迷子の僕の異世界生活

クローナ

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休暇と告白

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クラウスと3度目のキスは、最後にちゅっと音を立てて離れた。

すがる場所を求め顔に添えられたクラウスの手首を掴んだまま、たまらず「ほうっ」と息を吐いた。

照れくさくて逃げ出したいけれど顔を掴まえられたままで逃げ出すどころか目をそらすことすら許してもらえない。息を整える俺を待たず今度は唇の横に軽いキスをした。

「練習が必要だな。」

そう言ってとろけるような笑顔をみせてそっと俺を抱きしめてくれた。練習すれば息を長くとめていられるだろうか。

「やっと俺のだ。」

耳元でつぶやくようにこぼれた言葉に気持ちを返したくてクラウスの背中に回した手にぎゅうっと力を込めた。



「お邪魔します。」

そして今、枕を抱えた俺は照れ隠しにひと言告げてクラウスのベッドの横に立つ。

「どうぞ。」

と、いつものニヤリと笑ったクラウスが掛布を持ち上げ俺を招き入れるそこに滑り込んだ。ようやくクラウスに気持ちを伝えたくせに欲張りな俺は昼間より遠い距離が淋しくて同じベッドで眠りたかったんだ。

「はじめの頃は毎日誰か俺のベッドに潜り込んで来たんだよ。でも最近はあんまり来てくれなくて成長が嬉しいような淋しいような気持ちなんだ。」

自分でお願いしたくせに落ち着かなくておしゃべりになる俺の話しをクラウスがすぐ横で寝そべって聞いてくれている。まるで寝かしつけをされてるみたいだ。

「じゃあ俺は子供達の代わりか?」

「違うよ、むしろ俺の方が子供だよね。19にもなって一緒がいいなんて甘えてごめんね。」

「うん?19?18じゃなかったか?」

「へへ。気付いたらなってて俺もびっくりしちゃった。」

襟元からタグを出してクラウスに『19』と刻まれた文字を見せびらかした。

「本当だ。来年は一緒に祝いたい。」

「む、無理だよ。」

「なんで?」

「だって、その頃は討伐遠征に行くんだよね。だから無理だよ。それより俺、クラウスがいくつかも知らないんだけど……」

「俺は24だ。……なんだその顔。」

「ううん、いくつかなんて気にしてなかったけど案外近くて驚いちゃった。」

何だと云われた顔は思わずポカンとしてしまったからだ。実は10コぐらい上かと思ってたなんて口に出来ないよ。

「もっと年上に見えてたって事か?」

「違うよ、その、さっき言ったでしょ。違う世界だって。俺、確かにちょっと細いけど身長は低くないんだよ?むしろ普通。女の人なんて俺くらいあったら高い方なんだよ?だからその…体格が違いすぎて年齢が読みにくいと云うか……ちょっと、何クラウスくすぐったい!」

クラウスがパジャマの上から俺の腕や背中やお腹を撫で回してきた。

「だってトウヤの世界でも細いんだろう?抱き上げてて思ったが前より痩せたんじゃないか?」

「俺はこれが普通なの、むしろ前より体重も多分増えたから!」

腰のあたりを掴まえられてくすぐったくて仕方ない。たまらず身をよじったらベッドから出てしまった。

「一緒に寝るんじゃなかったのか?」

「クラウスがくすぐるからだろ。」

頬を膨らまして抗議するとまた笑いながら掛布を上げて招き入れてくれた。

「明日はどこにいくの?また寝てる間に連れ出したりしないでよ?」

「どこにも行かないけどせっかくだからなにかしたいことはあるか?」

「じゃあなんでここまで来たの?まさか俺をお風呂に入れさせてくれるためだけに来たなんて言わないよね。」

宿を変えるなら明日の朝ひとりでゆっくり入りたいと思って聞いたのに何の予定もないなんて。

「…………だったらダメなのか?」

「駄目じゃない、凄く嬉しい。ありがとうクラウス。


嬉しすぎて顔が勝手に笑ってしまった。その上よしよしと頭まで撫でてもらって朝からずっとご褒美ばかりもらってる。

「で、なにがしたい?明日もここに泊まるから景色のいい場所でも行ってみるか?それとも買い物でもするか?」

矢継ぎ早に聞かれても急にしたい事なんてなくて唯一思い付いた事を口にする。

「えっとじゃあギルド行ったらクラウスにお礼がしたいな。俺にできる範囲でしか出来ないけど。」

そう、例えば明日のご飯とか、何か欲しい物とかね。

「あるぞ、トウヤにできるお礼で俺が喜ぶやつ。」

「え、ホント?どんなやつ?」

「随分焦らされたからな。トウヤからしてくれたらもの凄く嬉しいんだが。」

そう言って自分の唇を指先でトンとつついた。お、俺から!?

