迷子の僕の異世界生活

クローナ

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雨降り

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聞き慣れない声に驚いて目を開けると知らない女の子が立っていた。

柔らかい薄いレモン色のドレスを来た俺と同い年くらいに見える女の子だ。真っ赤な髪をハーフアップに結あげてドレスと同じレモン色の瞳が俺を睨んでいた。それでも驚くほど可愛いお姫様みたいな娘だ。

「え?あの、誰?」

俺がびくっと震えたせいかノアルが泣き出してしまい同時にディノも起きてしまった。

「あ~よしよし、ごめんねノアル、ディノ。」

抱き上げてあやすと横からディノも抱っこしてほしそうにくっついてきた。寝たばかりを起こされたから当たり前だ。泣くノアルとグズグズのディノをあやしてるうちにロイとライも起きてしまう。

「起きたのならさっさといらっしゃいよ。」

確かにこれじゃあ流石にお昼寝出来ない。

「お茶のみに行こうか。ロイとライは?」

「とーやといく。」

2人も目を擦りながら立ち上がった。

誰なんだろう。俺と身長が変わらない女の人なんて初めてかも知れない。しかもドレス姿。間違いなく『貴族様』だよね。

そんな彼女の後ろについて歩く形で食堂に向かうとやっぱり来訪者はエレノア様だった。

「エレノア様!残りの者を連れてきましたわ!」

中に入るなり誇らしげに言い放った。

……別にあなたについてきたわけじゃありませんけどって思ってしまう。

「まぁありがとうアンジェラ。皆さんこんにちわ」

「こんにちわエレノア様。すみません、みんなお昼寝の時間だったもので。」

「ええノートンから聞いてるわ。そのままで良かったのにアンジェラが起こしてしまったかしら。」

「そんな事ありませんわ!寝ていたのはこの者だけです!」

は!?

『アンジェラ』と呼ばれたその娘に、ビシリッ!と指を刺された。突然の言い掛かりに声が出ない。ナニ言ってんだこいつ。確かにウトウトしてたけどさぁ……

「すみません、僕ちょっとノアルのおむつ変えてきます。」

ロイ達のお茶をお願いして腕の中で再び泣き出したノアルを理由にリネン室まで逃げ出した。ディノも離れないので手を繋いで一緒に連れてきた。

リネン室の作業台の上にはおむつが変えやすいように小さなマットレスを置いてある。そこにノアルを寝かせると代わりにディノを抱っこしながらおむつ替えの準備をする。

「とーやのどかわいた。」

俺の胸に頭をぐりぐり押し付けながらディノが甘える。可愛いなぁもう。

「ちょっとだけ待てる?ノアルのおむつ替えたら一緒に。ね?」

そう言えばこくんと頷いてくれたディノのほっぺにちゅっとして足元に降ろすと手早くおむつを交換した。

台所にこの前のメイドさんがいたのでお湯を分けてもらってノアルの白湯も準備して食堂に戻った。
今回はユリウス様の様な護衛の方は付いて来てはいないみたいだ。

「ミルクじゃないの?」

マリーが傍に寄ってきて白湯を飲ませる俺に不思議そうに聞いた。

「うん、寝起きだしね。それにまだミルクの時間までは早いかな。」

「それお水?」

「違うよ。お湯を冷ましたものだよ。」

「お水じゃダメなの?」

「うん、お腹壊しちゃうからね。」

気がつけば子供達とエレノア様まで俺の周りに集まっていた。

「ノートンから聞きましたが本当にナニーの様ね。」

「あ、ありがとうございます?」

褒められてるんだよね?返事をしながらノアルにゲップをさせると「まあお行儀が悪いのね。」とさっきの娘だ。赤ちゃん相手に何言ってるんだろう。

「エレノア様、先日は僕にまでコートをありがとうございました。」

「いいえお礼を言いたいのは私の方よ。『桜の庭』の子供達からお手紙を頂くのなんて初めてでとても嬉しかったの。だからみんなの顔が見たくて来てしまったわ。小さな子供達の絵にもあなたが解説を付けてくれたでしょう?私を描いてくれているのがよくわかって本当に素敵なお手紙だったわ。」

子供達を褒められて凄く嬉しい。エレノア様の笑顔にもつられて俺も自然と笑顔が浮かぶ。

「その子抱かせてもらっても良いかしら?」

「はい、ぜひ」

赤ちゃんを抱っこするのは久し振りだと言うので子供達に抱かせる時と同じ様に座って頂き、腕の形を決めてもらってその上にそっとのせる。

「あぁ懐かしいわこの感じ。孫を抱いて以来ね。初めましてノアル。」

ノアルを抱くエレノア様を子供達が囲むように寄ってきた。

「ノアル、この度は大変でしたね。あなたのご両親は神様の元へ行ってしまったけれどあなたが元気に大きくなることでご両親も嬉しいわ。そしてあなたが大きくなってまた子供を育んで頂戴な。そうしてお父様とお母様があなたに繋いだ命の絆を次へ繋いでくれればそこにご両親の生きた証が残っていくのよ。」

