迷子の僕の異世界生活

クローナ

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騎士とミサンガ

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「───これはこれは。どおりでカイとリトナが配達の当番を譲らないわけだ。」

「なんだ二人がどうかしたのか?」

「いや、今日はここで昼食を食べるんだよね。準備は終わったかなって思ってね。エミリア。」

受付の女の子のお手伝いをしていたエミリアさんが顔を上げた。

「はい。ルーデンスさん。」

「健康診断はこれで終わりだからみんなを案内してあげて。」

「はい。じゃあ皆さんまた私についてきたくださいね。」

「「「はーい。」」」

そろそろお腹の空いた子供達は姿勢を下げてにっこり笑ってくれたエミリアさんにいいお返事をしてから後ろをついて廊下に出る。カルガモみたいで可愛い。

「では今回も世話になったね、ルーデンス。」

「どう致しまして、それではまた三月みつき後に。」

ルーデンス先生が手を差し出してノートンさんと握手を交わした。

「見学に僕まで診て頂いてありがとうございました。」

ノートンさんに続いてお礼を云った俺には背中にそっと触れて廊下で待つ子供達の方へ送り出してくれた。

「構わないよ。じゃあまたね﹅﹅﹅。トウヤくん。」


水晶の部屋を出て案内されたのは会議室の様な部屋だったけれど、既にテーブルセットされていた。
みんなで腰掛けて待っていると配膳カートを押して部屋に入ってきたのは見知った顔だった。

「お待たせしました。お昼お持ちしました。」

「カイさん、リトナさん。ご苦労さまです。」

立ち上がって手伝おうと思ったのにリトナさんにそれを止められてしまった。

「トウヤさんは今日はお客様なので座っていてください。」

「でも……」

「トウヤくん、こう云う時は甘えさせてもらいなさい。」

「…………はい。」

ノートンさんにまで言われたら大人しく座るしかない。だけどそもそも俺の仕事だと思ってるものを準備してもらった上にこの2人に給仕してもらうのはなんだか申し訳ない。
だって俺はずっと誤解してのたけど、カイもリトナもご飯を配達する人なのではなくて、『桜の庭』の子供達の健康管理や怪我の治療の為に『ついでに』ご飯を運んでくれている治癒士の卵なのだ。

申し訳ないと思いながら座っているところに料理が並ぶのはやっぱり嬉しい。しかも今日はスープとサラダにグラタンだ。

「わぁグラタンなんて僕が来て初めてですね。」

「ええ、寒くなってきたのとせっかく教会で召し上がるのでぜひ熱いうちに食べて欲しいと料理長が張り切ってました。」

「じゃあその熱々を頂こう、みんな火傷しないようにね。」

「「「はーい。いただきまーす。」」」

熱いうち、とはいえ小さい子組のものは火傷しない温度に配慮されていて有り難い。みんなの分をふうふうしてたら俺が酸欠になってしまうものね。

ディノのサポートをしながらポテトとほうれん草とベーコンのゴロゴロ入ったグラタンを口に運ぶ。

「美味しいね。」

「ね~。」

ディノもバクバク食べている。さっきルーデンス先生も言っていたけれど最近みんなもよく食べる。『桜の庭』に来た頃は遊び食べの多かったディノもひとりで食べ進めるようになってきている。

食べ切れるように量を調節してるからお皿が空っぽに成る達成感も刺激されていてその結果残ってしまう量が減っている。
でも今日は調節してないから小さい子組は少し多いけど食べきれるだろうか。教会で頂いてるのに残してしまったら張り切ってくれた料理長に申し訳ない。



「ほら、食べてやるからお皿寄越して。」

───レインが声を掛けたのは俺でした。頑張ったんだよ。でもね、スープもサラダもグラタンも普段俺が使ってる器より大きいんだよ。

「……お願いします。」

配膳をしてくれたカイとリトナがこの場にいなくて良かったと思いながらグラタンのお皿をレインに渡した。

「半分しか食べれてないじゃない。今日からいっぱい食べて大きくなるんじゃなかったっけ?」

マリーがニヤニヤしながら測定の時に言った俺の言葉を持ち出した。

「スープとサラダは全部食べたんだから褒めてよ。」

「とおやいいこいいこ。」

ふてくされる俺のほっぺを横からサーシャの小さい手がなでなでして慰めてくれた。

俺のお残しをレインが平らげてくれたところで『桜の庭』へ戻ることになった。

「まだ時間があるから少し広場で遊ぶかい?」

外へ出たところでノートンさんの提案に子供達は歓声を上げて芝生へ走り出す。

「トウヤも行こう。」

レインが手を取ってくれたけどお腹いっぱいでちょっとだけ休ませてと断ってノートンさんと一緒にベンチに座った。

「俺の分まで食べたのによく走るなぁ」

あっとゆう間に始まった鬼ごっことレインに感心してしまう。

「そうだね。レインとマリーが遊ばせ上手で助かるよ。」

そう言って遊ぶ子供達を見るノートンさんの顔は洗礼を受けていた両親の顔と同じだった。
その顔を見たらさっきの事を思い出してしまう。

「あと三月みつきって短いですね。」

「ああ、きっとあっとゆう間だよ。冬の二月ふたつきになったら学校へ行ったり制服の採寸をしたり忙しくなるよ。また手伝ってくれるかい。」

「もちろんです。僕見ましたよ、学校の制服。格好良いですよね。きっと2人ともよく似合うんだろうな。」

王都の街を散策した時に教会から『桜の庭』と反対の方に歩いていく姿を思い出す。

「何してんのトウヤ。早くおいでよ。」

「まだお腹苦しいから駄目。」

「もう、ほんとに少食なんだから。」

せっかく呼びに来たマリーを顔も見ずに追い返した。だって俺は両目にげんこつを作った手を押し当てていたから。とにかく出そうなものを引っ込めようと必死だった。そんな事をしてる俺の頭をノートンさんにそっとひき寄せられて頭と頭がコツンとくっついた。

「うん、今年は同じ気持ちで見送ってくれる同志がいて嬉しいよ。」

「ノートンさん、そんな事言われたら僕の努力が無駄になりそうです。」

「駄目だよ、お腹が苦しくて泣いたりしたらいよいよ大笑いされてしまうよ。」

クスクス笑いながらノートンさんに頭を撫でられてる姿なんてもうそうしか見えないだろうと思いながらノートンさんと2人。少しだけ感傷に浸った。




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