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休暇と告白
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しおりを挟む今夜クラウスが迎えに来る。
そう思うと落ち着かない。でもそれ以上に丸3日も休むことへの心配はいろいろあった。
『桜の庭』に俺が来てから変えてしまったことが沢山ある。
大きい事は洗濯。前は3日に一度外の人に頼んでいたのを俺がするようにしてしまった。
「掃除も洗濯も宿舎でやってるので大丈夫ですよ。」
セオはそう言ってくれたけどあんなふうに泣くほど大変だった遠征の後のお休みを俺のために削らせてしまって申し訳なさでいっぱいだ。
それから今朝、カイとリトナには朝お茶をごちそうできない事を断っておいた。勝手にやっていることだけどお互い習慣づいてしまっているし2人は大事な茶飲み友達だ。
その他にもノートンさんが許してくれるのをいいことに俺が増やしてしまった細かな事が気になる。
でもセオもいるし俺が来る前はノートンさんがやってたんだから洗濯以外は俺がいないくらい平気かなぁ
クラウスとすごしたい気持ちと子供達から離れたくない気持ちとこの前の買い物の時みたいに淋しい思いをせたくない気持ちとセオがいるから全然平気かも知れないと思う切ない気持ちがず~っとぐるぐるぐるぐる…………
やめよう!今日はこの休みの為に前から準備してたことの仕上げをしなくちゃ。
もしも俺がいなくて子供達が淋しく思ってくれた時に気を紛らわせるのに最適な遊び。養護施設でもよくやって遊んだなぁ。楽しんでくれるといいのだけれど。
「じゃあ子供達がトウヤくんがいなくて淋しくて仕方なくなったらこれを渡せばいいのかい?」
「淋しくて仕方ないなんてそこまで言ったら僕が戻るまで出番がなさそうですね。」
ノートンさんに準備した遊びの仕掛けを託す。セオもいるんだ。最後まで出す機会がないかも知れない。それはそれで複雑な気持ちなんだけどその時は日々の遊びにやればいいことだ。
お昼寝の時は3日間会えない寂しさに多めにハグちゅうしてしまい危うく眠気を飛ばしてしまう所だっだ。
午前中やお昼寝中にはローテーションで掃除してる所をこなしておいた。それから夜になってマリーとレインにはそれぞれの部屋に戻る時に。小さい子組には眠った後におやすみのちゅうをした。
そして今はパジャマから服を着替え荷造りの真っ最中なんだけど、昨日決まったのと子供達に内緒になったから支度がギリギリだ。
今着てるものは明日着るとして3日分の着替えと小物とパジャマにタオル。必要なものをベッドの上に並べて行く。
そしてこの時点で旅行慣れしてないことによる大きな問題が起きていた。
この荷物をどうするか。
俺の持ってるかばんはクラウスから貰った肩掛けと大きすぎるかばんだけ。いくら着替えが冬物と言っても大きな方の半分程度だ。
その時部屋の扉が控え目にノックされドアを開けるとセオが立っていてちょっと驚いてしまった。
「すみません、ノートンさんかと思ったので。こんばんは。もういらしてくれたんですか?」
「こちらこそすみません。ノートンさんからこれを預かったので。それとクラウスさんも一緒に来ました。準備が出来たら執務室に来るようにって。」
そう言ってセオが差し出したのは旅行用のトランクだった。迷惑を掛けてしまうのにノートンさんからの気遣いが嬉しい。
お礼を言って受け取り、急いでトランクに荷物を詰め込むと肩掛け鞄を下げ、トランクを持って廊下に出るとセオが待っていてくれた挙げ句トランクを持とうとしてきた。
「セオさんこのぐらい自分で───」
持つ。と言おうとしたら自分の口に人差し指を立て静かにと示し俺が慌てて口を抑えたタイミングでトランクを奪われてしまった。
にっと笑ったセオに「ありがとうございます」と、口パクでお礼を言ってお任せした。何から何までお世話になります。
「トウヤさん、俺のことは気にせずちゃんとお休み楽しんできてください。これはいつも弟達を見守ってくれてる恩返しなんですから。」
執務室の前まで来たらセオが振り向いてそう声を掛けてくれた。
「……はい。ありがとうございます。」
本当はセオへの申し訳ない気持ちがいっぱいなんだけどノートンさんの様な優しい笑顔で言われたら『すみません』より素直にありがとうという気持ちを伝えるべきだと思った。
その答えに満足してうなずくと執務室のドアをノックした。
「セオです。入ります!」
ノートンさんの『どうぞ』の声に突然両足を揃え姿勢を正して敬礼したのでびっくりした。
「やだなぁ癖なんです。」
うっかりやってしまったと云う顔でドアを開けながらいつものセオになるので面白くて笑ってしまった。これはあれだ、先生にお母さんていうやつだ。
「ふふ、ふふふ。」
「やあ、トウヤくん楽しそうだね。トランクは丁度だったかい?」
「ふふ、はい。ありがとうございます。ホントに丁度良くて助かりました。」
「何がそんなに面白いんだい?」
「いえ、いまセオさんに騎士隊式のドアの開け方を教わってたんです。ふふ。」
そう返事をしながら部屋に入れば嫌でもノートンさんの向かいに座るクラウスが目に入ってしまった。
昨日逢ったばかりなのにまた逢えてしまった。しかも今夜から丸3日一緒にいられるのだ。
「なんかそのコート懐かしい。」
こう云う時は『こんばんは』とか『いらっしゃい』とかなのかな?でもつい冒険者のクラウスが来ていた黒のロングコートに目が行ってしまった。
「だろ?セオ、トランクをもらおうか。」
クラウスが立ち上がって隣に立つとセオが小さく見える。トランクを受け取ったクラウスはそのまま魔法の鞄に入れてしまった。うん、何回見てもびっくりする。
「それではしばらくお借りします。」
「そのトランク、大事なものだからちゃんと『桜の庭』に返してもらうよ。」
「もちろんですよ。」
ノートンさんも驚いたのかな?トランクの事なのになんだかこれは『お義父さん、娘さんお借りします』みたいな会話で面白くてまた可笑しくなってしまった。でもなんだか笑うのは2人に申し訳なくて頑張って我慢した。
「じゃあ行こうか。」
「は、はい。ノートンさん、セオさんお休みありがとうございます。行ってきます。」
「うん、行っておいで。クラウスくんトウヤくんを頼むよ。」
「トウヤさん行ってらっしゃい。」
こうしてノートンさんの執務室で2人に見送られ、俺達は裏口から『桜の庭』の外に出た。
もちろん外は真っ暗だけど日付を跨ぐにはまだ1時間以上あった。
「これからどうするの?」
取り敢えずクラウスに付いて歩き出す。この先の予定をまるで知らないままだ。
「今夜は王都の宿に泊まって明日朝早く出よう。寒くないか?」
「うん大丈夫。」
だって今夜から2人きりだと思うとさっきから顔が熱い。外が暗くて良かった。今まで2人でいる時どうしてたっけ。
「なあトウヤ」
「うん、なに?」
歩き出したクラウスの足が止まった。身長差のせいで近くにいても暗くて顔がよく見えない。
「ただいま。」
改めて口にしたクラウスは今どんな顔をしているんだろう。だけど見えなくて丁度いい。じゃないと俺は意気地なしだからまた出来なかったかも知れない。
「おかえりクラウス。無事に帰ってきてくれてありがとう。」
そうして俺は初めて、『好きな人』に自分からハグをした。
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