「……まだそれは恥ずかしいので別のものでお願いします。」

「じゃあ……代わりの飾り紐を作って欲しいってのは駄目か?」

残念そうな顔をしたままそう言った。

「でもまた切れちゃうよ。」

「願いが叶ったからきれたんだろ?トウヤの願いは俺が戻ってくることじゃなかったのか?」

「そりゃそうだけど……」

俺のもクラウスのも、セオのものまで切れてしまったからそんな物ではクラウスのしてくれたことに釣り合わなくて返事を躊躇してしまう。

「それにもしも切れたなら何度も作ってくれればいい。」

「──分かった。じゃあ明日ここの手芸屋さんに行きたい。」

「うんそうしよう。じゃあそろそろ寝るか。」

そこまで言われたら作らないわけには行かないよね。それに俺が作ったものを身に着けてくれるのが嬉しい。例え切れても終わりじゃなく『また』と言ってくれたのがもっと嬉しかった。

引き上げられた掛布にクラウスからもらったばかりの温かい気持ちと共に埋もれていく。

「うん。──あれ?クラウス寒いの?」

「いいや?なんで?」

「シャツ着てるから寒いのかと……」

裸で寝るはずのクラウスがシャツを来たままなのが気になって聞こうと思ったんだけどそういえば昨日はいつもどおりシャツは椅子の上にかかってたなと思い出した。

「ううん、なんでもない。気の所為だった。おやすみ。」

シーツを目深にかぶって顔を隠した。

クラウスは俺が一緒に寝るから気を使ってわざわざシャツを着たままでいるのにホントバカだな俺は。
お風呂で抱きしめられたことを思い出した顔が熱くなった。
頭までシーツをかぶってるからなおさら暑い。思い出して早打ちをし始めた心臓が落ち着くまで眠れないだろうけどいつものように左手の『お守り』におやすみなさいのキスをした。
長かった。やっとクラウスに俺のもやもやを話すことが出来たうれしい1日が終る。

「今何した?」

いきなり掛布が剥ぎ取られクラウスが顔をのぞかせた。

「なにって別に……あれ?クラウスのピアス光ってるね。色も違う……何の仕掛け?」

驚いてベッドに座ってキラキラと薄ピンクに輝くクラウスのピアスをそっと撫でた

「このピアス、トウヤのそれと対になってるって言ったの覚えてるか?トウヤに魔力を流してもらってからこうなるからトウヤがブレスレットに何かしてるのかと思ってるんだが───違うか?」

やって見せて、と待ち構えてる。それってクラウスの目の前で『お守り』にいつもの様にキスしろって事だよね。
俺を見据えたまま動かないクラウス。やるしかない。

「いつもこうやって『おやすみ』ってするんだけど……」

仕方なく目の前で『お守り』に口づけてみせるとクラウスのピアスが反応して淡く光り輝き出した。

「うん、やっぱりトウヤだった。」

クラウスが長いまつげのきれいなまぶたを伏せながらピアスのある左の耳たぶを掴んで人差し指で撫でたら今度は俺の左手のお守りがじわりと暖かくなった。

「凄いよクラウス。『お守り』がじんわり温かい。俺、ずっと気のせいだと想ってた。」

元々空の蒼色と金糸の『お守り』はクラウスの様にキラキラしてるからわずかに増した蒼色にも気がついてなかった。
嬉しくてクラウスの髪色と瞳の色を持った『お守り』を抱きしめるとクラウスが俺を抱きしめてきてそのままベッドの上に仰向けに倒れ込んだ。

「それにばっかりずるいだろ。」

クラウスの上に乗ってしまった俺の顔をじっと見た。その子供っぽい行動に少し可笑しくなってしまった俺はすごく自然にハグとおやすみなさいのキスをした。





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