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休暇と告白
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しおりを挟む気がつくとなにもない真っ暗な所にいた。でもそう思った途端、辺りは白い光に満ちたように明るくなってまばたきをした。
「……ん……あれ?」
いつの間に眠ったんだろう。
「気がついたか?」
まだ重たいまぶたを何度か瞬きすると視界に不安そうな顔のクラウスが映る。
辺りを見回すと俺は知らない部屋のベッドに寝ていて椅子に腰掛けたクラウスが俺の髪を優しく撫でてくれていた。
「俺なんでここで寝てるの?」
「過呼吸を起こして倒れたんだ覚えてないのか?」
撫でられるのが気持ちよくて起き上がりもせずクラウスの問に思考を巡らせる。
「───あ。」
ギルドのカウンターで子供扱いされたのが面白くなくて横柄な態度に出たら捕まえられてそれで……
「どうしようクラウス!ギルドの人怪我させちゃったかも!」
思い出した途端多分『お守り』の力で弾き飛ばされた綿菓子頭のお兄さんが心配になって身体を起こした。
「は?」
「は?じゃないよクラウス。この前王都のギルドでもラテ屋のお姉さんを突き飛ばしたみたいになっちゃったんだよ?ちょっとびっくりしたくらいで人を吹き飛ばしてたら俺そのうちホントに捕まっちゃう!」
「ちょっとじゃないだろう!」
度が過ぎるんじゃないかと『お守り』の過保護さを訴えようとしたら大きな声を出されてびっくりしてしまった。
でもクラウスの顔は怒ってるんじゃなくてむしろすごくつらそうだった。
「……ごめんなさい。心配してくれたんだよね。でも本当だよ、ちょっと手を掴まれただけなんだ。俺も悪かったんだ。しつこく子供扱いされて面白くなくて横柄な態度になっちゃったから。」
「このブレスレットはトウヤの気持ちに反応する様になってる。お前が恐怖を感じた時結界が張られるようになってる。相手はそれで弾かれただけだ。結界が作用したと云うことはお前が恐怖を感じたからだろう。」
クラウスが俺の左手を持ち上げて袖の中に隠れていた『おまもり』を出してするりと撫でた。
「確かに怖いと思ったけど違うんだ。俺ね頭のどこかでマデリンでの事忘れられないみたいなんだ。」
その言葉に俺の手を持っていたクラウスの手がぴくんと反応したのが分かった。
「前にもあったんだ。ここまでひどくなかったけど『桜の庭』で初めてセオに会った時暗がりで突然出会ったから驚いちゃって自分でも気づいてなかったけどすごく怯えちゃってその時はノートンさんがなだめてくれたんだ。今日はね、タグごと手を掴まれてギルドであったこと思い出したんだ。それが駄目だったみたい。おかしいよね。男のくせにいつまでも終わった事に囚われて自分でも情けないよ。クラウスに沢山慰めてもらったのにまだ俺の知らないくらい端っこで勝手に覚えてるなんて嫌だな。」
忘れたはずの記憶に身体が勝手に引っ張られてる。
「それはこの先もずっと続くのか?」
「そうじゃないと思うよ。クラウス、こうゆうのは上書きするのがいいんだって。」
専門家じゃないから嘘っぱちだ。でも今日の出来事があの日と重なってしまったのならそれをなくしてしまえばいい。
「クラウスがして?」
首元からタグを引っ張り出してお願いすると戸惑うのが分かった。自分では分からないけど気を失うほどだから俺の様子は大分おかしかったのだろう。でもクラウスにされて怖いなんて絶対思わない自信があった。
迷いながら俺の手を大きな手でそっと握り込むとそのまま胸に抱き込んでくれた。俺が泣いた時はいつも耳元でクラウスの鼓動が聞こえた。
うん、やっぱりクラウスなら怖くない。
どこよりも安心できる場所でまどろんでいるのをドアを叩く音に邪魔されてしまった。
「失礼。トウヤ殿は気が付かれたろうか。」
「あ、はい起きましたどうぞ。」
俺の様子を聴く声に慌ててクラウスから身体を離した。
「この度はうちの職員が迷惑を掛けて済まなかった。体調はどうだろうか。」
ドアを開けて入ってきた人はウォールのギルドの副ギルド長だと名乗ってくれた。
制服を着た熊さんのような大きなその人の足元がさっきから気になってしょうがない。だってカウンターのお兄さんがおでこを床に付けて土下座している。まるで床の上に綿菓子が転がっているみたいだ。
「あの、俺は大丈夫ですけど……」
「すいませんでしたぁ!」
俺の声に一瞬だけ顔をあげて再び頭をこすりつけた。しかも今見た顔はほっぺがパンパンに腫れていた。
「我がギルドの新人教育が行き届かずすまなかった。この通り本人も反省してるので許してくれないだろうか。」
「いえ、あの…俺も倒れたりして驚かせてすみません。それに弾き飛ばしちゃったし……」
「いや、見かけで決めつけてきちんと対応しなかったこちらが全面的に悪い。実際キミが子供だったとしたらそれこそやってはいけない対応だった。今後はこのようなことが二度と怒らないように指導していくのでどうか許して欲しい。」
副ギルド長さんにまで頭を下げられなんだか申し訳なかった。
謝罪を受け入れたところで話も終わり、俺は改めてお金を出して手芸屋さんの場所もしっかり教えてもらってやっとギルドから出た。
眠っていたのは半刻程の間だったようで大事な時間があまり削られず済んだことに胸を撫で下ろした。
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