迷子の僕の異世界生活

クローナ

文字の大きさ
上 下
91 / 333
騎士とミサンガ

91

しおりを挟む



予告どおりに前回と同じ頃、馬車が正門にやってきた。

門扉が開かれると馬車の扉が開けられ、侍従さんにエスコートされてアンジェラがふわりと降り立つ。

ぱっちりしたレモン色の瞳。ハーフアップに編み込まれた赤い髪。ほんのり赤いルージュの唇がキメの細かい白い肌によく映えてとても愛らしい。

「本日もよろしくお願いいたしますわ。」

ノートンさんにうやうやしく挨拶をする姿はまさにお姫様だ。

「今日はお土産もありますの。運んでもよろしくて?」

前回来てくれた時と違ってその貴族らしい様子に戸惑いながら大きな箱を3つ抱えた侍従さんを取り敢えず食堂に案内した。

「あの……お嬢様こちらの方は……」

アンジェラの後ろについてトランクを持っていたメイドさんがなぜかおろおろしながら尋ねる。

「あ、それはそのへんでいいわ。」

指先で示された壁際に戸惑いつつそのトランクを置き隣に立つ。

「何してるの?あなたも帰っていいわよ。」

「ですがお嬢様……」

「前の時も私ひとりでしたわ。お手伝いに来た私が侍従を連れているなんておかしいでしょう?さっさとお帰りなさい。」

メイドさんに掛ける声は少し冷たい感じだった。云われたその人は仕方なさそうにノートンさんに一礼すると馬車に乗って行ってしまった。

「さてと。トウヤ、着替えるからお部屋貸して!」

振り返ったアンジェラはこの前の、子供達とはしゃいだ時と同じ笑顔だった。

「うん、マリー、サーシャ俺の部屋に案内してあげて。」

「「はーい。」」

前と様子の違うお姫様然としたアンジェラに戸惑っていた子供達もホッとした顔になった。
着替えに使うのは小さい子部屋でもいいかと思ったけれど一応鍵もかかるし俺の部屋にした。

「おまたせ~。ね、ドレスをトウヤのベッドの上に置いたままだけどいい?」

シャツの上にざっくりとしたセーターを来てパンツ姿のアンジェラに変わって2階から降りて来たけれど髪は来たときのままだった。

「それでドレスがシワになったりしないなら構わないよ。ところで今日は髪型変えないの?」

俺の世界の女の子とほぼ変わらない格好なのに髪だけ凝って結いあげているからなんかちぐはぐだ。

「この前適当に結い直して帰ったら『何をしてきたの』ってお母様にうるさく聞かれちゃったからこのままでいいわ。」

そうだとしても走り回ったら結局崩れてしまうんじゃないだろうか。
アンジェラが箱の中のお土産のお菓子を子供達に披露し始めたのでその間に小さい子部屋に足を運ぶ。

「マリー、ちょっとアンジェラの横に座ってくれる?」

「「なあに?」」

「ちょっとだけ、できるかどうか確認するからマリーに協力して欲しいんだ。」

不思議がるマリーとアンジェラに持ってきた櫛とリボンを見せた。施設にいた頃毎朝の日課だった女の子たちのスタイリングをしていたのが懐かしい。小学生から高校生まで好みや流行りにうるさくて時間ギリギリまで編み込みとかしてあげていた。
普段のマリーは薄紫の長い髪を二つ結びが定番で、最近は自分で結んでいる。久し振りの感覚を楽しみながら癖のないそのきれいな髪をアンジェラを真似ながら編み込んでいく。