そうか、エレノア様は子供達だけじゃなくノアルにも会いに来てくれたんだ。

「おばあ様。お父さんとお母さんだけ?私のお姉ちゃんは?」

「勿論同じですよ。」

「本当?」

マリーが目を輝かせた。

「勿論ですよ。私の孫がその証よ。あなた達には物語や絵本の中の人かも知れないけれど私の旦那様はね、『失われた皇子様』のいとこなの。フランディールの直系の皇子様達はもちろんだけど、私の孫達も妹姫様の生きていらした証なのよ。」

ちょっとだけしんみりしたマリーだったけどエレノア様の話に驚いて他の子供達も一斉に歓声をあげた。
『桜の庭』の子供達にとって『失われた皇子様』は特別な存在だ。その命が繋がっていると聞けば『絵本の中の人』から『実在する人』に変わる。

みんなの声に驚いてまた泣き出してしまったのでエレノア様から抱き上げたノアルのほおずきの瞳をあやしながら覗き込んでいたら子供達をかき分けアンジェラさんがエレノア様の手をとった。

「素敵ですわエレノア様。ぜひそのお手伝いをさせてください。私に『失われた皇子様』の証を繋がせてくださいな。」

「まぁアンジェラったら。そうねぇそうなったらうれしいわねぇ。」

「だったらもっとクラウス様に会わせてください。お帰りになった時にお会いして以来お顔も見てませんもの。」

アンジェラさんから思いがけない人の名前が出て息を呑む。

「そうね、近いうちにユリウスにでも聞いてみるわ。」

「クラウス様こちらで働かせたい方がいらしたのでしょう?なら私もお手伝いしますわ、急に赤子も預かって大変そうですもの!」

「それもそうねぇ。ノートンどうかしら?確かに乳児がいたらトウヤさんの手が子供達に回らないわよね。」

「いえ、トウヤくんはとても優秀ですしマリーやレインも手伝ってくれるので特には……」

「まあいけませんわ!子供達に手伝わせるなんて。やはり私お手伝いしに参りますわ。」

降って湧いた様な話をノートンさんがなんとか断ろうとするけれどそれを言われるとこちらも痛い。結局それ以上断ることはノートンさんにも出来なかった。
俺はもちろん黙って成り行きを見守る事しかできなかった。


「では明日参りますわ。」

そう言ってエレノア様とアンジェラさんは帰って行った。

「すまないトウヤくん、断りきれず。明日、君には迷惑を掛けてしまうかも知れない。」

ノートンさんが気不味そうにしているけど断れる雰囲気じゃなかったのは俺でもわかった。

「いえ、ノアルを見る分子供達に手が回らないのも本当ですから。それに子供達も喜んでましたしね。」

何しろ絵本のお姫様みたいにきれいな娘だ。マリーやサーシャは当然で明日遊びに来てくれると聞いて子供達は喜んでいた。


その夜は以外にも中断したお昼寝の影響はあまりなく、サーシャがずっとあくびをしながらご飯を食べたり、ディノがシャワーの間ほぼ寝てたりはしていたけどそれぞれベッドに入るとまさにバタンキューと眠ってしまった。
おかげで俺もノアルと早くから部屋に戻りすぐ横に設置してもらったベビーベッドに寝かせると俺もベッドに入る。

そして長いため息をついた。
なんだか今日は長い1日だった。突然のエレノア様の訪問、そしてアンジェラ様と明日の約束。

左手の『お守り』の存在を確かめながら俺は、アンジェラさんからクラウスの名前が出てからの会話をぼんやりと思い出していた。

「……可愛かったなアンジェラさん。」

真っ赤な髪が華やかで自信に満ちたレモン色の瞳が綺麗で華奢な可愛い女の子だ。
こんな暗い真っ黒の髪の真っ黒の瞳の痩せギスの男に比べたらずっと良い。こんな俺に興味を持つんだからクラウスはソフィアみたいな女性よりアンジェラみたいなか弱い感じの娘がタイプなのかも知れない。
2人が並んで立ったらさぞかし人目を惹くんだろうな。

100年前の皇子様はエレノア様の旦那様のいとこなんだ。その証はクラウスが持っている。
そしてその証を自分が繋ぎたいとアンジェラさんは言っていた。

命を繋ぐ。

考えた事もなかった。

俺の命なんてどこにも繋がってないんだから。




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