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休暇と告白
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しおりを挟む「トウヤさんおかえりなさい」
「セオさん……お留守番ありがとうございます。只今戻りました。」
気合を入れて振り返った途端目の前にセオが現れてびっくりしてしまった。
叩いたほっぺがヒリヒリするこの冷たい空気の中、爽やかな笑顔のセオはシャツ一枚だ。そっか、いつもこの時間は朝外で鍛錬してるんだった。
「荷物持ちますよ。」
遠慮する間もなくごく自然にトランクを持つと入り口に向かって歩き出した。
……子供みたいに抱っこされてるの見られてないよね。
少しだけ狼狽えつつ素直にトランクを預けて部屋まで運んでもらうと俺は扉を閉めた。
「すみませんでした。」
「えっと……何がですか?」
「いろいろです。本当にお休みをもらわなくちゃいけなかったのはセオさんなのに仕事押し付けて。怪我だってしてたのに俺……。」
知らなかったとはいえやっぱり申し訳なくて頭を下げたまま上げられない俺の顔をセオはしゃがんで覗き込んできた。
「クラウスさんから聞いたんですね。」
まるで子供の話しを聞き出そうとするようなその仕草にやっぱりお兄ちゃんだな、なんて思いながら肩を押されるまま顔を上げた。
「俺も知らないんです。」
そう言うとセオは着ていたシャツのボタンを外し肌をさらけ出すと右の鎖骨から左の脇腹にかけて人差し指で一本の線をひいた。
「でも騎士服が裂けてました、ここからここまで。だけどなんともないでしょう?」
にこっと笑うセオが線を引いたところを指先で確かめる様になぞる。鍛えられた筋肉のついたなめらかな胸板だ。もちろん傷もない。
「もう痛くないですか?」
「はい、痛かった記憶も曖昧なくらいです。俺の傷をトウヤさんと同じくらい治せるのは国宝級のポーションだけだろうって。あの時命をとりとめても治癒魔法で傷を塞ぐのが精一杯で再び剣を振るえようになるかもわからないって。トウヤさんが飾り紐をもたせてくれなかったら俺きっと死んでました。そうでなくても騎士ではいられなくなっていました。」
そこまで言うとセオは俺から一歩離れて足を揃え姿勢を正すと深々と頭を下げた。
「お礼が遅くなって申し訳ありません。トウヤさん、俺を救ってくれてありがとうございました。この恩は俺の一生かけて返します。」
「やめてください、そんな風にお礼を言われても困ります。俺自分にそんな事が出来るなんて実感がないんです。」
今朝やっと瞼の腫れを治して俺にも魔法が使えることを知ったばかりだ。それに見るのを拒んだとはいえただのミサンガにそんな力があるなんてやっぱり信じられなかった。
「それじゃ駄目です。クラウスさんがトウヤさんに話したってことは間違いなくトウヤさんにその力があると確信したからですよね。」
「でも俺は……」
やっぱりわからない。クラウスが自分の腕を傷付けてまでわからせてくれようとした。治したのは俺だと言われてもあの時の俺は目の前で起きた出来事に慌てふためいていただけなんだ。
「あんたが分かってないと駄目なんです。その凄さも危うさもトウヤさんが自覚してくれないと俺達は護りきれません。クラウスさんもそう言いませんでしたか?」
セオが少しだけ怒ったような顔で俺を見る。でもクラウスからそんな話はされてない、だって俺が泣いてしまったからただずっと抱きしめていてくれたんだ。
「そうですか。わかりました、じゃあこの事はノートンさんに伝えます夜にでもまた……」
「う~ん……」
その時、不意にディノの声がした。
部屋に入ってすぐ話し始めたから全然気付かなかったけれど俺のベッドにディノが目をこすりながら座っていた。でもそれだけじゃない。
「なんで?」
俺のベッドは来た時と同じシングルサイズのままだ。それで充分だった。この世界では子供サイズのそのベッドにディノとサーシャ、おまけにロイとライまで眠っている。
「あ~あ。みんなで来ちゃったのか、よく落ちなかったな。トウヤさんこいつら凄く寂しがってたんでたっぷり甘やかしてやってくださいね。」
座ったままほぼ眠ってるディノ。サーシャもいるけど今まで1度も潜り込んで来たことのないロイにライまで。その姿に胸につかえていた呑み込んだ氷が溶けていくみたいだなんて俺はやっぱり単純だ。
コートを脱ぎ捨てると起きるのを待ちきれず、くてくてのディノを抱き上げおはようのちゅうをする。
「ただいまディノ、俺がいなくて寂しかったの?本当に?」
「ん……でぃのねぇとおやとねんねするの。」
夢うつつのままのディノはそうつぶやいて俺の首にしがみついて小さな頭をぐりぐり擦り付けてくるからふわふわの髪の毛がくすぐったい。
その様子にセオが「朝食は任せてください。」と部屋を出ていってしまった。本当は俺のお休みは終わったのだからそんな事させられない。だけど今はこの温もりに癒されたいから甘えてしまおう。
腕の中で再び寝息をたて始めたディノをそっとベッドに降ろして俺も隙間に滑り込んだ。
あんなにもセオのこと心待ちにしてたから帰ったら俺の居場所なんてないかと思ったのによく見たらサーシャが俺の手紙をお腹の上に乗せていた。
「宝探ししたんだね。楽しかった?」
「たのしかったよ。またやりたい。」
「らいもたのしかったよ。でもとおやもいっしょがいい」
サーシャの髪を撫でていたらいつの間に目を醒ましたのか大きな赤い瞳と紫の瞳が俺を見ていた。
「ロイ、ライただいま。お留守番ありがとう。次は一緒にやろうね。」
起き上がって今度は2人の間に入れてもらってハグとちゅうをしたら2人からもお返しのハグとちゅうがかえって来た。いつも寄り添ってる2人の間に入れてもらった上にこんなご褒美まで。
そのままサーシャが起きるまで狭いベッドで子供達の体温に癒やされていた。
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