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休暇と告白
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しおりを挟む「悪かったって。ほら、今少し食べないと街までもたないぞ。」
「嘘だ。絶対悪いなんて思ってない。」
「バレたか。」
さっきから機嫌の良さげなの金髪イケメンの横で限界まで頬を膨らませたブサイクが俺だ。
心地良い夢を見ていたと思ったらそれが夢じゃなくて、クラウスの膝の上でパジャマを着たままの格好で寝ぼけているのを馬車に同乗してた見ず知らずの人達に笑われる俺の気持ちがどんなものか想像出来ないだろう。
────めちゃめちゃ恥ずかしい。
王都から2つ先の街まで行くにはどうしてもこの馬車に乗らなくちゃいけなかったのはわかるけど勝手にパジャマのまま連れ出すってないよね?
俺が起きたのはすでに王都から遠く離れた隣街との中継地点。お馬さんの休憩の為に止まったところで目を醒ました俺は、誰もいなくなったキャリッジの中で着替えさせてもらった。
「起きなかったから仕方ないだろ?ほら、せっかくもらったんだし。」
そう言って俺の尖らせた口にさっきおばあさんから頂いたりんごを剥いたのをちょんちょんと当ててくる。
『あんなに可愛い顔で寝てる子は起こせないよ。許しておやり。宝物みたいに抱いてたお兄ちゃんの顔をお嬢ちゃんにも見せてあげたいね。』
着替えてキャリッジから降りてきた時同じ馬車に乗っていたおばあさんが俺の頭を撫でながらくれたやつだ。
その甘い香りに耐えきれず口を開いてしまう。
「おいしい……」
誘惑に負けた俺に満足して残りのりんごの並べられたお皿を差し出した。
「何で眠った人を連れ出して城門でとめられなかったの?こんなのまるで人拐いだ。」
「マントかぶせてたから気付かれてないぞ?まぁそれに俺は顔パスだしな。」
「それって本当に人拐いできちゃうじゃん。」
「じゃあ今回は予行練習ってことで。」
今朝王都で手に入れたんだろうサンドイッチを食べながらしれっとしてるけどクラウスくらい格好良かったら誘拐なんかしなくたってにっこり笑って『おいで』って言われたら誰でも二つ返事でついてきそうなんだけど。
「騎士が人拐いの練習してどうするの。」
「さあ?どこかで役に立つかもな。」
だからどこで使うんだっての。
おばあさんの話を聞いたらクラウスを怒れるわけなんてない。そもそも起こしたかどうかだって怪しいと思う。でもねクラウス。俺のどうしても尖ってしまう唇はせっかくクラウスと一緒にいるのに眠ってその時間を無駄にしてしまったからなんだけどな。
そこから先は馬車の揺れの誘惑に負けることなくクラウスと時折互いの話をしながらお昼頃王都の隣の街シトラについた。でもお昼ごはんを食べたらすぐまた馬車に乗って更に向こうのウォールという街まで行くらしい。
ようやく目的地を教えて貰ったけれどそこに一体何があるのかは教えてくれなかった。
「俺、ギルドに行きたいけど時間あるかな?」
だってお休みの間に王都を離れるって思ってなかったから手持ちのお金が淋しい。
今食べてるご飯だってここまで乗ってきた馬車の代金だってクラウスが払ってる。マデリンからの分だってこれっぽっちも払ってないんだ。
「ここでは無理だな。明日の昼にならウォールの街のギルドに連れて行けるかも。」
「わかった。お願いね。」
自慢じゃないけどお金ならそれなりにある。増えたお金に驚いてノートンさんに言ってみたけど『住み込みなんだから寝てる時だって働いてるようなもんだ。トウヤくんの仕事量を考えたらむしろ少ない』と言って更に増やす契約書を差し出されて待ってもらった。
どうせ『桜の庭』から出ないのだから例えば今回のこの旅行費用やみんなのお土産でゼロになっても困らない。
そんなことも考えながらまた馬車に揺られて夜に到着した街はこれまで行ったどの街ともまるで雰囲気の違う所だった。
