迷子の僕の異世界生活

クローナ

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騎士とミサンガ

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そっか。

知ってたけどイマイチわかってなかったんだ。

「なんだよトウヤ、俺に負けたのがそんなにショックだったのか?」

「そ、そんな事無いもん。今日からもっと沢山食べるから俺だってまだ伸びるんだからな。」

表情が隠せてなかった事に気付いてレインの的外れな言葉に助けられる。

ごまかしながら背中で指を折ってみた。

いち、にい、さん。

あとたった3月みつき。マリーとレインが学校に上がると『桜の庭』ではなく学校の寮で暮らすことになる。

どうしよう、めっちゃ寂しいんだけど。

昨日クラウスとセオを見送ったばかりの俺にはまだ先の話だけどダメージが大きい。いや、クラウスとセオは一緒に暮らしてるわけでもなくひと月後には帰ってくるけど2人はそうじゃない。

そんな気持ちを唯一察してくれたノートンさんが俺の背中を大きな手でポンポンと叩いて子供達に内緒で慰めてくれた。

見上げた俺に小さく頷いてから視線を移した先には測定した結果を見せ合う子供達がいて、金色の瞳がとても愛おしそうにマリーとレインに向けられていた。
ノートンさんはそうやって何人も見送ったんだろう。

「魔力測定もすぐ終わるからみんなもついでにやっておこう。エミリア、移動の準備を。」

「はい。」

声を掛けられたエミリアさんは子供達から問診票を回収すると箱の中にしまって棚に片付けてしまった。もう使わないのかな?

「そうだ、トウヤくんは王都の教会は初めてかい。」

「はい。」

ノートンさんに聞かれたけど王都どころか教会自体初めてですよ。キョロキョロしすぎたかなぁ。そう思うと恥ずかしい。

「そうなんだ。じゃあついでに見学していくかい?」

「「「はーい!」」」

ルーデンス先生の提案に俺より先に子供達が返事を返した。


教会の中は広いけれど大半は治癒士と治癒士見習いの教育棟と宿舎になっていて一般開放されているのは診療所、入院棟と言った病院施設とギルドの様に魔力やスキルを確認できる場所、それからあの遠くからでも見える塔の中である聖堂だった。

走り回らないように来た時と同じ様にレインがディノを掴まえて、マリーとサーシャが手を繋いで、ロイとライは俺を挟んで手を繋いでくれた。

「この先はちょっと静かにね。今から丁度洗礼式があるから見学させてもらおうね。」

この先が聖堂だと言った大きな装飾が一段と美しい扉の前でルーデンス先生が人差し指を唇に当てるととたんに子供達が口を一文字に結んだ。その顔が可愛い。

大扉を左右に開くと大きくやはり真っ白な部屋に俺のイメージの中にある教会の様に部屋の先に向かう通路の左右に長椅子が並んでいる。でもその先にある塔の真下に当たる広い吹き抜けの部分は柔らかな白い空間があるだけで豪奢な祭壇や神様の彫像はなかった。

その柔らかな光の空間の中心には大きな水晶で出来た赤ちゃんのお風呂ほどの大きさな水の入った器だけ。

そしてそこに白い詰め襟に白いローブを来た年配の男性と赤ちゃんを連れた若い夫婦がいた。

すでに洗礼式は始まっているようだったけれどローブの人もそのご夫婦も笑顔で俺たちを招き入れ1番前の長椅子に座るよう薦めていただいた。

介助についていた若い教会の人が年配の男性に小さな針を渡しそれで赤ちゃんの耳に当てた。
その後直ぐに小さな匙に持ちかえて出てきた血をすくって水晶の水の中いれるとその匙でくるりと大きく輪を描く。

すると水晶の中の水がキラキラと光りはじめ、その光に器の水晶も煌めいてとても神秘的だった。そしてその煌めきが腕の中の赤ちゃんも包み込んだ。

更に時を知らせる鐘とは違う1段高い音で教会の鐘が鳴り響く。
庭に出ていると時々聞こえてきた鐘の音はこれだったのか。

「ではこれにて洗礼の儀を終了いたします。この愛し子の人生に歓びが絶え間なく降り注ぎますように。」

二人の親は愛おしそうに腕に抱く子供を見つめていてその姿はとても幸せそうだった。

俺を捨てた親も産まれた時ぐらいはあんな顔をしてくれただろうか。

「とおや、いたいたい?」

「ろいとらいがよしよししてあげるよ」

両側からロイとライに服を引っ張られた俺は二人を抱きしめた。

「ありがとう。大丈夫だよ。」

この二人は人の感情の機微に敏感なのかな。よく見つかってしまう気がする。この年になってもまだ過去に囚われる自分が情けない。

桜木冬夜とゆう名前の理由に受けた傷は大きかったけれどそれまでに何度も、何度もこうやって誰かの父親や母親を見る度に『病気だったのかも』『生活が苦しかったのかも』と育てられない事情を探してきた。

同じ状況に置かれた仲間と特に不自由なく暮らしてきたから『施設育ち』扱いをする周りの存在を嫌いはしたけれど、存在しない両親そのものを恨むとゆう感覚は本当の所あまり持っていない。

ただただ憧れた。俺ひとりだけを無条件で抱きしめてくれる存在に。あの子に向けられるような温かい瞳に。

だからその憧れを求めて施設にいた頃はこうやって小さい子を構って過ごしていたっけ。

でも今は少し違う。憧れないわけじゃないけれど俺にも抱きしめてくれる人がいる。泣いても、我儘を云っても、見捨てずに我慢強く待ってくれる人。

左手がじんわりと暖かく感じて目をやれば、思い出した淋しい気持ちに寄り添ってクラウスがそこで笑っているように優しい蒼の石が柔らかく光っていた。




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