お前らちょっとどいてみろよ。」

代わり映えのしないいつものマットの上に乗っていたチビ達をどかせるとレインがマットを持ち上げた。

「「「あ~!おてがみ!」」」

マットの下から現れた新たな封筒に子供達のテンションが上がった。

「「「まりーはやくはやく!!」」」

「待って待って、えっとね『ノアルのお風呂』だって!」

「リネン室のタライだ!行くぞチビ共!」

「「「お~!」」」

あっとゆう間に駆け出していった背中を見送る。

「また手紙でしたね。」

「そうだねぇ。ふふ、私は『ノアルのお風呂』ってなんだろうって思ったけど子供達はすぐ何か分かったみたいだね。」

顔を見合わせて笑うと子供達の後に続いてみる。するとすでに場所を移し今度は食堂の椅子を引いてテーブルの下を覗いていた。

「あった〰〰〰〰〰!」

ひょこひょこと入り込んだディノがテーブルの裏に貼り付けた手紙を見つけた。

「セオ、どうやら私達はマットかテーブルみたいだよ。お茶でも飲もうか。」

「そうですね。」

次々と手紙を見つけ出し『桜の庭』の中を縦横無尽に走り回る。すっかりいつもの笑顔と元気な声が響き渡る。
行儀悪く台所で立ったままお茶を飲んでいると開いてる扉をわざわざノックして子供達が現れた。

「どうしたんだ?手紙が見つからないのか?」

「『紳士のポケットは勝手に手を入れてはいけません。みんなも紳士淑女の振る舞いをしてください。』ってノートンさん、手紙を持っていらっしゃいますか。」

「なぞなぞにもなってるのかい?ふふ、レインに敬語を使われるなんて新鮮だね。持っているよ、これだろう?」

ノートンさんが内ポケットから手紙を取り出すとサーシャが進み出て恭しく受け取って一礼した。

「次は『りりちゃんのおうち』なんだこれ。」

「ぶはっ」

意味がわからない様子のレインが可笑しくてお茶を吹き出してしまった。

「なんだよセオさん汚いな~。」

「まあまあ。レインはわからないのかい?」

むせる俺の背中をとんとんと叩きながら訳知り顔でノートンさんがレインに確認した。

「わかんね~。マリーは?」

「ううん、さっぱり。」

「笑ったってことはセオさん知ってるの?」

それは先日、靴箱の掃除をしていたトウヤさんにした昔話だった。

「カエルのりりちゃんのお家はお前の長靴だよ。」

小さかったレインが長靴に入ったカエルに『りりちゃん』と名前を付けてしばらくその長靴の中で飼っていたとゆうものだ。まだ3つか4つの頃。
自分ではもう忘れてしまんたんだろう。言われて思い出したのか「ああ」と言ってまたみんなで駆けていった。

「長靴の話をトウヤくんにしたのかい?」

「ええ、なんとなくしただけなんですけどね。」

「小さいレインを思い出せて楽しいね、」

「本当ですね。」

トウヤさんの仕掛けた遊びに参加しているにもかかわらずお茶を飲んだりして、この3日間で一番穏やかな時間を過ごしていた。たかが子供の相手、と思っていたけれど結構疲れていたみたいだ。

「時にセオ、トウヤくんの手紙を覚えているかい?」

「ひとつずつは無理ですね。」

「それじゃなくて最初のだよ。私の使命はもう終わったけれどセオはまだだろう?沢山仕掛けてあるみたいだけどずっと走ってるから時間が余ってしまいそうだよ。」

それでも始めてから1時間程になる。子供達は階段を上がったり下がったり庭へ出たりと楽しそうに走り回っていた。それも言ってしまえば『紙切れ1枚』でやってのけているのだからすごい。実のところ俺も子供達と一緒に手紙を探したくなるくらいだ。

「セオ、今日だけ特別だよ。お昼ごはんを完食してぐっすりお昼寝できるように頼んだよ。」

「はい?」

なぜそんな事を言いながら台所の窓を開けるのだろう。

この台所には食堂へ続く扉とリネン室に続く扉。そして廊下に出る扉がある。扉の位置を確認した直後、その全てから紙を丸めて作った弱々しい剣を持った子供達が顔を出した。

「『黒騎士に戦いを挑んで勝利を勝ち取りましょう』セオさん、手紙持ってるわよね?」

マリーがこちらに手紙を見せて不敵に笑った。

「何で武器持ってんだよ。」

「だって用意してあったから使うしかないだろ?チビどもかかれ!」

「「「きゃ~!」」」

レインの掛け声に小さな剣士が迫ってきた。なるほど、だから窓ですか。

これは本気で逃げろって意味だよな。するりと窓を抜け出してその後は庭を結構走り回った。

俺のポケットに託された手紙には『台所の1番上の棚の箱』と書かれていて中にはたくさんのクッキーとそれぞれへの手紙。

おかげでお昼はもちろん完食。お昼寝はレインとマリーまでぐっすりで眠る時までトウヤさんからの手紙をそれぞれ持って今日1日沢山笑って沢山走った子供達はあっという間に眠りについた。

良かったな。明日の朝にはお待ちかねのトウヤさんが帰ってくるよ。





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