夜に着いたことも余計にそう思わせたのかも知れないけれどウォールの街は王都のギルドの通りのような人の多さとお店がひしめいていた。
「クラウス……凄いにぎやかな街だね。」
馬車を降りた辺りはまだ大人しかった街は中に踏み入るに連れて人も灯りも溢れていてまるでお祭りの夜店の雰囲気だ。屋台はあまりないけれど代わりにとにかく飲食店が多い。
「この街は観光地だからな。」
見慣れない人の多さに圧倒されて思わすクラウスの腕に掴まるとそれを待っていたかのようにまた抱き上げられてしまった。
「この街は少し治安が悪いから我慢しろ。」
「うん。」
素直にクラウスの肩に手を回し掴まった。だってはぐれたら本当に迷子になってしまいそうだ。
目の前の少し見下ろす位置にあるクラウスの横顔に安心したら宿に着くまですっかりキョロキョロしてた。
にぎやかなのはあちこちから歌や音楽が聞こえていてお客を呼び込む声もそこかしこからあがる。『お祭りの夜店』と思ったのは間違ってないみたい。そしてそれがさっきから何度も俺達に向かってかかる。
呼び込みの声を全部躱してようやく宿にたどり着いた。
こんな観光地に夜に来て空いてる部屋なんてあるのかな。ちょっとだけ心配したど無事空いてたみたいで部屋を抑えた後は夕飯を食べるためにまた宿の外に出た。
再び抱きあげられてにぎやかな通りを歩く。
「なにか目についたものはあったか?」
「ありすぎてわかんない。」
「じゃあ適当に店入るか。」
そもそも外食すらろくにしたことがないのだから見ただけでその良し悪しも判断できるわけが無い。
それにしてもさっきは俺達に呼び込みの声がかかってると思ってたんだけどそれは間違いだった。
────俺達にじゃなくてクラウスにだ。
「お兄さん、宿は決まってるかい?うちの宿は飯が絶品だよ!」
「おにいさん、寄ってきなよ今なら席用意できるよ。」
おかしいな。マント着てないのにまるで見えてないみたいだ。どうせ子供に見えてるんだろうな。いいもんねだったらクラウスだって『子連れのお兄さん』なんだから。
……と、クラウスを巻き添えにしてたけど俺の存在なんてそもそも認識されていなかったみたいだ。もしくはどうでもいい。
「いい男だねお兄さん、この後飲みに行かないかい?」
とってもキレイなお姉さんが俺の向かいに座るクラウスの隣に座ってピッタリとくっついている。
身長はもちろん俺より大きくてハニーブロンドの髪をアップにしつつ少し垂らした髪がうなじにかかって色っぽい。切れ長の目にぷっくりした赤い唇。そして何より面積の少ない服が大きな胸をギリギリ隠していた。
大人の女性のそんな姿は目のやり場に困ってしまう。
「連れがいる、あっちにいけ。」
クラウスのぶっきらぼうな物言いにクラウスの肩に手を置いたままお姉さんが。俺を見た。でもすぐに視線をクラウスに戻す。
「子守なんて寝かせたら終わりだろ?ここでまってるからさ、あたしと遊ぼうよ。」
「あっちに行けといってる。」
クラウスの一段と低い声に「なんだよもう」と捨て台詞を云うと席を立って行ってしまった。
「凄いねクラウス。今の人で3人目だよ。モテモテだね。」
俺の言葉に苦虫を髪潰したような顔を見せたけどお店に入ってすぐ一人目のお姉さんに声を掛けられた。しかも全部美人でスタイルもバッチリ。
これは俺の認識を訂正しなくちゃ。クラウスは笑ってなくても向こうから寄ってくる。それもとびきりの美人が。
「悪いが食べたらすぐ出よう。」
「う、うん。」
女性に逆ナンされて不機嫌になるクラウスのイケメンぶりに感心しながらお魚ののったフォークを口に運んだけれどそのクラウスの背後にグラスを持った4人目のお姉さんが近付いていた。
だけどそのお姉さんはどっかりと隣に座り込むとクラウスの名前を呼んだ。
「3年ぶりに王都に戻ったって聞いたけどホントにキールに聞いた通りだね。」
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