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騎士とミサンガ
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しおりを挟む「どうして謝るんだい?」
光の反射で、問いかけるノートンさんの眼鏡の向こうの瞳が見えなくて表情が読めなかった。
「個人的にしたつもりだったんです。その事に『桜の庭』の名が伴ってしまうなんて思ってなくて……ご迷惑おかけしてすみません。」
やっぱりあんな子供じみたものクラウスとセオだけにしておけば良かった。アンジェラが噂で聞くなんてどれほどの人が誤解してしまってるんだろう。このままじゃ『桜の庭』の名前を貶めてしまう。
「あの、今から騎士団に伺って謝ってきます。」
「待ちなさいトウヤくん、そうじゃないよ。」
立ち上がった俺の手を掴んだノートンさんの眼鏡の向こうの瞳は優しい金色だった。
「謝ると言うなら私の方だ。団長からお礼を云われておもわず頷いてしまったからね。セオも何も云わなかったからそうしておいた方がいいと思ったんだ。とても喜んでらしたよ『これのおかげで皆の士気が高まった』って。セオもキミからもらったと嬉しそうに見せてくれたんだよ。」
俺の手を両手で握りこんで言い聞かせるように手の甲をなでながら話してくれたおかげで縮んでしまった心臓が戻る感じがした。
「僕のした事……迷惑になってませんか?」
「なってないからそんな顔しないで座りなさい。みんなが心配するだろう?」
そうだ、マリーとレインがいたんだった。俺と目が合うと二人とも小さく息を吐いた。
「あ………」
「ふぅ。トウヤってホント怖がりね。」
「ノートンさんは少々のいたずらしても怒らないから安心しろよ。ほら、座って。」
そんな風に慰められたらなんだか恥ずかしくなってしまった。
「何よ、じゃあ結局トウヤが用意したものって事でいいの?安心して、むしろ今凄い噂なんだから!お願い、何処で手に入れたか教えて!」
俺のせいで妙な雰囲気になってたものをアンジェラのハイテンションでかき消してくれた。
「でも何が『凄い噂』なの?俺が差し入れたのこれだけど……」
左手の袖をまくって見せた。クラウスの『お守り』に並べて結んだ『クラウスが無事に俺のところに戻ってきますように』って願を掛けて編んだミサンガだ。赤青黒の中に見た目じゃわからないけど蒼色が織り交ぜてある。
「そうこれよ!討伐遠征と言ったら実力者揃いなのよ。その騎士様達が全員お揃いで身に着けてたものだからすっごい評判なんだから。ねぇトウヤお願い。何処で手に入れたかだけでいいから。」
「あの……そんな大したものじゃないよ。これ、俺が作ったやつなんだ。」
「「「ええ〰〰〰〰?」」」
「だったらトウヤ私も欲しい!」
「俺も!なあみんなの作ってくれよ」
「待って!私が聞いたんだから私が最初よ!」
「こらこら、そんなにしたらトウヤくんの細い腕が折れてしまうよ。」
3人に掴まれて引っ張られた腕をノートンさんが取り返してくれた。
「トウヤくんはそんな不思議なものまで作れるのか。それは何か特別な物なのかい?」
「特別なんて事ないです。ただこの飾り紐は願い事を込めて編んだものを身に着けて、それが自然に切れた時に願い事が叶うと云われています。実際そんな事はなくてただの飾り紐なんですけど討伐遠征のように1つの目的の為に大勢で何かをする時に応援する気持ちを込めて贈る習慣があったもので…その……。」
クラウスに俺ができるお返しのついでだなんて言えない。取り敢えず実演しようと部屋に刺繍糸を取りに行ったところでベッドに置かれたドレスに一瞬驚きつつ急いでプレイルームに戻った。
「この前これを買いに行ったのね。」
並べた色とりどりの刺繍糸を手に取り眺めながらマリーの瞳がキラキラする。
「ごめんね、二人のは後また作るね。アンジェラ、好きな色選んでくれる?」
「え?いいの?だったらやっぱり騎士様達と同じ物がいいわ。」
それならまだ沢山あるから大丈夫。30本も作ったばかりだからとにかく無心で高速で編んでゆく。だって洗濯物取り込まなくっちゃ。
「これ簡単でしょう。アンジェラ続きやってみる?」
「え?嫌よ。私不器用だもん。トウヤの作ったキレイなのがいいわ。」
アンジェラの返事は俺にミサンガづくりを手伝わせた施設の女子達とまるで同じだ。
「ふふっしょうがないなぁ。」
懐かしさが溢れてしまう。今はなんだか遠い思い出。今日は髪を結ったりもして思い出に浸る日みたいだ。
「出来た。これでどうかな?」
「凄い。本当にトウヤの手作りなのね。どおりで手に入らないはずだわ。」
出来あがったミサンガに満足してくれたみたいで俺も嬉しい。
「トウヤくん、私にも見せてもらってもいいかい?」
「はい、どうぞ。」
たった今編み上がった物を差し出すとノートンさんまで興味深げにミサンガを手にとって見ている。ただのおまじないにそんなに関心を持たれるといたたまれない。
「ありがとう、ただの糸がこんな風になるなんて不思議だね。」
返してもらったものはそのままアンジェラの手に移ったところで俺は洗濯物を取り込む作業に入った。
少し時間も押してしまったし、シーツを掛けて他のものは夜にでも畳もうかな。アンジェラが帰る前に髪も結ってあげなくちゃ。その時に話ができるかな。
騎士隊の人達に渡したミサンガを欲しがったのはやっぱりクラウスも持っているからだろうか。だってあんな物を他の人が欲しがってるなんてにわかに信じ難い。
話したらきっと嫌われてしまうよね。それともまだ気持ちを伝えてもいないから相手にもされないだろうか。俺なんかクラウスに勿体ないって云われちゃいそうだ。
でもたとえ嫌われてしまっても素直で優しいアンジェラにクラウスとの事を云わないでいるなんてできない。
「俺に勇気をくれる?」
縋るように左手の『お守り』に口づけた時だった。
「手伝うわ。二人とも飾り紐に夢中なんだもん。」
心の準備が整う前に不意に現れたアンジェラに驚いたけれどその後に続いた言葉がそれ以上に俺の心臓を跳ね上げた。
「トウヤって私に何か言うことがあるんじゃないの?」
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