「どうかな?アンジェラみたいに毛先を巻いてないから違って見えるかもしれないけど。」

二人は自分のがわからないだろうから出来具合をレインに尋ねる。

「いや、俺に聞かれても……一緒?」

「凄いわトウヤ!じゃあこれ解いてもいいのね!」

頼りない返事のレインの横でマリーの髪型を確認したアンジェラはさっさと自分のリボンを解いてポニーテールにしてしまった。

マリーは気に入ったらしくそのままでいいと言ってみんなと一緒にご機嫌で庭に飛び出して行った。

「トウヤくんは髪まで結って上げられるのかい。いや、驚いた。」

「孤児院にいた頃毎日やってましたから。久し振りで楽しかったです。」

頂いたお土産を箱に収めながらノートンさんが驚いてくれたけどこのくらい夏祭りに髪型が決まらなくて何度も結い直しをさせられたのを思い出せばなんてことない。

庭から聞こえ始めた賑やかな声を聴きながら洗濯の終わったシーツを干すことにした。

セオがいない子供達の寂しさをアンジェラが埋めに来てくれると思わなかった。ドレスを着ている時はお姫様なのに本質はとっても気さくで子供達と全力で遊んでくれる。本当にいい子だ。
でも今日の俺にはちょっとだけ心配事がある。

「話、できるかなぁ。」

勇気が欲しくて左手のお守りをそっと撫でた。


お昼ごはんが終わって後片付けをした俺は、アンジェラに話したいことがあるのに二人きりになる機会がなくて話すタイミングを見つけられないまま小さい子組のお昼寝前の読み聞かせをするべくプレイルームに向かった。

部屋では小さい子組が椅子に座ったアンジェラが絵本を読んでくれるのをマットレスの上でゴロゴロしながら聞き入っていた。

「あ、お待ちかねのトウヤが来たわよ。」

アンジェラの凛とした心地の良い声に聴き惚れているのに俺を待ってたなんてお世辞でも嬉しいよ。椅子に座ろうとしたらディノがトコトコ歩いてきた。

「駄目よトウヤ。私じゃ眠れないみたいなの。」

膝にぎゅうってしがみついて可愛い。

「おねえちゃんじゃなくていいの?」

「とおやとねんねするう」

嬉しくて可愛くて抱き上げたディノにハグちゅうするとサーシャが「はやく」と服の裾を引っ張った。

アンジェラから絵本を受けとるといつものお昼寝スタイルでマットレスに仰向けで寝転ぶ。俺の横にディノとサーシャが寝転んでその外側にロイとライが絵本を覗けるように頭をピッタリ俺にくっつける。

アンジェラに読んでもらっていたからか、俺が読みだしたら5分もしないうちに寝息を立て始めた。潰さないように身体を起こして寝顔の髪におやすみのキスをする。

「あんなに懐いてくれたのにお昼寝はトウヤじゃないと駄目なんて妬けちゃうわ。」

子供達にハーフケットを掛けるのを手伝うアンジェラのつぶやきは俺へのご褒美かな。

「それにしてもアンジェラ、今日はどうして遊びに来てくれたの?」

「そうだね、うちは子供達が楽しそうで助かるけど。」

マリーの質問にノートンさんも同調する。きっとずっと聞きたかったんだろうな。それは俺も同じ。

マリーとレインとノートンさんのいるテーブルに椅子を戻して座って貰うと言いにくそうに口を開いた。

「ん~と……ちょっとお父様と喧嘩しちゃって。」

その理由にどう返事をしたら良いものか迷ってしまう。

「あ、でもそれだけじゃないのよ!ほら、騎士団が今討伐遠征に行ってるでしょ?その騎士団の方々がお揃いてつけてたってゆう飾り紐が欲しいの。『桜の庭』の子供達からの差し入れだって噂で聞いたんだけど……」

「ノートンさん、俺たち差し入れなんかしてないよな?」

顔の前で合わせた掌をもじもじさせながら尋ねる仕草が可愛いけれど2つ目の理由にも驚かされてしまった。セオは気を使ってそんな風に言ってくれたんだろうか。

「そうだね、私も見送りに行った時団長さんにお礼を云われて驚いたんだけど───」

「はい、俺です。勝手なことしてごめんなさい。」

集まる視線に申し訳なくてとにかく謝るしかなかった。





しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった

藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。 毎週水曜に更新予定です。 宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。

物語なんかじゃない

mahiro
BL
あの日、俺は知った。 俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。 それから数百年後。 俺は転生し、ひとり旅に出ていた。 あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?

処理中です...