迷子の僕の異世界生活

クローナ

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雨降り

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大声で叫んで抱きつかれそうになり身を縮めて身構えた。
でも抱きつかれる代わりに後ろから肩を掴まれ目を開けた。

「ギルド内の魔力行使は控えて下さい!」

魔法なんて使えないのにお団子お姉さんが肩を掴んだまま怒った顔で俺を見てる。

「痛たたた。ヒドいな突き飛ばさなくてもいいじゃない。確かに驚かせたかもしれないけどさぁ」

声に振り向けば抱きつこうとしたお姉さんが2メートルくらい先で尻もちをついていた。

「だ、大丈夫ですか?」

慌てて近寄り助け起こすとカウンターからお団子お姉さんが出てきて俺に向かって怒り出した。タダでさえ高い身長がハイヒールのせいでクラウス並に高く、『桜の庭』でこの2ヶ月近く小さい子達とまったり生活していた俺は自分がこの世界で『小さい』事をすっかり忘れていたわけで女性に見下されるこの感じが切ない。そして助け起こしたお姉さんも同じだ。

「大丈夫ってあなたがやったんでしょう?いいですか?王都ギルド内での魔法の行使は罰則対象です。そんな事も知らないで───」

「ケイト、やめなさい誤解だよ。」

女性2人にカツアゲされてるようなこの感じを少し懐かしいなんて他人事みたいに考えていたらギルドの制服を着た男性がお団子お姉さんの言葉を遮って俺の横に立った。
薄ピンクの長い髪を編んで肩に垂らした糸目のお兄さんは更に背が高くて外から見る人に俺見えてんのかなぁ。

「でも!」

「今の魔法はこの子じゃなくてこっち。そちらのお嬢さんの行動に反応して発動したんだよ。だからお嬢さん、キミを突き飛ばしたのはキミの力だ。ヒドいと思うならその勢いで抱きつこうとしたお嬢さんの方だよ。」

俺の左袖をめくって『お守り』を2人に見せてそう言った。え?これの所為?ほんとにそうなら彼女が床に転がったのは俺の所為だ。

「ごめんなさい、俺、びっくりして……」

「ううん、私が悪かったみたい。キミに会えて嬉しくて。だからごめんね。」


間に入ってくれた男の人は王都の副ギルド長さんで『それにしても随分と過保護なものですね』と笑ったあと俺達2人にテーブルで話すことを奨めてくれた。クレーマーさんはラテ屋のお姉さんだったんだ。

「気が付かなくてすみませんでした。お姉さんの屋台のラテ美味しくてまた飲みたいと思ってました。でもなんで依頼まで出して俺を探してたんですか?」

「実はキミが美味しそうに飲んでくれるからおかげで大繁盛だったんだよ。だけどキミが来なくなった途端に元に戻っちゃって。だからね、タダにするから毎日来てくれないかな?お願いだよ。」

言いにくそうにお姉さんがもじもじしながら話す様はなんだか可愛らしい。ラテがタダなのも魅力的だ。でも……

「ありがたいお話ですがそれは無理です。あの時俺は王都に来たばかりでお姉さんの屋台の近くの宿にいましたけど今は別の所にいるので。」

「やっぱりそっかぁ……。残念、じゃあさ今ギルドの前に屋台置いてあるんだ。用事が済んだら寄ってよ。お詫びに好きなの奢るから。」

「はい、ぜひ。」

ラテのお姉さんと和解してようやくギルドのカウンターに戻ることが出来た。



「先程は大変失礼いたしました。それで本日はどの様なご要件でしょうか。」

「あのお金を下ろしたくて。」

襟を緩めて首に下げたタグを取り出してカウンターに置くとお団子お姉さんが咳払いをした。

「コホン。例えご家族様でもご本人でないとタグは反応いたしませんのはご存知でしょうか。」

「はい、知ってます。」

王都のギルドはこうゆう説明も毎回するのかな?大変だなぁ

「それから偽造などされますと犯罪ですので騎士団の方へ連絡が行くこともございます。」

「へぇ~そうなんですか。なら万が一落としても安心ですね。」

愛想笑いをしてそう返事をしたらなぜかお姉さんの営業スマイルが引きつった気がした。俺なんにもおかしな事言ってないよね?

……違う、これあれだ、子供だと思われてるんだ俺。そう言えば前に来た時はクラウスと一緒でしかもマント貸してもらってたんだった。
時間が限られてるから正直早くして欲しい。目を付けてある手芸屋さんで目的の物がなかったら別のお店も覗いてみたい。

「ではこちらにタグをのせていただけますか?」

お姉さんが小さくため息をついた後ようやくガラスプレートを出して手続きを始めてくれた。プレートがほわんと光って文字が浮かぶ。

「本物だったでしょう?」

疑ってたの気づいてたからねアピールをしてみた。俺だって傷つくんだからな。

「た、大変失礼しました。現在残高はこの様になっております。出金額をおっしゃって下さい。」

そう言えば文字が読めるようになってギルドに来たのは初めてだった。浮かび上がる文字に目を走らせる。

そこには久し振りに見る自分のフルネーム。『トウヤ=サクラギ』文字が違うからか以前ほど嫌悪感は無いから不思議だ。
年齢もスキルも読めた。なんだか嬉しい。でもやっぱり出身地と魔法属性は文字がぐちゃぐちゃしてて読めなかった。自分がこの世界の人間じゃないと知られてるみたいで胸がツキリと痛んだ。

でも今はその辺りはどうでもいいや。肝心の残金だ。手持ちのお金がほとんど無いので欲しいものがいくらになるかわからないけど5万円分くらいあれば手元にもいくらか残って今のようにすべてを『桜の庭』で賄ってもらってしまうような事を回避出来るだろうか。今回思った以上に衣料品を頂いてしまって心苦しいんだよね。

「あの、この金額って本当に合ってます?」

「当然です。それともギルドが何か不正をされているとでも?」

「いえ、多かったので……大丈夫です。はい。」

思ったより残高があってびっくりした。俺の給料って一体いくらなんだろう。もらい過ぎなんじゃないだろうか。あの頃は文字が読めなくてサインをするのが精一杯だった。帰ったらノートンさんに聞いてみよう。

結局、あまり小さくしても硬貨ばかりで重たいので銀貨3枚と銅貨20枚と白銅貨18枚にしてもらった。紙のお金ってなんて便利だったんだろう。
落とさないように肩掛けかばんにお金の入った巾着をしまった。

ギルドを出ると目の前にラテの屋台が来ていた。

「何にする?」と聞かれ久し振りなのでやっぱりクリームたっぷりのココアラテにしてもらった。それとあのシロップたっぷりのドーナツをお土産にしたくて袋いっぱいに入れてもらった。

「なるべくゆっくり飲んでね。」

お姉さんがニッコリ笑っておまけだとカップにドーナツも入れてくれた。
行きに早歩きしたおかげでお姉さんとのトラブルがあっても予定時間内だ。ゆっくりココアラテを飲む時間はある。

俺はギルドの入り口の階段の端の方に腰掛けた。

「あま~い。」

久し振りに飲んだココアラテはやっぱり俺の好きな味で嬉しくなってにへっと笑ってしまう。ラテ屋のお姉さんが手を振っていたので俺も手を振って応える。

「心配してきてみれば顔にクリーム付けて愛想振ってるとか。ほんとに退屈しないな。」

頭上から聞こえた声と同時に不意に伸びてきた手が俺の鼻についたクリームをすくった。




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